3部目
第2章 派遣隊結成
それだけ言って、イサキ小隊長はマイクを取り出して放送した。
「キガイ中尉、客室にご案内してくれ」
すぐに彼が出てきた。
この小隊で一番まともといわれている彼は、見た目は確かに普通の軍人だった。
しかし、自分はすぐに彼の怖さを思い知らされることになる。
「お呼びでしょうか」
直立不動の体制をして、小隊長に聞いた。
「ああ、新しい仲間だ。名前を永嶋今宵という。とりあえず、客室に案内を差し上げてくれ」
「了解です」
そういって、一度敬礼をしてから、自分が持ってきていた荷物を軽々と持ち上げて、案内をしてくれた。
自分は、彼に聞いた。
「ここにいるって言うことは、何らかの特技を持ってるんだろ?」
「ええ、そうです」
そういうと、客室と書かれた、汚い字であるのはこの小隊の特徴の一つらしいが、その部屋の前に止まると、扉を開けた。
「どうぞ、中に入ってください」
中は、他の部屋では想像できないような感じだった。
「まともなんだ…」
自分は安心した。
「永嶋今宵大尉、身長169cm、体重64kg、性格は温厚。第39軍団にとどまらず、惑星連合1機械に強いといわれる存在。あなたの右に出る存在は、それこそコンピューター自身であるといわれる存在」
自分は、正直に驚いた。
「すごいね。そこまで覚えているとは…」
その時気づいた。
彼は、記憶能力がとてつもなくすごいといううわさがあった。
五感のすべてを記憶し、それを整理する。
宇宙唯一の存在。
「別名、歩く百科事典…だったね」
自分は、彼に確認した。
「そのとおりです。あなたが見たとき、すべてを射抜くような目をしていた。そのすべてを覚える力です」
「頭が痛くなったりはしないのか?」
「しません」
彼はきっぱりと言い切った。
「昔はこの能力も恨みましたよ。しかし、今は慣れてしまいました。この能力と一生付き合っていくしかないんですよ」
それから彼は続けた。
「そういえば、隊長が少佐なのに、いまだに小隊長をしているのを知ってますか?他の隊員、僕も含めてですけど」
「いいや、うわさはいろいろと聞くけど、詳しくは聞いたことが無いな」
彼は、適当に腰掛けて話だした。
「小隊長は、第39軍団最凶の問題集団といわれているんです。こんなプレハブ住宅が小隊の隊舎としてあてがわれているのも、それが原因の一つです。それでも、辞職勧告を何度も出したが、隊長はやめようとしなかったんです。上層部もやめさせようと決議を出しましたが、完全に無視を決め込んでるんです。ロボット先遣隊のうわさは聞いてますよ。定時報告の電波も送ってこなかったんですってね。そんなところに僕たちを送るのは、ついでに小隊ごと消滅すればいいと思ってるんでしょう。厄介払いも出来るし、問題児も消える。一石二鳥ですね」
彼は自嘲気味に言っている。
あまりよくない徴候だ。
遠からず未来、彼は自らの意思で命を落としかねないと思う。
ちょっと困ったことになったな…
だが、彼はこういった。
「僕は、僕自身の意思で死ぬことは嫌いなんですよ。昔の彼女が…いえ、なんでもありません」
彼がそれ以上言おうとしなかった。
自分も、それ以上追及することを止め、彼はそのまま部屋から出た。
「さて…どうしようか」
自分は、とりあえず何もすることがなかったので、持ってきた荷物をほどいた。
必要になる分のみ、最低限のみカバンから開けた。
まともなソファーに腰掛けて、これからのことを考えた。
なぜここに送られたのか、なぜロボットは電波を送信できなくなったのか、なぜこの小隊は今も生き残っているのか……
疑問は尽きなかったが、満足できる答えを得ることはできなかった。