4部目
その日の夜。
夕食の時間になって、食堂に向かった。
なぜか地下にある。
「お客さんが来たよー」
明らかに子供の集まりだと思っていたが、約一名を除いて子供そのものだとこのとき確信した。
食堂は、小さなテーブルと、それを取り囲むように椅子が数脚置かれていた。
台所から全体が見渡せ、レースのカーテンで区切られているだけだった。
「上座に来てもらおうか」
そういったのは、大尉の肩章をつけていることから、もう一人の大尉、第309小隊砲手のギガルテ・マリだと分かった。
座らされたのは、小隊長のすぐ横の席、普通だったら副小隊長が座るところだった。
「まあ、どうですか?」
小隊長がお酒のビンを勧めた。
高そうなウィスキーだった。
「いや、今断酒中でして」
自分は、やんわりと断った。
小隊長が悲しそうな顔をして、手を引っ込めた。
それから、金川大尉が手作り料理を振舞った。
「基本的に、彼女が小隊の料理長です」
「食堂は使わないんですね」
イサキ少佐は言った。
「食堂は使わしてくれないんですよ。あなたもどうぞ食べてください」
自分は、進められるままに一口食べた。
世界が変わった。
ものの5分かからないうちにすべてを食べつくした。
「では、これよりミーティングを始める。最初にうれしい知らせだ。明日、第39軍団309小隊に対して、地球派遣の辞令が交付されることになっている」
少しの拍手が出る。
「では、次。本日から、永嶋今宵大尉が本小隊に特別配属されることになった。パ・スケース少尉とギガルテ・マリ大尉はまだ見たことが無かったな」
全員がとりあえず立ち上がり、名前を呼ばれた二人だけが、一歩前に出て敬礼をした。
自分は答礼した。
儀礼的なものだが、それを行うのが筋というものだろう。
腐っても軍人なのだから。
「さて、我々は特殊部隊として、地球へ向かうことになる。何があるか分からないから、万一に備えるように。質問は?」
誰も手をあげなかった。
ミーティングが終わると、それぞれの部屋に戻って自由時間となっていた。
ここも一応は軍隊だったので、時間が厳しくされていた。
だが、309小隊の特質として、時間を気にしないというのがあった。
翌日、気持ちよく起きると、軍隊ラッパが鳴り響いていた。
別の隊のものだろうと思っていた。
だが、それでも一応確かめようと思いベッドから降り、外を見た。
小隊長がラッパを吹いていた。
「近所迷惑ですか?」
気配が無かったのに声が聞こえた。
振り向くと、スケース少尉が、そこに立っていた。
「いつの間に…」
「隠密行動が得意なんです。いつも影を薄くして生きてきたので…」
自分は苦笑いしているしかなかった。
その日の12時。
小隊長が軍団長に呼ばれた。
30分後、辞令を持って帰ってきた。
「全員、ミーティングをするから呼んでくれ」
小隊長が、初めて見せる神妙な面持ちで金川に言った。
「了解」
金川はすぐにマイクを取った。
5分もしないうちに、地下食堂に集まった。
「全員起立!」
小隊長が言った。
自分は、ギガルテ大尉とキガイ中尉の間に立った。
「本日、1200(ひとにまるまる)。軍務大臣より、辞令を賜った。内容は、本小隊を地球派遣隊とし、半月後、第3宇宙ステーションより出発とする。主目的は地球の探査、及び地球再入植の可否である。以上」
それから小隊長は、それぞれに辞令を渡した。
「その辞令は、それぞれの人に対する辞令だ。各自名前を確認してから封を開けてくれ。中にはそれぞれの指令が入っている」
自分のを開けてみると、主目的の欄がロボット先遣隊の回収になっていた。
小隊長も、隊のとは別に受け取っているらしい。
ほぼ同時に全員が開けて、その内容を読んでいた。
30秒ほどすると、イサキ少佐が手紙を折りたたみ、再び辞令が入っていた袋にしまった。
「それぞれの指令をよく読んだか?」
一瞬の間。
「順々に言ってくれ。それから優先度を決める」
その結果は、以下のとおりだった。
まず、イサキ・ミカガイ少佐第309小隊長兼派遣隊隊長は、小隊各自の行動の監視及び報告。
金川崎大尉第309小隊副小隊長兼砲手補佐は、地球環境の調査。
ギガルテ・マリ大尉第309小隊砲手は、地球周囲の環境調査。
キガイ・フラン中尉第309小隊砲手補佐は、永嶋今宵大尉の補佐。
西海平八郎中尉第309小隊小隊長補佐兼伝令は、通信設備の設置。
パ・スケース少尉第309小隊伝令補佐は、放棄された衛星の調査及び確認。
そして、永嶋今宵大尉第309小隊特命隊員兼機械系担当は、先遣隊ロボットの回収だった。
「では、重要度は?」
イサキ少佐が聞いた。
10分ほど相談してから決まったのは、次のとおり。
最初にギガルテ大尉、次にスケース少尉のを行い、西海中尉と金川大尉は同時に行う。
最後に自分のを行ってから、帰還する。
イサキ少佐は、到着から帰還まで通して行われることになる。
それぞれが作業をしているときは、それぞれの指令を受け取っている人が指示を出すことにし、他の人たちがそれを手伝うという形をとる。
ただし、金川大尉と西海中尉は平行して行うために、それぞれ半数ずつに分けて行うが、場所は同一とする。
ギガルテ大尉と金川大尉は、それぞれの調査が行える距離に近づいたら、実測を開始する。
ただし、順序は先ほど示したとおりである。
「では、ミーティングは以上。半月後までにそれぞれの持っていくものを決めておくように。バナナはおやつに入ることとする」
それだけ言ってから、解散した。