序章・SIDE:C
2021年12月30日 更新
時差に合わせた時間表記を行っております。
SIDE:C
某小国の視点から見た「絶望」
フランス・ベルギーの国境から北西部に、緑と水の溢れる観光スポットとして有名な小国が存在する。
名は「レルクライド王国」
人口は約10万と7000。封建主義社会が廃れている現在としては今時珍しい王制国家であり、国連加盟国の先進国としては国土も決して大きくないと、ナイナイ尽くしが一見目立つ。
しかし、技術水準は極めて高く、技術漏洩に関する罰則についても非常に厳しく制定されているのもあって、王国製の工業製品は職人技と称されるまでのレベルとレビュアーが声を揃えているほどだ。
それというのも、1950年代より世界各地で出土するようになった遺跡から抽出される「Aテクノロジー」の解析が進み、その技術を浸透させる切っ掛けを作る大元となっているのがこの王国が所有する技術。「これ」の存在が王国の存在意義であり、高い技術力の源と言えよう。
(……無論、アメリカなどの超大国が有する技術も、解析の一助になっているのは言うまでもないが)
この国のもう一つの特徴としては、現・国王直系の王家……その嫡子(つまりは王女)になる女性も積極的に公務に参加し、その容姿が世界的に有名となっていることだ。
王国の第1王位継承者となる国王の一人娘、マイステラ王女は2003年現在16歳とあまりにも若いのだが、この時点で立ち振る舞いと美貌を絶賛され、国民も口にはせずともそれを誇りとしている時点でその影響力は大きいといえる。
これほどまでに「強み」があっても、王国が有する軍隊……否、ここでは王国騎士団が来る日に備えてどれだけ訓練を積んでいようが、この日訪れた「未知の脅威」には満足のいく対応など出来はしなかったのだ。
「王国が国連加盟国」であるという部分が、軍事面で最大の制約としてのしかかっている。国土が決して広くない王国では、これが致命的となる。
国土が広くない=面積が狭い→保有軍事力を配備するスペースが限られる。
……この方程式はよく言えば、「防衛するエリアが狭くて済む」……とも取れるが、現実は決して甘くはない。
民が住む居住区と軍事基地の距離が切迫するという、狭い面積から来る問題も兼用するからだ。
そして国土の狭さゆえに、保有軍事力の制限がかかる……つまり、Aテク管(Aテクノロジー管理委員会)の関連組織のように積極的な防衛戦力となる兵器・武装の研究開発は加盟国である以上、国連軍(正しくは、国連平和維持機構軍)の視察に引っかかり易く、下手をすればその兵器の存在を理由に紛争レベルの外交摩擦すら起こしかねない。
高い技術を有していようが、それを生かす条件と環境が整っていない。
このジレンマこそが、「王国の軍事力が、Aテクノロジー経由で最新鋭のアップデートが施された現代兵器」のみとなっている最大の理由。
これら悪条件のオンパレードが、王国を危機に陥れた。
今襲い掛かっている「未知の脅威」こそ、国連加盟国の主要先進国主体で開発していた「そのもの」だったのだから……。
彼らの名は「GOVERNER」
王国にとっては存在を望まれていない、Aテクノロジーを悪用された悪意の権化のごとき存在。
故に、国民は起動の時刻まで起動反対を訴えるデモ行進を、「国王公認」で行い続けていた。
彼らは知っていたのである。
GOVERNERは、必ず人類の敵になるということを。
無論、Aテクノロジーに密接に関与する王族は初めから分かっていた。
だからこそデモ行進を認め、それによって何かしらの影響があれば……と、藁にも縋る思いで国総出の抗議を行った。
結果は……ある意味分かり切っていた。
大半以上の賛同がある力を……世界中の同調圧力……マジョリティを、マイノリティが覆すことは叶わなかった。
……そして、
GOVERNERは、一部有識者の警告通り、「暴走した」のだ。
王国内標準時刻 8:22(新日本標準時刻で16:22頃)
最早王国が危険に晒されるのは確定となり、非戦闘員は緊急避難、騎士団は今ある兵力で可能な限りの応戦体制に臨む。
死者がどれだけ出るかなど、想定出来ようがない。
情けない話だが、Aテク管の関係組織が擁する「あるもの」が見つからない限り、連中にはまともに対応できない。
そうなってしまう、根拠がある。
GOVERNERに関係する制御基板が、全世界規模で流通してしまっている今現在、それを完封する手段が無きに等しく、それに対抗するには極秘裏に用意するしかなかったのだから。
この現実があり続ける限り、人類はGOVERNERに勝つことが「出来ない」
「絶望」が、王国にも満ち溢れようとしていた。
――それは、絶望が全世界に及ぼうとしていた時……。
「巻き返すための力」は、動き出そうとしていたのである。
戦う人々の抵抗活動の中、世界中に発せられるもう一つのメッセージ。
それが王国にも伝わった。
GOVERNERのものではない、人類に向けた「発破」を促すそれは、<ギフト>と称された上で、そこを起点として力を失いつつある者達の為に用意されていることを告げる。
世界中のあらゆるポイントに、この日の為の手段を備えてある……と。
そして、王国にも「予め」そのギフトは用意されていると、騎士団の団員は告げられ、レーダーが封じられている状況下で決死の捜索が続いている最中のことだった。
「見つけたぞ!!……これだ。これこそが……独立機動端末……、我らの切り札だ!!」
王国の兵が見つけた「それ」は、全長22mはあるだろう巨大な体躯を持ち、鋼鉄の体は人が乗り込むための入り口と空間を用意している。
それが、複数機。
それが意味しているのは、「これに乗って戦え」ということだ。
「普通ならば」、そんなことは躊躇うだろう。
だが、自分達は王国の兵士だ。戦う覚悟はある。
予め知らされているからこその用意が、元々あるのだから……。
――――そして、
絶望からの反撃が、始まろうとしていた――――
11か月ぶりの更新となります、天地です。
本職の肉体労働がかなり大変で、ストーリーを書き溜めてはおりますが、それを追加する暇を用意できないのがただ辛い……。
ここまで読まれることで、遂にこの作品が「ロボットもの」であることが分かるかと思います(笑)
次回のストーリーでは、漸く「主人公にまつわる物語」+「出題編」の予定となります。
但し、「序章のストーリーと繋がるかは一切保証出来ない」ので、時系列はどうなるのか……!?