22部目
「こちら、司令塔。1号艦準備完了。予定時刻になり次第、エンジンを始動せよ」
「2号艦了解。時計合わせ、願います」
「了解。現時刻、11時57分28秒…9…30秒」
「時計合わせ完了です。では、始動時10秒前に連絡を」
「了解」
無線はそれで切れる…用に思ったが、思わぬ人物かが割り込んできた。
「えっと、これって2番艦だけですか?」
妹と直感的に分かった。
「あ、はい。できますよ」
なにやらニヤニヤした声だ。
「お兄ちゃん、聞いてる?」
「ああ、聞いてるぞ」
イサキ少佐からマイクを借りて、妹と話をしている。
「…本当に帰ってくる?」
「ああ、大丈夫さ。ちゃんと生きてお前と会う」
「約束だよ」
「ああ、約束だ」
どうやらそれだけを聞きたかったようだが、話は続く。
「ところで、スケース少尉を付き合い始めたみたいね」
こちら側で、ビクッとする。
「な…なんで知ってるんだよ」
「だって、さっきの会話丸聞こえだったよ。何を言っているのか、はっきり聞き取れたし」
すぐに顔が真っ赤になるのが分かる。
画像が出ないのが、せめてもの救いか。
「とにかく、ちゃんと戻ってきてやるよ。未来か過去か。それは分からないがな」
「わかった、帰ってくるまで、私、待ってるからね」
そういって、ほぼ一方的にきられた。
きられたことを確認すると、イサキ少佐を見た。
「…どういうことですか?」
「いや、俺は知らんぞ」
「しらんじゃなくて、なんでつながっていたのかって言うことを聞いてるんっすよ」
自分は知らない間に怒っていた。
「つながっていたのは仕方が無いだろ?それに、妹さんにもいずれは話しておかないといけない話だろう。今聞かれて逆に良かったって言うことでだな…」
「問答無用!」
この後のことは、隊員以外誰も知らないし知られたくない。
だから、ここでも詳しく書かないことにしておこう。
2分経つと、痛みも退いたようで正常に行動が出来るようになっていた。
「こちら司令塔。2番艦応答せよ」
「2番艦です」
「エンジン始動までのカウントダウンに入る。準備は?」
わき腹を押さえながらも、普通の声を努めて出そうとしている。
「了解です」
「15………10……5、4、3、2、1、エンジン始動!」
司令塔の指示によって、一気にエンジンを最大出力に上げる。
「発射!」
これが、司令塔からの最後の指示だった。
一気に加速する船の中、椅子にめり込んでいる。
空間がゆがんでいるように見えるのは、時間を飛び越えようとしているからだろう。
そんな意識も、徐々に遠のいていった。
第13章 時間を飛び越えて
次に目が覚めたときは、時間を飛び越えた先にいた。
「あてて…」
頭ががんがんする。
角材で後頭部を殴られた感覚が、自分の頭を繰り返し襲う。
船がかなり遅い速度ながらも惰性で動いているのを確認すると、シートベルトをはずし、船をとりあえず止めた。
イサキ少佐も、席の上で眼を回している。
「ふぅ…」
自分はため息交じりに息を出した。
全員を起こしたのは、10分ぐらいしてからだった。
「ふにゅ〜…」
まだ頭が正常に働いていないようだったので、自分は近くにあった紙袋に息を吹き込み、目の前に持ってきた。
「…おい、起きろよ」
スケース少尉に声をかけるが、立ち上がる気配なし。
すぐ横では、再び金川大尉が寝息を立てている。
自分は袋の口元から空気が漏れないようにもって、一気に叩いた。
破裂音が一気に伝わると、すぐに全員が立ち上がった。
「何があった!」
「おはようございます」
イサキ少佐が真っ先に聞いてきたのを見てから、自分は言った。
「どうやら、着いたようですよ」
自分は船の操作をして、船外の状況をモニタリングさせた。
「…ただ、自分達が行きたかった方向とは逆のようで…」
「ここは何年なんだ?」
「周囲には破壊しつくされた残骸が散らばっており、その残骸が存在するのは半径数光年にわたると見られる球状に集中しているそうです。ここは、その中心に近いところです」
徐々に全員の頭が正常に働くようになってきたようだ。
「つまり、私たち以外の誰かが、ここで一波乱引き起こしたって言うこと?」
「ご名答。実にその仮説の通りだとおもう。問題は、その後どうなったか、それに尽きると思うね」
金川大尉の言葉に、自分は正直に答えた。
「人の姿は?」
「生命反応は、半径15AU以内では存在しませんね」
機器を操作しながら、瞬時に把握できる範囲を探査した。
「…どういう事なんだよ。人類はどこに行っちまったんだ?」
愚痴ながら同じ画面を見ていた。
「ここは696年5月10日です。そして、周囲は見たことが無い惑星系です」
自分は分かったことを手短に報告した。
「…第3宇宙ステーションやその他、軍関連の施設は?ロボット達でもかまわない。誰かいないのか?」
イサキ少佐は、徐々に心配になる声で聞いてくる。
「…現在のところ、発見できません。三角測量を用いて現在の位置を計算しますが、それも3日ぐらいかかります」
「どうしてだ」
「まず、惑星連合に登録されている、三角測量用の星は多数ありますが、どの星かを突き止める必要があります。さらに、2つ以上の星を使って測量する必要があるので、その分の計算も必要になるのです」
「…今しているのか?」
再び椅子に沈み込むイサキ少佐。
「ええ、その計算速度から導き出される結論が、3日間です」
自信たっぷりに答えたが、それは虚勢で、どれほどかかるかは正確に予測はできない。
自分はそれだけ言うと、再び計器に向かっていろいろ調べ始めた。