表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/29

11部目

夜になった。

[眠れない…]

自分は布団に入ったのはいいけど、眠れなかった。

[やれやれ…]

そのとき、スケース少尉が、ふらふらと歩いているのがうっすら見えた。

[何してるんだ…]

自分は、誰も起こさないように立ち上がると、イサキ少佐をまたいで運転室に入った。


扉が開くと、スケース少尉はビクッとしてこちらを見た。

「あ、いや。何しに来たのかって思って…」

自分がそういうと、スケース少尉はぼそぼそ言った。

「…こうやって一人になると、ちょっとだけ、安心するんです。誰からもいじめられないって分かるから…」

「え…」

扉が自動的に閉まる。

自分は、スケース少尉が座っている補助席の隣に座った。

ほのかに甘い香りがする。

「私、昔から事あるごとにいじめられていたんです」

寝る直前に巻いた包帯や、やけど跡をさすりながら、自分に昔話を始めた。

「小学校に通っていたころ、私だけ何かが見えていたんです。いまでも見えるときはありますが、月に1回とか、その程度なんです。でも、それが理由で嫌がらせを受け始めたんです」

席の横を見ると、ほのかに湯気が出ているカップがあった。

中には、ミルク紅茶が入っているようだ。

「…あのときほどつらいことは無かった…小学校で、いろいろといわれました。殴られたこともありました。でも、学校は何もしなかったんです」

ポツリポツリと話した。

「…何度、死のうと思ったことか…でも、私は耐え抜いてきた…」

「スケース少尉…」

自分は考えた。

そして、イサキ少佐のときと同じように、自分のすぐ横にあるスイッチを押した。

ぱっと目の前が変わる。

「これって…」

「地球さ」

目の前に浮かんでいる碧い星は、暗闇ときれいなコントラストを描いていた。

「…死ななくてよかっただろ?」

彼女は、自然と泣いていた。

自分は、持っていたハンカチを彼女に差し出す。

「ほれ、使いな」

ちょっと躊躇してから、彼女はハンカチを手に取った。

「ありがとうございます…」

そして、それを使って、涙をぬぐった。

それよりも、ハンカチが差し出されるまで、涙が出ていたのに気づかなかったらしい。

[それもまた一興!なかなか見せてもらえないものも見たし…]

自分はそう思った。

「…ちょっと、聞いてくれますか?」

「何をだい?」

スケース少尉は、目をぬぐってから、唐突に言ってきた。

「中学校のときのことです。たしか、2年生ぐらいだったと思います」

スケース少尉は、ハンカチを握ったまま話し始めた。

「ある日、私が学校へ行くと、机が無かったんです。いじめの一環として、机をどこかへ隠したらしいんです。椅子だけが残ってました。私が椅子に座ろうとしたとき、周りからクスクス笑う声が聞こえてきたんです」

スケース少尉は何かを我慢しているように言い続けた。

「別に、苦しいんだったら言わなくても…」

自分が言っても、スケース少尉はやめなかった。

「…それで、机を探しに教室を出たんです。途中、先生に出会ったので、先生に事情を説明してから。でも…」

「机は見つからなかった」

自分が言葉を継ぐと、堰を切ったように泣き出した。

自分は、ちょっと悩んだが、スケース少尉を抱きしめた。

「誰でも、そんな秘密はある。泣くなって」

「でも…わたし……っ…」

言葉にならない気持ちとは、このことだろうか。

[普通だったら、除隊かな…]

自分はそんなことを考えていた。


泣き止んでも、スケース少尉は自分から離れようとしなかった。

「あの…」

「ん?」

「もうちょっと、こうしていていいですか?」

「ああ、もちろん」

そういって、自分はスケース少尉を抱きしめ続けた。


気がつくと、スケース少尉はそのまま眠っている。

[やれやれ…]

画面を元に戻して、コップを自分が飲み干して台所に返してから、自分は少尉を抱きかかえると、そのまま布団に寝かせた。

[おやすみ]

布団を上からかけると、それにつかまっていた。

自分はそれを見てから、再び眠った。

口の中が、軽く甘かった。


おきたときには、イサキ少佐しかおきていなかった。

「おはようございます」

自分の布団をたたみながら言った。

「ああ、おはよう」

午前5時。

すでにおきていたというのが適当だろう。

「早いですね」

服を着替えながらいった。

「そりゃ当然だ。昨日の夜、二人して何をしていたかは、聞かないでおこう」

「ばれてましたか」

自分は着替え終わってから、ちょっと驚いていった。

「当然だ。気づかないわけが無いだろう」

そう言っただけでイサキ少佐はそれ以後何も言わなかった。

自分たちが起きたことによって、部屋の真ん中に隙間が開いたので、テーブルを再び設置した。


そんなことをしていたら、次々と起きてきた。

「なんですかー…」

「もう朝だ」

「何時…です…か……」

金川大尉は、そういいながら再び、布団に入ろうとしていた。

「寝るなー!」

イサキ少佐はそういって、大声を出しながら、布団をはいだ。

「キャー!へんたーい!」

パーンと、乾いた音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ