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序章・SIDE:B

<2021年12月30日更新>


一部名称を変更しています。

旧・<国連平和維持活動軍>→新・<国連平和維持機構軍>


他、一部文章に些細な変更を行いました。



 SIDE:B


――ある報道機関関係者が見た「絶望」






 今日は喜ばしき日となるはずだった。


 NJIC(新日本情報共同体)は、1965年の第3次世界大戦以降、真なる「新日本国国民の為になる情報を正確に提供する放送メディア」たる努力を繰り返し、今に至った。

 その甲斐あり、今や新日本には僻地にまでその情報が届くようにと「競争のし甲斐がある」ライバル企業が次々と旗揚げし、TV媒体の情報メディアも充実してきている。


 電波発信塔の中枢である東京タワーに続き、それの通信体制を強化する全高650mの「新日本中央バベル」の完成によって、通信系統は盤石の物となった。

「GOVERNER」の充実の為には、このタワーは欠かせないと政府広報で語っているし、他の先進国でも積極的に建設が行われている。


 ただ、親日国家でありながら「アンチガヴァニズム推進国家」でもあるスオミ共和国の様な悪例……協力への全面拒否もあるのは、なんとも愚かしいと「彼」は感じていた。


 しかしそれは、世界中で異変が起こるまでの話。


 今は……<絶望>しかない。


 元々、NJICの報道番組の一つ「こんばんは新日本」のディレクターや、アイドル事務所最大手の一つ「神室崎プロダクション」の同社長と、本当ならば起動記念パーティーで杯を交わし今後の番組タイアップについて冗談を交えながら語り合うはずだった。


 NJICの撮影ビルは今、「彼ら」によって攻撃を受け、彼……会長がいる部屋も黒煙が入ってきたのでハンカチで口を覆って避難をしている最中なのだ。


 はっきり言って意味が分からない。

これが、第一印象。


 本格起動まで、実際にテスト運用が行われ、安全性はクリアーされていると自分の報道局でしっかり伝えていた筈なのに、無関係者には一切の犠牲は今までなかったと実証されているのに。


 絶対正確、絶対中立、国民第一主義と標榜している以上、嘘偽りなど言おうものなら信用問題に関わる。そもそも、最近は偏向報道も多く、政府与党である「公正自由党」を非難する層寄りの傾いた放送を繰り返したスタッフを更迭したばかりで、信用回復の為に下げたくない頭を、低身低頭を繰り返して漸く再起を始めたばかりだったのに、だ。


 最初の攻撃で、公正自由党…公自党のシンパを騙る極右組織の長が決起宣言中に建物に押し潰されてそのまま「挽肉になった」のを引き金に、大手企業の主要施設、政府官邸、日防隊(新日本防衛隊)の主要駐屯地などが次々に襲われた。

 無論、ここも例外ではなかった……という訳だ。


――そして、それを報道していたヘリコプターや放送車は、悉くスクラップとなった。


 犠牲になったスタッフにはNJICは勿論、他の報道各社の者も当然混ざっている。大元を辿れば、彼らは記念すべきGOVERNER起動記念日となる今日の様子を撮影する為に待機していた面々だ。


 何故知っていたのかといえば、関係スタッフとの連絡が突然途絶えたこと、その関係者達はこぞってその攻撃を受けた現場に向かっているのを報告されていることが上がる。

 ……単純なことだろう。


 煙に巻かれながらも、スタッフ達と共に避難経路に従って逃げる。


 避難訓練で何度か行ってきたことだが、現実問題として「パニック状態」ではなかなか難しいものがある。煙の量が多く、逃げ方を間違えて何度も引き返して、正解かと思えばそこが更に崩壊していく……そんな状況の繰り返しが続いているのだ。


 会長の気が狂いそうになる中、NJICの施設内に複数存在するモニターが数秒のノイズの後、全てが「あるマーク」を表示する。


 球形の地球に不規則に表示される数字の羅列が水平に大きな輪を描き、それがそのまま「水平の輪に囲まれたGの文字」へと変わっていく。


 最早、知識を有する人間であればみんなが知っている「それ」は……


<地球上に生きる全人類に告げる>

<我々は、「GOVERNER」>


 人類の未来を司る新たなるテクノロジーのカタチとなるはずだった、GOVERNERの電子音声だった。


<世界の生態系を司る「最高位の種族」を気取る人類よ、審判の時は……来た>


 無機質な電子音声と共に、画面には複数の字幕が表示され、延々とメッセージを流し続ける。カチカチカチカチ、タイプライターで入力しているかのような音をわざわざ流しているのも、妙に芸が細かい。


 ホラーゲームの要領で、恐怖心でも煽っているのだろうか?だとしたら、GOVERNERは余程趣味が悪いのだろう。


<人類、死すべし>

<人類、死すべし><人類、死すべし>

<人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし>

<人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし>

<人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし>

<人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし><人類、死すべし>


 まるで念仏か呪文のように、延々と<人類、死すべし>というメッセージが流れ続けるようになったモニター。


 延々と続く音声メッセージは聞いていればいるほど、気が狂いそうになる。




 気付けば逃げていたのは局長一人のみ。


 煙と爆音で気付けなかったとしても、奇妙過ぎる。

 こんな短時間で十数人いた関係者が、はぐれるなどあり得るのだろうか?


 先走り過ぎて、なのだろうか?……に、しても後ろは何度も確認していた筈なのに。

 自分に抜け駆けして、秘密の抜け道から逃げたとでも?

 そんな話は、知らないし聞いたこともない。


 ……だとしたら、何だというのか。神隠し?テレポート?どんでん返し?


 馬鹿馬鹿しい。最後はともかく、残る二つはオカルトにも程がある。非現実的だ。


 

 局長の頭の中で現実と非現実が錯綜し、いつしかシェイクされてしまっていく。

 

 だがしかし、だ。内も外も爆音と警報音で聴覚を乱されている状況下、局長の気付かぬ事態が水面下で進んでいたとしたら……?

 そうすると、サバイバルホラー映画の様に気付けてくることが、ある。


 


 既に、自分以外の人間が殺されているかもしれない……ということに。




 そうでもなければ、自分のみが逃げているという異常事態が続いているとは考えられないのだ。

 そしてそれを物語るかのように、近くのドアの下の隙間から……赤黒い液体がじわじわと局長の視界へと入り始めてくる。


「あ、……あぁぁ……あわわわ…………」


――血だ。


――血液だ。


 今まで見ているものの中であのような色遣いの液体は、それくらいしか思い浮かばない。


――嗚呼、こんなことなら「国連軍の英雄と呼ばれていたという置物の老害」などとルザーク・ゾルバン将軍のことを侮辱する発言をとるべきではなかった。


――絞兎死して走狗煮らる、などと国連平和維持機構軍を不要な存在として批判をするべきではなかった。


 日防隊がいれば大丈夫だと、高を括った素人発言をするべきじゃなかった、と今更になって後悔の言葉が浮かんでくる。


 局長……森野権三郎は、権力を手にする為ならばどんなことだってする。謂わば小悪党の性分がある。

 武力が必要ならばそれを肯定し、平和の為ならば大義の為ならばとイエスマンにだってなる。それらがやり過ぎだと批判されてお上が掌を返せば、自分もそうする。そんな、卑怯な大人の典型といえる男だった。

 当の本人は「大人の都合だ」と開き直って、直す気は毛頭ないが。


 そして今は……掌を返している。自分に都合のいい時に、物乞いをする愚かな人間になり果てているとも気付かずに。

 血が流れ出したドアは、数度の衝突音と共に軋み出し、今にも「それ」の正体を露わにしようとしている。



 もう……終わりだ……!!



 森野が自身の最期を悟るのと同時に、ドアが破壊され、無造作に吹っ飛んだ。

 人間の……職員の死体と思しき体を左のマニュピレータで固定したまま、4m程の「何か」が現れる。

 その事態に、恐怖が絶頂に達した瞬間に、森野は意識を手放すこととなった。




 その後、彼がどうなったのかは……誰も、……知らない。


 NJICの職員の殆どは内部の惨状を知らない。皆、逃げ切る前に殺されたか、別の場所にいたから。




――――つまりは、そういうことである……。










前回から大分時間を離してしまい、申し訳ございません。


ここまでの話ですと単純にSF要素の入った「パニックホラー」になってしまうかもしれませんね……(汗)

ただ、世界観を知って頂く為にはどうしても必要なものと自負しております。

次の話で、パニックホラー要素は最後です。


まだまだ僕の書きたいロボットものですらありませんので……、どうか生暖かく見守っていて下さい。


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