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18部目

第10章 時の流れ


彼のオフィスに入ると、目に付いたのは彼女の写真だった。

「…目元が良く似てますね」

自分は中将に言った。

「ええ、よく言われるんですよ。ああ、好きなところに座ってください」

中将は、適当に勧めた。

自分達はとりあえず、身近にあったいすやソファーに深く腰をおろした。

「さて、手短にお話しましょう。あなた達は、すでに死んだことになっています」

「…へ?」

金川大尉が聞いた。

「言ったとおりです。イサキさん、今は何年何月何日ですか?」

何を聴くんだという顔をしながらも、普通に答える。

「たしか…500年5月8日じゃないか?」

中将はため息をついて、答えを言った。

「…今は、598年5月8日ですよ。あなた方は、最後に電波を送ってから約100年間、その存在が消えていました。民法及び軍法の規定に基づいて、最後に生存が確認されてから5年目に長期休暇扱いに入り、10年目に死亡宣告されました。そのときは、私はまだ生まれていなかったので詳しくは知りませんでしたが、その電波のおかげで現在の地球は再び美しさを取り戻しながらも、発展を続けています。移住の制限は掛けられていますし、当然、区割りも連合法によって縛られています」

「そうか…もう、あのときの地球じゃなくなったんだな…」

ギガルテ大尉は、ぼんやりと壁を眺めていた。

「ただ、少し分からないことがあるのですが、あの地球防衛システムは何なんですか?現在は活動を停止していますが、初期のころはそれで相当阻まれました」

自分達はそのことについては、ただ知らないとだけ答えた。

イサキ少佐がその直後に聞く。

「ところで、309小隊の家はどうなりましたか?」

「ああ、今は別の建物がありますね。ただ、荷物は倉庫で保管してます。食べ物の関連商品ばかりだったので、軍法に従って休暇宣言が出されると同時に廃棄されました。あっと、これを渡しておかないといけません」

中将は、その倉庫の位置を示した地図と、小さな箱をそれぞれに渡した。

「それは、あなた達に授与されるはずだった勲章です」

箱を開けて、正直驚いた。

「おいおい、これ本当かよ…」

イサキ少佐はすぐ横にいた自分に聞いてきた。

「ええ、どうやら本当のようですね」

にこやかに答える。

その箱の中に入っていたのは、国家勲章第1級といわれている、ツァンテ・イヴァンフ勲章だった。

ツァンテ・イヴァンフという人は、この惑星国家連合の初代大統領として、数多の惑星を共存関係に持ち込んできた人だった。

出生も、育った環境も分からない、なぞだらけの大統領としても知られている。

軍民問わずこの初代大統領の名前を冠した勲章以上の勲章類は存在せず、また、軍人ならばツァンテ騎士団と呼ばれる騎士団へ名誉団員として、民間人ならばイヴァンフ協会の名誉会員としてそれぞれ自動的に入ることが出来る勲章だった。

ただ、騎士団にしても協会にしても、現在は目立った活動をしていないため、名誉職の人たちだけがいる団体になっている。

イギリスの『ガーター勲章』のような存在である、といえば、分かってもらえるだろう。

「あなた方は、それを授与されるほどの功績を残したということですよ。惑星連合政府を代表して、お祝いを述べさせていただきます。これからのご健勝、お祈りしています」

そういって、一礼してから自分達が入ってきた扉を開けた。

「地図どおりに歩けば、倉庫にたどり着きます。そうしたら、荷物を持っていってください。倉庫はこの第3宇宙ステーション内にありますが、船を一隻準備していますので、それをご利用ください」

そして、中将は再び頭を下げて見送った。

彼とであったのは、それが最初で最後になった。


第11章 元へ戻りたい


倉庫は宇宙ステーションの中にあった。

「前来たときより、広くなってる?」

先頭を歩いている金川大尉が、すぐ横にいるイサキ少佐に聞いた。

「そのようだな。だが、前はこんなところまで来なかったから、はっきりとは分からないな」

「そうですよね…」

ふと地図を見ると、かなり広いことが伺える。

なにせ倉庫だけでも、3階分を占めている。

さらに居住スペースやら、レクリエーション施設群やらがあり、それだけで、この宇宙ステーションの半分を占めているということになっているようだ。


自分達は、あちこち回ってようやく目的の倉庫にたどり着いた。

「ここですね」

どうにかたどり着いたころには、3時間ほど経っていた。

「あいつ…間違った場所教えやがって…」

すぐよこでイサキ少佐が怒っている。

何も言わずに、自分が倉庫番に言った。

「…第309小隊、永嶋今宵大尉です。なかに、自分達のものがあると聞いたのですが?」

出来る限りやさしめに言ったつもりだが、相手は直立不動の体制をとって、こういった。

「あの、伝説の部隊の方々ですか!ようこそ、このような汚い場所へ。仰ってくださったらそちらまでお届けにあがりましたのに…」

「いいから、さっさとよこせ」

イサキ少佐は半切れの声でその人に言った。

ふと、肩章を見ると少佐であることを示している。

「ここ最近は、少佐でも倉庫番をしなければならないのか?」

驚いたような声を上げながら、彼は答える。

「え、ええ。ただ、輪番制になっているので、少将クラスまでなら、雑用もすることになっているのです」

「じゃあ、自分達も…」

彼は、即答した。

「あなた方は例外…というよりか、そのようなことはしなくてもよろしいのです。なにせ、ツァンテ・イヴァンフ勲章を受章なされた方々なのですから」

「あ、そうか…」

ギガルテ大尉がつぶやいた。

その声で、ようやく思い出した。

勲章令によれば、ツァンテ・イヴァンフ勲章を受章した者は、一切の納税が課せられず、生涯年金を受け取る権利が生じる。

それだけでなく、現在は名誉職のみとなっていながらも、軍法上はこの勲章を授与されたものは、受勲時点の階級にかかわらず大将と同等の権限を有しているということだ。

そんなことを思い出している間に、扉が開かれ、ロボットが現れた。

「こちらでよろしいでしょうか」

とても流暢に話す。

「進化してますねー」

金川大尉がじっくりと、そのロボットを見ている。

「550年制式の、お手伝いロボットですよ」

その人の腰ほどまでの高さで、キャタピラによって動いているようだ。

コンセントなどは無いから、恐らくバッテリー駆動。

そこまで見たとき、彼が自分達にそれぞれ袋を渡した。

「これが、あなた方の持ち物です。あなた方の家は、公営施設があてがわれることになりますが、ここで申請しておきますか?」

「そんなことになっているのか」

イサキ少佐がちょっと驚いている。

だが、他の人たちは、自分も含めて荷物がちゃんとあるかどうかの確認に忙しかった。

「…どうでしょう。自分の家が残っているようでしたら、そちらに住んだらいいと思いますよ。普通のアパートですが…」

「計7人、ちゃんとは入れるのか?」

「ええ、多少掃除はいると思いますが」

みんなはそれで良いといったので、倉庫番の人が敬礼をしているのを最後に見て、宇宙ステーションから出た。


第3宇宙ステーションを後にして、自分が住んでいた家に来た。

近くの惑星、第39軍団の総監部があり、軍団長が住んでいる公宅のすぐ横に、自分が住んでいた家があった。

「あれ?」

見事な更地になっている。

「どうやら、約100年の間に、いろいろと整理されちゃったようね。このあたりも、昔とは相当違うし〜」

金川大尉は、何も区切られていないことをいいことに、そのままどんどん入っていく。

「どこに住めばいいんでしょう…お金は…」

自分がその更地に足を踏み入れた時、すぐ横にスケース少尉がいた。

「なんとかなるって。それに、自分達はツァンテ勲章受賞者だ。ここに来るまでの間、いろいろな法律を調べてみたけど、制度上、自分達を優遇することは義務となっている。お金も心配要らない。生涯年金が何も言わなくても授与されることになっている。まあ、自分達が死んだことになっているから、それまでの間、軍法上5年間分だけだけど、ね」

気づけば、スケース少尉のセミロングの髪を手で梳くような格好になっていた。

「ふぇ…」

自分のすぐ前にいるスケース少尉が何か言った。

「ふぇ?」

一瞬間があいてから。

「フェックシュン!」

大きなくしゃみを一発。

張り詰めていた緊張の糸が、ぷつんと途切れた。


ここでボーとしているのももったいなかったから、役所へ出向いた。

第39軍団総務課。

自分の古巣に当たる部署だった。

だから、応対は基本的に自分がすることになった。

「ちょっとすみません」

「はい、なんでしょうか」

振り向いた女性は、こちらを見て理解した瞬間、顔が変わった。

「大叔父…ですか?」

「へ?」

自分は何を言っているか分からなかった。

「…永嶋今宵さんですよね。写真にそっくりですけど…」

「え、そうです…あなたは?」

見た記憶が無かった。

しかし、彼女にはそれで十分だったようだ。

「98年前に失踪した兄がいるって、おばあさんがずっと言ってました」

「あいつが?」

周りは何を言っているか分からないようだった。

かいつまんで説明をしておく。


第309小隊へ行く直前、自分の家には両親と妹が一人いた。

それと犬2匹も一緒だ。

自分より2つ年下で、いろいろなことでけんかもした。慰めたりもした。

そんな妹が、自分がいない間に結婚して、子供を産んで、さらには孫までいたということが、自分にとっては驚きだった。

「…そんな人がいたんですね」

スケース少尉がつぶやいた。

「とにかく、妹のところへ行こう。ちょっと案内してもらえるかな?」

「ええ、喜んで」


その女性は、伊川谷千代と言った。

「おばあちゃんがいつも言ってるの。兄がいたんだけど、派遣された先で消息を絶ったって。それからずっと帰ってくるのを待ってるの」

「家はどこなんだ?」

伊川谷が運転している車に乗りこんで、自分達は妹の家に向かっていた。

「50年ぐらい前から変わってないよ。もともと住んでいた家を軍に売って、そのお金を元にして新しく買ったんだって」

「へー」

まだ見てないその家に、思いを馳せて…

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