14部目
「少佐!」
イサキ少佐が、そこにはいた。
「ケホケホ…なによ突然…あれ?」
金川大尉も一緒にいた。
「二人一緒だったんですか」
「ああ、偶然にもな」
自分がイサキ少佐に聞いた。
「大丈夫だったんですか?」
スケース少尉が聞く。
「大丈夫よ。でも…」
金川大尉が見た先を、自分達も照らした。
バカでかい壁が、そこにあった。
「暗号化されてますね」
自分は、一目見てすぐに分かった。
「おそらく、最初のところでしょう。ここが、最初の出入り口です」
「じゃあ、ギガルテ大尉が来るまで、ここで待っておかないと…」
自分は、その間にイサキ少佐に聞いた。
「そういえば、イサキ少佐は石版を見ましたか?」
「ああ、俺らが着地していたところに、なんかあったな」
「それが何か、今思い出せますか?」
イサキ少佐は、ちょっと考えてから答えを出した。
「「信じれば、そのものは救われる。彼の者は言った。時とともに、流れは変わる。その者は時では流れぬもの」」
自分はいろいろと考えてみた。
「…信じる、救われる…」
そのとき、ふと気づいた。
「そういえば、ギガルテ大尉の宗教ってなんでしょう」
「聞いたこと無いな…」
イサキ少佐と壁にもたれ、天井を見ていた。
前では、金川大尉とスケース少尉がなにやら話しをしている。
「…男に聞かれちゃやばい話でもしてるんでしょうか」
反響するはずの洞窟上の通路に、何も声が響かない。
「さあな。男は分からん、女の世界さ」
何か達観したような顔をして、イサキ少佐が言った。
「何かあったんですか?」
「ああ。でも、昔の話さ…」
ちょっとしてから、イサキ少佐は言った。
「…お前も気をつけろよ。女は何を考えてるか分からないからな…」
「…ホント、何があったか知りたいですね」
イサキ少佐は、どうしようか考えて、結局何も言わなかった。
「まあ、いいですけど…」
自分は、そんなイサキ少佐の表情を、間近で観察していた。
「やっと…ついた…」
「遅い!」
ギガルテ大尉が来たのは、会話が終わってどうでもいいことを言っていたさなかだった。
「やっと来たんだー」
金川大尉は、楽しんでいるようだった。
「なんか、楽しそうですね…」
自分は、そういって二人のほうを見た。
いろいろなところを通ってきたようで、埃まみれだった。
「…それよりも、どうやったら、そんなことになるんでしょうか」
スケース少尉が、服装のぼろぼろ具合を見て驚いていた。
「…きかないでくらさい…」
「とにかく、悪いがこれが第1の関門らしい」
イサキ少佐は、ギガルテ大尉に、さっきの門見たいのを見せた。
「…でっかいですね」
ギガルテ大尉は、その巨大な門を見て言った。
「そこに、画面があるんだ。パスワードは分かるか?」
自分はギガルテ大尉に聞いた。
にやりと笑い、答えた。
「ああ、ただ、一回だけしかチャンスが無い」
そういって、ギガルテ大尉は画面のところへ向かった。
第7章 突入
「パスワードを入力シテクダサイ」
「「天上天下唯我独尊」」
ギガルテ大尉は、ただ、それだけ言った。
コンピューター側は、なにやら考えていた。
「ウロボロスじゃなかったのか?」
「あれは、また別の機会に使います」
イサキ少佐の質問に、そう答えた。
巨大な扉は、音を立てて開き始めた。
「お帰リナサイマセ。兵武卿」
「兵武卿…」
ギガルテ大尉がつぶやいた。
「旧日本国。地球から撤退する船を作った最後の国だ。祖先は、その国の防衛関連の大臣をしていたらしい」
「それで、兵武卿か…」
イサキ少佐がつぶやいた。
一同は、その扉を通った。
通り終わった瞬間、扉は閉じられ、開くことはなさそうだった。
「…これで退路は絶たれた…」
「行きましょう。行くしかないです…」
イサキ少佐が後ろを振り返っているすぐ横で、自分が言った。
「懐中電灯も、いずれはつきます。ここの酸素量もいずれは尽きると思います」
「冷静ですね」
ちょっと震えているスケース少尉が、引っ付いてきた。
「ああ、地震が多いところに住んでるからな。ちょっとした地震だと思えばなんとも無いさ」
自分は、そういいながら、歩き始めた。
「全員そろっているな」
イサキ少佐が見回した。
「金川大尉、ギガルテ大尉、キガイ中尉、西海中尉、スケース少尉。全員いますね」
自分は、少佐に報告した。
その直後、声が聞こえてきた。
「一つは全て、全ては一つ。繰り返される歴史、叶わぬ思い。天と地がつながり、分かれる」
繰り返し、それを歌っていた。
「…次の扉だ」
自分は、先ほどの3分の2ほどの大きさだが、何か違和感を感じる扉を見つけた。
すぐに、その違和感の原因が分かった。
「…通路が二つになってる…」
それぞれの扉の間には、壁が挟まっていた。
「さっきの歌、この扉のことを言っていたんでしょうか…」
「第3の扉へ行くためには、正しい人がやらなければならない」
ギガルテ大尉が言った。
「あの機械が、鍵になるのでしょう」
目を置くための機械が、3つあった。
「…3人分必要か…」
イサキ少佐がぼやいた。
「間違ったらどうなるんでしょう」
自分が聞いた。
「単純だ。ここで死ぬまで閉じ込められる。周囲は粘土質だが、火山灰も混じっている。掘ることはちょっと難しいが、不可能じゃないな」
イサキ少佐が、壁に手を触れながら言った。
「とにかく、ギガルテ大尉、できるだけのことをしてくれ」
「了解です」
ギガルテ大尉は、一番右端の機械に目を当てた。
そして、一言言った。
「ウロボロス」
その途端、左側の扉が開いた。
「な…」
金川大尉が驚いた。
「金銀財宝、ざっくざくてか」
扉が完全に開いた先には、純金に輝く通路があった。
「というより、よく分かりましたね」
西海中尉は、ギガルテ大尉に聞いた。
「あの歌がヒントなんだ。そして、この通路の先に第3の扉があるはず…」
自分達は、ちょっとずつ進んでいった。
全員が入ると、再び後ろの扉が閉められた。
「やはり、行くしかないようだ…」
第3の扉は、ちょっと離れたところにあった。
「ここが、最後の扉になるのね」
金川大尉が、壁を手でなぞりながら言った。
自分はすぐ横を探査しながら言った。
「…この横にも、似たようなものがありますね」
「さて、そんなことより、第3の扉を開けてくれ」
イサキ少佐は、そう言った。
「では、遠慮なく」
ギガルテ大尉は扉のところへ向かった。
「照合シマス」
ただ、一言だけ言った。
「"lapis philosophorum"」
そして、人差し指を機械の上に置いた。
「照合完了。DNAデータ確認シマシタ。声紋、DNA錠、虹彩確認終了。全テ照合シマシタ」
扉が、ゆっくりと開かれていく。
音が無い。
「…兵部卿、ご友人の方々、これまでの無礼、お許しください」
流暢な言葉で、語り始めた。
「わたくしは、この世界を統治する、"Tero"です。よろしくお願いします」
第3の扉が開かれると、すぐ横に、別の扉があった。
「ここからも入れるようになっていたんだ…」
「間違えた場合でも、本人が忘れたということが考えられます。そのため、扉が二つになっていたのです」
Teroは、そう答えた。
「上空に浮かんでいる、あの縮退炉は?」
自分達は、扉をくぐった先にある部屋に歩きながら入った。
「あれは、約1000年ほど前、世界最初の実験炉として建造されて以来、地球とともに公転を続けています。月みたいなものですね」
「つまり、あれが、世界最初の縮退炉って言うことか?」
自分が連続して聞いた。
「そういうことになります」
ギガルテ大尉が、その時言った。
「とりあえず、電波防御壁を停止してくれ」
「畏まりました」
一瞬間があって、何かが体を通ったような気がした。
膜状の何か…
何かは、分からなかった。
「…そういえば、ギガルテ大尉」
「なんですか、イサキ少佐」
地上へ出る道を歩きながら、二人は話していた。
「最後の言葉、なんだったんだ?」
ギガルテ大尉は、笑いながら言った。
「あれは、賢者の石って言う意味のラテン語ですよ」
「錬金術の…あれか?」
「ええ、そうです。母がラテン語を仕事上良く使っていたので、自然に覚えたんです」
イサキ少佐は、考え込んでいた。
「じゃあ、ここはラテン語で動いているって言うことか?」
「基本的なパスワードだけですが、そういうことになります」
ギガルテ大尉が言った。
自分は、その会話をすぐ後ろで聞きながら歩いていた。
「人に歴史あり…か」
「何、黄昏てるんですか」
いつの間に来たのか、スケース少尉がちょこまかと歩いている。
「いろいろさ。人にはそれぞれ、知られたくない秘密を持っている。そういうことさ…」
スケース少尉の頭の上に、ハテナマークが見えた。
「どういうことですか?」
「少尉にもあるだろ、知られたくない秘密が」
スケース少尉は、自分がいった言葉で思い出したようだ。
「船の中で話したこと…」
自分はうなづいた。
「それが、歴史さ。人にはそれぞれ、歴史がある。どうやって向き合うかが、問題なんだよ」
スケース少尉は、何か考えているようだった。
「ここを出れば、地上です」
Teroが、ギガルテに伝えた。
「そうか」
「兵武卿、それでは次来る際は、この通路をお通りください」
「ああ、分かった」
そういって、取っ手を持った。