あこがれのひと
ボクには好きな人がいる。つい先日転校してきた泉レイカさんだ。教室に入ってきた彼女を初めて見た時は銃で胸を撃ち抜かれたような衝撃を感じた。彼女のあまりの美しさに一目惚れしてしまったのだ。この人以上に清楚という言葉がぴったり当てはまる女性はいないだろうと思った。まだ告白もしていないが、一生ついて行きたいと思った。
片想いのまま一ヶ月が経った。ボクは異変を感じた。最近の彼女の言葉や行動に少し違和感がある。みんなに何かを隠している気がした。
ボクの予想は当たっていた。弟のマサトくんとゲームをしていたレイカさんが「ごめん、ちょっとクソしてくるわ」と言ってトイレに立ったのである。あのレイカさんの口からクソという言葉が発せられたのだ。もはや何が起きているのか理解できない。なんという言葉遣いだ。
トイレに入った彼女は用を足さず、ポケットからスマートフォンを取り出した。誰かと電話しているようだ。
「例のブツは手に入ったんだろうなァ」
レイカさんが電話の相手にドスの効いた声で言った。どこからそんな声出てるの? 完全にヤクザなんだが。
「絶対にぬかるんじゃねぇぞ。じゃねぇとおめぇも消えることになるんだからなァ」
学校で会うレイカさんとは完全に別人だった。そういえば、電話の相手は誰なんだろうか。イイなぁ、レイカさんと電話出来るなんて。ボクとも電話番号交換してくれないかな。
「おい聞いてんのかコラァ」
聞いてないのか、けしからん! せっかくレイカさんと電話して声を聞く機会が与えられているというのになんという勿体無いことをしているんだ! 電話相手め⋯⋯見つけたらただじゃおかん。
「あー、あー、分かった。じゃあなァ」
レイカさん、なんで語尾が「ァ」になるんだろう。電話相手のことよりもこっちのほうが気になってきた。
「ねーちゃんうんこ長すぎ! 俺もしたいから早くして!」
マサトくんもトイレのようだ。
「ねーちゃんのうんこは長くない! お前の平均サイズより五センチ短い!」
なんで弟のうんこの長さ知ってるんだレイカさん。ボクの知ってるレイカさんは弟のうんこの長さ測って平均出したりなんてしないよ⋯⋯
「うんこの長さじゃないよ! うんこタイムの長さだよ! 早くしてよもう漏れる!」
「漏らせ漏らせクソガキィ! その程度でちびるようじゃ真の漢にはなれぬぞ!」
レイカさん、君は一体何者なんだ。もう怖くなってきた、そろそろ帰ろう⋯⋯
「ちょっといいかな、君この家の人? ここで何やってるの?」
この後、ボクは覗きを働いたとして逮捕された。
うんこってけっこう我慢出来るよね