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16部目

その日の夜、全員が眠ってから、自分は操縦席で地球を眺めていた。

その時、誰かが入ってきた。

「イサキ少佐ですか」

自分は見ることなく言った。

「よく分かったな」

イサキ少佐は驚いていた。

自分はその種を明かした。

「単純ですよ」

自分は手に持っていた手鏡を見せた。

「これのおかげです」

「なんだ、それか」

イサキ少佐は、手にブラックコーヒーを入れたコップを持っていた。

「…あの、縮退炉、どんな仕組みなんだろうな」

イサキ少佐はコップを置いて、補助席に座った。

「簡単に言って、あれは縮退炉じゃないと思います」

「どういうことだ」

イサキ少佐は、自分に聞いた。

「…少佐は、ブラックホール型発電を聞いたことがありますか?」

「ああ、ちょっと前に実験をしていたやつだろ。なんだか失敗したとか聞いたが……」

「あれだと思うのです。縮退炉は、それに対して常に質量のあるものを与え続けなければならない。しかし、これの場合は、与える動作がなく、直接的なものとなっています。地上でエネルギーを受けるのもありますが、それよりも重要なのは、どうやって、これほどの質量がある物体を、他の惑星や太陽などに影響なしに公転を続けさせるかということです」

「なるほどな。確かにそれは不思議な事の一つだが、重力は本船にもかかるはずだろ。距離がかなりあるからといって、相手の質量がかなりでかいからな」

イサキ少佐はそう言った。

「…それもそうなんですが、ブラックホールであることは間違いないんです。しかし、降着円盤もないし、X線もガンマ線も確認できず。何か引っかかるんです」

「だが、すでに連絡を入れてある。全員が明日までに帰らなければならないんだ」

「分かってます。しかし、なにかおかしい……」

自分はそのおかしいことが分かった。

「あの機械…」

自分は見つけた機械を拡大させた。

「これだ…」

「なんだよ、それ」

イサキ少佐が聞いてくる。

「重力変調装置ですよ。自分が少尉だったときに開発したんです。それまで宇宙船は、ふわふわ浮かんでいたのが普通でした。しかし、その装置を作ったので、いつでも重力が作られるように出来たんです。最大出力は、50万Gです」

「かなりでかいな。だが、それがどうしてここに?」

「それは…なぜなんでしょう。あれは、自分が作ったそのものです。しかし、この宙域は、出入りがかなり制限されていて、1000年間、誰も入らなかったはず…」

自分は結局分からなくなった。

イサキ少佐は自分に言った。

「分からんものもあるさ。それが人間さ。時間がずれたとか、ここ最近は、昔じゃ考えられなかったことが現実になってきている。その一環だと思えばいいのさ」

イサキ少佐はそういって笑った。

「どうしたんです?」

扉が開かれて、スケース少尉と金川大尉が現れた。

「二人とも、どうしたんだ」

「最後に、地球の姿を見ておこうと思ったんです。ただ、それだけですよ」

スケース少尉は笑って言った。

「地球を空から見ると、青く見えるって本当なんですね」

片腕を金川大尉の肩にまわして、スケース少尉は歩いてた。

「もう大丈夫なのか?」

自分はスケース少尉に聞いた。

「ええ、こうやってゆっくりと歩くのになれないと、歩けなくなるので」

スケース少尉はそう言った。

「よいしょっと」

スケース少尉を金川大尉が座らせる。

「…なあ、何で自分の上なんだ?」

ひざの上には、スケース少尉がちょこんと座っている。

「だって、そこに座りたそうだったから」

「あの、いけませんか?」

スケース少尉のつぶらな瞳が、自分を直撃する。

「いや、いけないことは無いんだが…」

自分自身の顔を見ると、かなり赤くなっているだろう。

「あー。永嶋大尉の顔、真っ赤ー」

すかさず、金川大尉がはやし立てる。

「なっ!」

「こら、何を言ってるんだよ」

イサキ少佐が、あわてて言う。

そんなイサキ少佐のひざの上にも、金川大尉が普通に座っている。

「なんか、夫婦みたいですね」

自分がポロッと言う。

「そうだな…」

なんとなく、哀愁を帯びた声で、イサキ少佐が言った。

「…あのこと、伝えてないの?」

金川大尉がイサキ少佐を見上げるようにしながら言った。

「…俺の元カノが死んだっていう話か?」

「え…」

「…人類がいかに進化しようとも、変えられないことがある。それは、死ぬことと死なれることの悲しみだよ。世界はどれだけ広かろうと、同じ人がいようとも、関係ないんだ…」

自分は言った。

「その人、少佐に愛されていたんですね」

「ああ、俺が愛した唯一の人だよ。不治の病で、死んじまったよ。でもな、大丈夫なんだ」

「どういうことですか?」

自分は聞いた。

イサキ少佐は笑いながら言った。

「だってさ、俺にとっちゃ、みんなが家族なんだよ。だから、悲しくなんか無い。大丈夫なんだよ」

どこか、遠いところを見ていた。

「…そうですね」

自分は、直感的に理解した。

やはり、ここは、このままでいいのだ。

いろいろグダグダなところもあるが、それも、一つのエッセンスに過ぎない。

人類が、ここから成長して、はぐくまれ、親を殺してから旅立った。

ようやく里帰りをした人類の代表の部隊に、自分達がいる。

軍人として、家族として、なにより人として。

そのようなものをいろいろ混ぜあってこの部隊は出来上がっているのだと、自分ははじめて気づいた。


「…さて、もうそろそろ寝ないといけないだろ」

イサキ少佐は、ぼんやりとしているみんなに言った。

そして、ゆっくりと戻り始めた。

「…のいてくれないか?」

イサキ少佐と金川大尉が寝た後でも、自分の上には、まだスケース少尉が座っていた。

「…永嶋大尉は、恋人とかいるのですか?」

「何を言い出すんだよ」

スケース少尉は、周りを見回して、誰もいないことを確認してから、自分に言った。

「…無事に帰れたら、言います。イサキ少佐と金川大尉はまだ寝ていらっしゃらないご様子ですし」

扉の向こうで、ばたばたという音がしている。

自分は、察しがいいときだったので、なんとなくは分かった。

「そうか」

自分はそれだけ言って、スケース少尉を自分のひざの上から下ろした。

ちょっと、悲しそうな顔をしている少尉をそのまま布団にまで連れて行った。

「おやすみ」

「おやすみなさい…」

眠ったのを確認してから、自分も布団にもぐった。

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