2部目
軍団長である、頭でレンガを粉砕するといううわさがある第39軍団軍団長アレハ・カワウチその人は、自分を探し当てるとすぐに聞いてきた。
「お前は、地球に行く気があるか?」
なぜ自分に尋ねたかと聞く前に、即答した。
「無論です。地球は、1000年前に封鎖されて以来、誰も入ったことが無いと聞きます」
手で制止して、軍団長の顔が迫った。
「お前のその力量を買っているんだ。グダグダしゃべるな。機械系に詳しかったな」
「はい、そうです」
「だったら話が早い。これは極秘情報だ。だから、一切口外するな。いいな」
自分は、ごくりと何かを飲み込んだ。
「はい」
軍団長は、自らの部屋に自分を入れ、慎重にドアを閉めた。
それから、椅子に座って、自分にも椅子に座るように言った。
自分が椅子に座ってから、彼は話はじめた。
「実は、ロボット先遣隊が行方不明になっているんだ」
自分はその話を聞いて返した。
「しかし、上層部の話ですと、ロボットから電波が送られてきたって…」
「それは事実だ。だが、それ以後連絡が無い。定時連絡すらないんだ」
それはありえないことだった。
定時連絡機能は、ロボット先遣隊に求められる最優先事項だった。
これから送られていく人間に対して、自らの居場所を教え、その周囲の状況を報告し、それを逐一報告するという義務がある。
軍務ロボット先遣隊3原則といわれるものである。
定時連絡機能は、その中核を占めるもので、それが使えないということは、ロボット自体の破壊もしくは破壊されていなくても危険な状態であるということが断言できる。
「お前には、我が軍団が誇る特殊チームに同行してもらいたい。機械科のお前だったら、その原因も突き止められるだろう」
軍団長は、深く背中を背もたれにもたらせると、ゆっくりと息を吐いた。
「いいですが、どの小隊と行くことになるのでしょうか」
自分が聞くと、一言だけ言った。
「309小隊だ」
自分はそれを聞いた途端に、家に帰りたくなった。
309小隊、通称オタク小隊。
さまざまなことに精通しているのはいいが、それが軍務にまったく関係ないということが問題視されている集団である。
自分は、結局軍団長に言われてその小隊の事務所に向かった。
309小隊の隊舎はプレハブ住宅だった。
自分は、覚悟を決めて事務所の中に入った。
「失礼します」
扉を開けた途端に、妙な匂いが漂ってきた。
「あ、お客さん?」
汚い字で受付と書かれた張り紙をしたところに、女性の姿があった。
「すいません、軍団長に言われてきた永嶋今宵です…」
鼻を布で覆いながら、彼女に言った。
どうやら、大尉らしい。
名前までは確認できなかったが、この小隊の大尉で女性は金川崎大尉しかいなかったはずだ。
もう一人の女性であるパ・スケース少尉は、大尉ではない。
「ああ、どうぞ中に入ってください。それと、ここに来る人、みんなそうやって鼻を覆うんですよ。どうしてなんでしょうね」
彼女は笑っていっていた。
そして、近くにあるマイクを持って、事務所中に伝えた。
「永嶋今宵さんが来たよ」
この小隊には、完全に上下関係が無いといううわさがあり、それが正しいとわかった。
誰も近づかず、誰にも近づかない彼らの生活は、この小隊のプレハブ住宅の中で完結していた。
時々外に買い物に出てくる以外、その姿を見た人はいない。
自分は、いろいろと散らかっている廊下を抜け、小隊長室と、さっきと同じ人が書いたであろう看板がかかった部屋に入った。
「失礼します」
窓が全開にされていて、ようやく新鮮な空気を吸った気がした。
「そこに座ってください」
小隊長である、イサキ・ミカガイ少佐がすぐそばにあった虫食いソファーを勧めた。
「ありがとうございます」
そこに座ると、ムワッとかび臭いにおいがした。
「…ところで、軍団長からは君から聞けということだったんだが、どういうことなんですか?」
「軍団長があなた達を地球に行く部隊に選抜したという話です。それと、軍団長からの指令で、出発するときには自分も同行します」
イサキ小隊長は、笑っていった。
「いいですよ」
そして彼は続けた。
「ところで、一つ聞きたいのですが、あなたはどの分野ですか?」
「機械系です」
「…誰ともかぶらないですね」
少し残念そうだった。
「あの…どういうことでしょうか」
自分が聞いたが、彼は結局答えなかった。
「そうそう、部屋を準備しなければなりませんね。なぜか他の隊の人たちから嫌われていまして…」
彼は力なく笑っていたが、本当に気づいていないのかは分からなかった。