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I-3

時刻は11時を少し過ぎたあたり、ツアー初めの目的地はレストランだ。


「お腹空きすぎて死にそうだよー」


ヒョヌンがトライシクルの中で叫んでいる。確かに僕たちは朝食をまともに食べていなかったので、みんなお腹ペコペコだ。


ーーーーーー


店には15分ほどで到着した。入口から店まで白砂が敷き詰められており、横にはヤシの木が並んでいる。店も白が基調のログハウスのようなデザインでかわいらしい。中に入ると、奥は壁がなく開放的で、そこにはあの港から見えたまぶしいビーチと海があった。6人全員大興奮で、みんなそれぞれ歓声を上げている。


僕たちの昼食は店の中央にある丸テーブルにきれいに並べられている。フィリピンの焼きそばや野菜炒め、そして名物のバーベキューチキン、他にもフライドチキンやお米など、どれもおいしそうだ。


レストランでは、僕を中心に言うと、僕、リョウちゃん、ロイ、ユキさん、ケヴィン、ヒョヌンといった配置になった。つまり、僕とロイがリョウちゃんを挟む形になったのである。しかし、リョウちゃんは、


「これおいしかったよ。」


と言って、僕のお皿に料理を盛ってくれたり、ロイに対しても、


「ロイは船酔い大丈夫だった?」


など、日本語で僕が参加できるように話を共有してくれるので、ロイも日本語を使って、三人で話す形になった。リョウちゃん、ロイ、ユキさんは小食なのに対し、僕と、ムキムキのヒョヌンとケヴィンはよく食べるので、


「あれ、Yusukeあんまり食べてないんじゃない?」


と僕はケヴィンにからかわれ、


「上等!ヒョヌンには負けへん!」


「Yusuke、体細いから僕には勝てないよ」


と三人で大食い対決をしながら、ほとんどの食事を平らげた。それを小食三人組が、少し唖然として見ていた。


食事を終えると、ガイドさんにレストランの前のビーチで遊ぶことを進められたので、僕たちはその夢のようなビーチに向かった。この砂浜は、なんとも白く柔らかくて、日本で味わったことのないものである。海に向かって歩いたが、リョウちゃんは、


「私はあまり焼けたくないし、ここで休む」


と言って、ビーチの中腹にある、屋根付きの椅子に座って休憩をとるようだ。すると、その時唯一靴を履いていたロイが、


「じゃあ、サンダル借りていい?」


と彼女に言っている。それを聞いて、僕はらわたが煮えくり返った。「こいつ、男のくせに彼女からサンダルを借りるなんて何様なんだ。足臭かったらどうするつもりなんだ。」と思ったが、なるべく負の感情は表に出さないようにした。


しかし、いざ海に行くと、その透明度のはなはだしさから、先ほどの僕のすさんだ心も透き通った気持ちになる。この時、誰も水着を着ていなかったので、泳ぎはしなかったが、水がくるぶしにつかるほどの浅瀬で、小さいフグの赤ちゃんが泳いでいたので、それについて行ったり、撮影したりしていた。すると、最年長のケヴィンとユキさんは、意外にもいたずら好きで、水面をのぞき込んでいる、僕とロイのお尻に水をバシャリとかけてきた。


「あー!スマホ濡れるやん!」


僕が反撃しようとすると、続いて、ヒョヌンもどこから拾ってきたのか、海藻を僕たち4人に投げつけてくる。そこからはもうお構いなしだ。僕とロイは、スマホに注意を払いながら、盛大に反撃した。


一通り遊び終え、リョウちゃんのいる屋根付き休憩所についた時には、みんなビショビショになっていた。ロイは無造作にリョウちゃんのサンダルを脱ぎ彼女に返す。海水がついていたこともあって、そのサンダルは砂を大量に付着させていたが、リョウちゃんは笑いながら中国語で何か彼に言っている。僕は意外にもリョウちゃんが怒っていないことと、ロイの悪びれもない態度に驚いた。これは中国人の性格なのか、それとも彼らは、こんなことも気にせずにいられる関係なのか。僕は先ほどまで一緒に楽しく騒いでいたこのイケメンが、今後の僕の恋路を妨害するかもしれない要注意人物であることを認識した。


ーーーーーー


このレストランを後に、僕たちは今夜の滞在場所に向かう。そこにはバンガローが6棟あり、それぞれ中にはベッドが2つとテレビ、そしてシャワーとトイレが一緒の洗面所がある。あらかじめ言われていた通り、前にはプライベートビーチがあったが、レストランのそれと比べると、少し海が濁っていた。これも少し前の台風が影響しているらしい。


部屋割りを決めるにあたって、ここでもケヴィンのリーダーシップが発揮される。彼はリョウちゃんとユキさんが1つ、韓国人同士ということで、ヒョヌンとケヴィンが1つ、そして、僕はロイと同部屋という風にすぐさま決めてしまった。先ほど、ビーチで遊んでから少し距離は縮まったとはいえ、僕は依然として、彼に良い感情は抱いていない。しかし、これはある意味において、彼に彼女のことを聞くチャンスなのかもしれないと、僕は思った。


部屋の前でガイドさんが、


「それじゃあ、部屋に荷物を置いたら、島内を案内します!内容は、島のお土産屋さんを見て、マングローブ園に行って、海水浴場で遊んでから夕食をたべます。他に気になるところがあれば、そこも行けるようにするので、なんでも言ってくださいね」


そのアナウンスを聞き、僕たちは各々部屋に入って支度を始める。ロイと僕も部屋で水着に着替え始めた。ロイが、着替える前にトイレを済まそうと、洗面所へ向かう。すると、


「うわっ!Yusuke!助けて!気持ち悪い!」


彼は大声を上げて、パンツ一丁の僕の元に駆け戻ってきた。何事かと思いながら、一緒に洗面所に行くと、白い便器を覆うように、黒いツブツブがうごめいていた。よく目を凝らすと、全部蟻だ。すぐに隣のケヴィンたちの部屋と女子部屋に尋ねて、他の4人を僕たちの部屋に呼んだ。人が混んでいたので、リョウちゃんは外で待っていたが、みんな、洗面所の蟻を見ると、


「これはスタッフに言わないとね」


ケヴィンがそう言い、みんな彼に続いてスタッフルームへ行ってしまった。部屋に一人残された僕は、遅れて外に出てみると、そこにはリョウちゃんだけ残っていた。


「リョウちゃんも見てみる?めっちゃ気持ち悪いよ?」


少し遠慮気味の彼女を、僕は洗面所まで案内することにする。僕は虫に夢中だったが、冷静に考えると、今、僕は彼女と部屋で2人きりだ。先ほどまで仲良く話していたのに、部屋に入ると、彼女は若干僕と距離を取って歩いている。僕は気にせず、洗面所の蟻を彼女に見せた。


「これがさっきみんなが驚いていた事件現場!」


僕は少し大げさに便器をアピールするが、彼女は、


「へぇ」


といっただけで、部屋をすぐに出ていこうとしてしまう。その瞬間、僕は彼女がなにやらドギマギしていることと、耳が少し赤くなっていることに気づいた。駆け足気に部屋を出る彼女の後姿を見て、僕はなんだか変な期待とその否定を自分の中でした。


ケヴィンたちが呼んだスタッフは見るからに強力そうなスプレーを持って、僕たちの部屋に入ってきて、それを撒き始める。ついでに残りの2部屋も同様に撒いて、彼は戻っていった。しかし、殺虫剤の臭いがきつく、人に害がありそうなので、僕たちは急いで、水着とその上に少し羽織って、部屋を出てツアーに出発した。


ーーーーーー


お土産屋さんで、200円で偽Ray-Banのサングラスを買ったり、マングローブを歩き回ったりと、フィリピンらしいところを巡り、日が沈みかけたころ、僕たちは海水浴場に向かった。時刻は4時を少し回っている。マングローブでみんなそこそこ歩き疲れているが、やはりきれいな海を見ると、入りたくなるのは僕たちにまだ童心が残っているのだろう。


「カジャカジャ!」


ヒョヌンが韓国語で「行こう行こう」とはしゃぎ、僕たちもそれに続く。だが、ケヴィンとリョウちゃんは休みたいと言って、ガイドさんと一緒にビーチに座っているので、僕たちは4人で遊ぶことにした。僕は初めて本格的に泳げることに意気揚々としていた。なぜなら、僕は4歳から小学生まで水泳を習っていたので、泳ぐのが大の得意なのだ。周りを見ると、ユキさんも上手に泳いでいるし、ヒョヌンも泳ぎが速い。あっという間に遠くへ行ってしまった。しかし、ロイだけはかなづちで全く泳げない。浮き輪もラッシュガードもないので、彼は足のつく範囲でしか動き回れないのだ。


「Yusuke、泳ぎ教えてよー」


ロイは小動物のように人懐っこく僕に頼む。僕の彼に対する気持ちは昼間と変わらないが、こう頼まれると断ることもできない。僕は彼に泳ぎを教えることになった。僕が彼の手を取って、背泳ぎで彼を誘導し、彼は僕の手を強く握りしめながら、必死のバタ足で、僕について来る。


「ぶはっ」


水を飲まないように必死に顔を上げる彼は何とも健気だった。


このように遊んでいると、意外に楽しく、彼を応援してあげたくなり、昼間の彼に対する警戒心は次第に薄れ始めた。そして、僕たちはいつの間にか、良好な交友関係を築き上げることができていた。


ーーーーーー


僕たちは海水浴を十分楽しみ、夕食の時間になった。僕はロイと仲良くなってからは特に、リョウちゃん、ロイ、僕の3人で話す機会が増え始めた。2人とも、


「日本語の練習しないとね。」


と言って、日本語を使ってくれるし、何より、僕の一方的な気持ちだが、もともと敵対していた人と打ち解けることほど、嬉しいことはない。夕飯はフィリピン料理の食べ放題で、蟹や白身魚のスープ、煮つけなど種類が豊富である。しかし、残念なことに、それらの身は新鮮でないことが明白なほど固く、味付けも塩辛かったり、甘ったるかったりする。フィリピンのご飯が日本人、いや、中国人、韓国人にも合わないことはよくあるし、鮮度の信頼ができないことは読者の皆さんにも留意しておいてもらいたい。


バンガローに戻ると、午後8時頃で、少し寝るには早い。なので、ビーチでみんなでお話しようということになった。お酒を飲みたい人はそれぞれビーチにあるカフェで購入し、僕はお酒に弱いのでコーラを買って、みんなでベンチを円形に置き、そこに座る。波の音を聞きながら、みんなでゲームをし、僕たち6人の仲は一段と良くなっていくのを感じた。親しくなってからのロイは、僕に付きっきりで話しかけてきて、


「そこで遊んでいる子供たちと一緒に遊ぼうよ!」


と言って、近くでバレーボールで遊んでいる3人の子供たちのところに彼は僕を引っ張っていく。昼間からほとんど動きっぱなしの僕とロイはへとへとだったが、友達作りの上手な彼と一緒にいると、つられて僕も友達ができるので、僕は彼を友達として信頼し始めていた。


ーーーーーー


遊び終え、汗と砂で僕とロイはぐちゃぐちゃだったので、シャワーを浴びに行くとみんなに告げると、その日は自然と解散になった。次の朝は6時起きで、朝食を済ませ、美しいビーチで有名なvirgin islandに行くので、今日は早く寝て、明日に備える必要がある。リョウちゃんに「おやすみ」と笑顔で言われて、心の中でガッツポーズをし、僕はロイとともに部屋に戻った。


僕とロイはシャワーを浴び終えると、僕たちは少しお互いについて話し合った。「どうして留学に来たの?」「小中学生の時はどんな感じだったの?」など。彼は、中国人特有のなんでもおおっぴろげに話してしまう性格なので、僕たちはいろいろ話すことができた。その中でも彼は、


「俺、実は人生で今まで彼女ができたことないんだよね」


とイケメンらしからぬ発言をし、僕を驚かせた。


「嘘でしょ。ロイかっこいいやん」


「うん。確かに俺は人よりは整った顔してるよ。それに告白されたこともある。だけど、なんだか、俺の方はその女の子のことあんまり好きじゃなかったから」


「へぇ。でも、そんな自信ある顔してるのにもったいない。好きになった子とかもおらんの?」


「うーん。あまりないな。最近好きが何かわからなくなってきた。Yusukeにとって好きって何なの?」


急に哲学のような話題になり、僕はたじろいだ。


「えーっと。相手のことをもっと知りたい。とか、ずっと一緒にいたいっていう気持ちかな。あんまわからへんけど」


僕は頭の中にリョウちゃんのことを思い浮かべながら、彼に答えた。


ーーーーーー


僕たちはお互いベッドに入って、消灯してからも、話を続けていた。なにせ僕には、彼のリョウちゃんの気持ちを明らかにすることと、必要ならば、僕のリョウちゃんへの気持ちを示すという2つのミッションがあるからだ。「もし、彼が彼女を好きだったらどうしよう。このイケメンが恋のライバルになるのは不本意極まりないなあ。」そう思と、なかなか切り出せなかった。「しかし、早く聞かないと寝てしまう。腹をくくれ自分。」何度も自分にそう言い聞かせ、しばらくし、ようやく勇気を振り絞ることかできた。


「ロイは今気になってる人とかおらんの?」


「うーん。秘密。」


まじか!!!これは絶対いるパターンの返事だ。先ほどまで自分の過去を包み隠さず話し続けていた彼の「秘密」という言葉には、非常に重みが感じられ、僕は彼を追求する。


「絶対いるやん!俺もいるし、教えるからロイもの教えてよ」


修学旅行の夜に良く見る光景だと思いながら、僕は彼にしつこく聞き続けた。


「わかった。じゃあちょっとずつ教えて。まず、その人は何人?中国人?」


「うーん。日本人。セブの語学学校で会った人」


これを聞いた瞬間僕は胸をなでおろした。「よかったー。これで彼はライバルではない。中国人じゃなくてよかったー」ここからの僕は興味本位で彼の好きな人の特徴について質問していった。うちの学校には、約200人生徒がいて、男女半々くらいの比率だ。いったい誰がこのイケメンを惚れさせたのだろう。


「へー、じゃあ、その人のどういうところが好きになったん?」


「俺も、まだわからないんだ。この旅行を通じて気持ちが高まったから」


「あれ、この旅行にいる日本人は、ユキさん!?いけないロイ!その人は人妻だ!」心の中でそう呟きながら、僕の心臓はバクバクしていた。この先、話を聞いてもいいのか、もし聞いてしまったら、僕はどう返事をすればいいのだろうか。しかし、僕も彼もここまで来て、この話を中断することもできない。次はどう話を振ろうかと考えていると、次は彼が質問してきた、


「ねえ、Yusuke。君は僕を大事にしてくれる?」


少し必死さが含まれる彼の問いに「ああ、するとも!人妻を好きになるなんて、そんな感情を1人で抱え込むのは大変に違いない。僕が彼に寄り添ってあげないと!」と、僕は心で反芻した。


「もちろん!!俺はロイのこと大事に思うし、こんなにお互い自分のことをさらけ出したやん!特別に大事にするよ!」


部屋は暗いし、お互い別々のベッドで寝ているので、彼の表情は見えないが、相手がものすごく緊張していることは伝わる。『好きが理解できない』と言っていた彼が、久しく好きになった人なのだ。きっと打ち明けるのは至難の業なのだろう。すると、彼はゆっくりと話し出す。


「わかった。ありがとう。じゃあ、言うね。俺の好きな人はね。Yusukeだよ」


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