17部目
第9章 帰還
翌日、自分達は地球を一周してから、帰路につくことにした。
「コースセット完了、周回軌道設定。スイングバイ経路確定。出発しますよ。準備は?」
自分は操縦桿に手をかけて、みんなのほうを見た。
「OKだよ」
金川大尉が自分に朗らかに声をかける。
「じゃあ、発進!」
その瞬間、何か光が襲った。
一瞬だった。
目をつむって、ちょっとづつあけると、そこは見たことが無い空間だった。
「ここは…」
全員が起きていた。
「第5次元ですね」
ギガルテ大尉が言った。
「何か知っているのか?」
イサキ少佐がすぐに聞いた。
「ええ、この空間は、我々が住んでいる第4次元までの空間と違い、別の宇宙へ通じる入り口のようになっているということを聞いたことがあります。しかし、それをあけるためにはかなり大質量が必要といわれていますが…」
「無事に帰れるのか?」
ギガルテ大尉が言い終わるや、すぐにイサキ少佐が聞いた。
「その点は大丈夫です。ワームホールと同じように、出入り口は両端しかありません。途中で出ようものなら、その物体は素粒子レベルにまで分解されます」
どこかへ飛ばされるか分からない状況でも、ギガルテ大尉は平然としていた。
「一気にスピードを上げます。現在、主観速度光速比70%です」
自分はとにかく、このチューブ状の空間から出ることを目的とした。
「…出口発見」
自分は、努めて冷静な声で言った。
「…そのままのスピードを維持。できるだけ近づいてから減速を」
「了解」
イサキ少佐の指示で、出口と思われる空間の隙間から、主観距離57億km離れたところから、一気に減速を始めた。
かなりひどい重力を感じた。
「現在、速度減少中。警告、現状のままだと、人体に著しい悪影響を及ぼす可能性があります」
機械の自動音声すら、ねじれて聞こえている。
そして空間を出るころには、通常の巡航速度である約300km/sになっていた。
そのころには、全員の意識の大半がどこかへ飛んでいっていて、自分自身を見失いそうになっていた。
自動音声だけが、現在位置を伝えていた。
「現在、第3宇宙ステーションより、半光年はなれた地点にいます」
「そうか…」
自分はやっとの思いで、口に出した。
「第3宇宙ステーションに向かって、進路を取ってくれ。速度は任せる」
「了解しました」
ゆっくりとスピードを上げていく船。
自分は、シートベルトをいったんはずし、船の惨状を見ることにした。
「うわ…」
これまで体感したことが無い急加速のため、荷物はごちゃごちゃになっていた。
「どうしましょうか」
自分はイサキ少佐に聞いた。
「まあ、それぞれ確認できるものは先に回収だな。分からんものは、真ん中にでも固めておけばいいだろう」
そういってそれぞれシートベルトをはずして片づけをはじめた。
最初に、とりあえず、自分が荷物を置いていた周辺を片付け始めた。
ざっくばらんに言って、飛び散っている。
荷物が方々へ飛んで行っており、さらにこちらへ乱入していたりする。
どこから手をつけていいのかすら分からない状態だ。
しかし、それでも掃除をしなければならない。
「さてさて…」
手に最初にとったのは、とりあえず自分のカバンだった。
「うわ…」
中身がほとんどなくなっている。
どこかに飛んでいったのか、それともこの山のどこかに埋まっているのか。
とにかく、自分はカバンを見つけたところを中心として、片づけをはじめた。
船が4分の1光年ほどにまで近づいたとき、大体片付いた。
「問題は、この山だな…」
誰のものなのかわからない服や荷物や化粧品などなどが、自分の腰ぐらいまで積みあがっていた。
「化粧品は、まあ、男のものじゃないだろう」
イサキ少佐が分類していく。
「自分のものがあったら、言ってくれ」
まわりは生返事をしていた。
どうやら、自分のものでも無くても、名乗り出なければとりあえずもらっておこうという魂胆らしい。
自分はため息をついて、イサキ少佐の手の先を見ていた。
さらに、船が進んだとき、どうにか荷物の整理もついていた。
どうにか第3宇宙ステーションの管制圏に入ったときには、再びコックピットに全員が座っていた。
「こちら、第3宇宙ステーション、103軍団です。そちらの情報を開示してください」
イサキ少佐が代表して答える。
「第39軍団所属のイサキ・ミカガイ少佐第309小隊隊長兼地球派遣隊隊長です」
次の瞬間にはガタガタという騒々しい音とともに、見た事が無い顔が出てきた。
「…あなた達、生きていたのですね」
「どなたでしょうか」
自分が聞いてみる。
「熊の孫息子、といえば分かってもらえますか?」
どういうことだ。
自分達は混乱した。
「とりあえず、中に入ってください。待ってます」
どういうことか分からぬまま、自分達は第3宇宙ステーションに入った。
宇宙ステーションの中は、出たときとうってかわって、見たことが無い機械が山積みにされていた。
「何があったんだよ…」
イサキ少佐が、その山を見ながらつぶやいた。
その時、パタパタとスリッパで小走りして走ってくる音がした。
「すみません、ちょっとごたごたとしてまして。お待たせしました」
その人は、中将の服を着ていた。
「磐木中将で間違いありませんか?」
イサキ少佐が聞いた。
「そうです。磐木信子大将の孫息子であり、現在生きている唯一の彼女の血縁者でもあります。立ち話もアレなんで、とりあえずオフィスで詳しくお話しましょう」
磐木中将は、そういって、自分達を案内した。