21部目
30分ほどすると、軍団長がじきじきに部屋に入り、博士と自分達を案内した。
「さて、現在の状況をとりあえず伝えておきましょう」
軍団長は先頭を歩きながら、自分達に言った。
「片方の船には博士に乗っていただきます。もう片方の船にはあなた達が乗ってください。他の人たちは、乗らない予定です」
「質量上の問題と、周囲への影響は?」
博士の質問に、軍団長はあっさりと答える。
「考慮済みです。惑星系間の何も無い区域を移動区域に指定しています。周囲の惑星系には一切影響を与えないようになっています」
「食料、水などの生活必需品は?」
「詰め込み済みです。全て予定通りに行われています。船は一人でも運転できるように設定されていますし、どちらに飛んでもかまわないように最善を尽くしています」
「了解した」
博士は、ぶっきらぼうに答えると、最後に軍団長に聞いた。
「それで、あなたはどうするので?」
「ここに残りますよ。未来も過去も無い、あるのは今だけと思っていますので」
そういって、肩をすくめる。
自分達は、何を言っているのか分からなかった。
だが、それを聞く機会もなかった。
船のところには、意外な人が待っていた。
「お兄ちゃん!」
「へ?」
船に向かおうとしていた矢先、自分に誰かが声をかけた。
その声には聞き覚えがあるどころか、そう呼ぶのは一人しかいなかった。
「何でお前がこんなところにいるんだよ」
「だって、どこかに出かけるって言うから、来ちゃったの」
指をモジモジさせて、香はこちらを見ていた。
「あーもう。自分にどうしろって言うんだよ」
「何も。ただ、また帰ってきてね。それだけ」
本当にそれだけを言いにきたわけではないと思うが、自分はうなづいて見せた。
「ああ、大丈夫さ」
そういって、軽く頭をなでてから、自分達は2号艦とかかれた船に、博士は1号艦とかかれた船に乗り込んだ。
博士のほうには、ロボット一機、博士の私物を持ち込み、こちら側との整合性を取っていた。
自分達のほうには、自分達の私物だけを持ち込み、船は目標宙域に向かって出発した。
「こちら、2番艦。目的地に着きました」
「司令塔了解。追って指示するまで待機せよ」
「了解です」
イサキ少佐はマイクをおいて、自分達に言った。
「最後に確認しておく。本当にこの時間に悔いは無いな。それと、未来に行っても」
「大丈夫です」
自分は断言した。
横には、シートベルトの取り付け場所が分からなくておろおろしているスケース少尉が居る。
「大丈夫…だと思いますよ」
妹を思い浮かべながら言った。
あいつなら、何とかやっていけるだろうという、根拠の無い自信があった。
「他は?」
「私だったら大丈夫。イサキ少佐と一緒に行くから」
「どういうことなんだよ」
ギガルテ大尉が聞いた。
「だって、私たち付き合ってるもの」
うすうす気づいていた。
「やっぱりか」
「…ということは、気づいてた?」
「ああ、いろいろ一緒に行動していたからな。何かあるとは思っていた」
自分はそう言った。
二人はちょっと照れながら言った。
「じゃあ言うけど、お前達はどうなんだよ」
「ふぇ?」
スケース少尉がどうにかシートベルトをつけた直後、イサキ少佐が唐突に切り返す。
「ここ最近、永嶋大尉とスケース少尉はよく一緒に行動してるだろ?お前達も付き合ってるんじゃないか?」
「えっ、いや…まだそんなこと…」
かなり赤くなって、スケース少尉は下を向いてしまった。
「まだそんな事いってないさ。それに、自分がいつか言おうとしたことを先に言わない」
自分はイサキ少佐に言った。
「なーんだ。てっきり告白をしたのかと思ってた、ねえ」
金川大尉が同意を求めるように周りを見渡す。
西海中尉以外、うなづいている。
「じゃあここでしろよ。ついでだ」
「ついでって、そんなついで無いだろうが!」
自分はかっとなって言った。
だが、その反面、それもいいかなと思っている部分もあった。
数秒考えをめぐらせてから、下を向いたままでしどろもどろしているスケース少尉に聞いた。
「…パ・スケース少尉」
「はい?」
顔を赤くしたままで自分を見る。
「…好きです」
一言、その一言を言いたいがためにどれほど待ったか。
彼女の弱い部分、強い部分、何でも受け入れよう。
そう覚悟を決めて聞いた。
スケース少尉は、さらに恥ずかしくなったのか再び下を向いたが、それもつかの間。意を決したかのように自分の目を射抜いた。
「…よろしくお願いします」
きょどりながらも、深々と頭を下げた。
「あ、いいえ。こちらこそ」
反射的に、自分も頭を下げていた。
頭を上げると、自然に笑いがこみ上げてきた。
「どうしたんだよ」
イサキ少佐が聞いてくるが、答えられない。
どうして笑うのか、それが分からなかったからだ。
数分ほどすると、涙も乾きどうにか落ち着きを取り戻した。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫…」
痛くなっている腹筋を押さえながら、イサキ少佐に言った。
「ということで、何かあれば、私たちでがんばるしかないね」
金川大尉が、イサキ少佐のすぐ横で言った。
「そうね…」
スケース少尉は、どこか遠くを見ていた。
その時、連絡が入った。