天才は妹達を心配する
仕事を終えた春人はいつものように車で送られ自宅に到着した。春人が住むのは50階はあるだろう高層マンション。
エレベーターに乗り、押し慣れた50階のボタンを押す。春人が住んでいる場所は最高層の50階だ。
景色が絶景な50階の部屋は家賃が高いこの高層マンションの中でも飛び抜けて高い。だが、春人の稼ぎを考えればなんら不思議でもなかった。
エレベーターが50階に到着すると、自宅である部屋へと一直線に歩いていく。その姿は少し焦っているようにも見えるが、、、、。
部屋の前に着くとインターフォンを鳴らす。すると、家の中から足音が聞こえてきた。
ガチャリとドアが開くと、、、、、
「お兄ちゃんお帰り!」
「ただいま、美優」
ドアから顔を覗かせたのは春人の妹である綾瀬美優だ。ニコニコしながら春人を迎えるその様子はとても嬉しそうである。
対する春人も最愛の妹に出迎えられて、今日一日の疲労も吹き飛んだ気分だった。
「今日は少し遅かったね?」
「ああ、今日は少し仕事が多かったんだ」
「そうだったんだ、お疲れ様お兄ちゃん!ご飯とお風呂どっちからにする?」
「ご飯からにしようかな」
「了解!今日はね、お兄ちゃんの好きなハンバーグだよ!」
「おお!それは楽しみだ。」
迎えてくれた美優と一緒にリビングに向かいながら、話す春人。リビングに入ると夏には嬉しい冷房がキンキンに効いていた。少し肌寒い気がするくらいだ。
「少し冷房効きすぎじゃないか?風邪ひいてしまうだろ。」
「いや、さっきまではちょうどいいくらいの温度だったんだけど、、、、って雪菜!」
不思議そうにしていた美優だったが、ハッと気がついたように広々としたリビングにあるソファを見た。
そこにはもふもふの猫柄のフードを被って寝ている人がいて、、、、
「温度下げたの雪菜でしょ!?」
その声に反応したのか、のそのそっと起き上がる。
「あっ、お帰り兄さん。」
「ただいま、雪菜。」
目を擦りながら、春人に声をかける。春人のもう1人の妹である綾瀬雪菜だ。
「兄さん、帰ってくるの遅かった。お腹減った。」
「ごめん、ごめん。すぐにご飯にしよう。」
綾瀬家では3人揃ってご飯を食べるのが日常である。
そんな会話を2人でしていると、、、、
「聞いてるの、雪菜!温度下げたの雪菜でしょ?」
「、、、、、私じゃない。」
「雪菜以外誰がいるのよ!」
「勝手に下がった。」
「そんな訳ないでしょ!!」
美優と雪菜の間で言い合いが始まった。雪菜は温度を下げる癖みたいのがあり、前々から美優が注意しているのだが、中々直さないのが現状だ。
そんな2人を微笑ましそうな表情で見つめている春人だったが、これではいつまで経ってもご飯にはできそうにないので仲裁に入ることにした。
「雪菜、風邪を引いたらいけないから、温度は下げ過ぎたらだめだぞ?」
「むぅ、、、、兄さんがそう言うなら、、、」
そう言って、リモコンを片手に持ち温度を上げる操作をした。雪菜は春人に対しては物分かりがいいのだ。
「ていうか、やっぱり温度下げたの雪菜じゃない!」
「兄さん、早くご飯にしよう」
「人の話を聞きなさい!!」
美優の言葉を自然とスルーする雪菜。もう1度言うが物分かりがいいのは春人に対してだけなのだ。
「まあまあ、それくらいで。雪菜も分かってくれたんだから、、、早くご飯にしないとせっかくのハンバーグが冷めてしまうよ」
「もう!お兄ちゃんは雪菜に甘いんだから!!」
ぷくぅっと頬を膨らませながら、不満アピールをする美優だったが、その様はただただ可愛らしいだけであった。
一悶着が過ぎ、ご飯が用意されていたテーブルに座る3人。一目でバランスが良く作られているメニューだということが分かる。
春人のいただきますを合図に食べ始める。
「うん、とても美味しいよ」
「えへへ、そうでしょ!」
「うん、美優は料理だけは上手。」
「料理だけって何よ!」
と和やか?な雰囲気で食事が進められていく。
数十分で3人とも食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいる時だった。
「そういえば、雪菜。今日の昼休み、学校の渡り廊下で何してたの?男の人と一緒にいたけど、、、」
美優と雪菜は同じ高校に通っており、美優が昼休みに偶々雪菜が渡り廊下で男子生徒と2人で一緒にいたのを見かけ、何をしていたのか気になったので発せられた言葉だった。
その話を聞いて、コーヒーを飲んでいた春人は少しむせていた。
「、、、、別に。ただ告白されただけ。」
「ぶほぉっ!」
「お、お兄ちゃん、、大丈夫!?」
思わずコーヒーを吹き出してしまった春人。それだけその話に驚いたのだ。
「そ、その話は本当か雪菜?」
「本当だよ?」
と小首を傾げる雪菜。仕事柄、相手の眼球の動きや仕草や動作、呼吸数から嘘かどうか分かる春人だったが、明らかに嘘ではないことが分かる。
「そ、それで返事はどうしたんだ?」
話の核心へと迫る春人。重要なところはそこなのだ。ゴクンっと生唾を飲み込み、雪菜の返事を待つ春人。
「断ったよ?」
「ほ、本当か?」
「、、、うん」
「本当に本当なんだな?」
「むぅ、、、兄さんしつこい」
「あ、ああごめん。少し驚いてしまったね。」
眠たげな目でしつこい春人に対して不満そうな表情で訴える雪菜。春人はその表情で一旦問い詰めるのをやめる。
(一旦落ち着こう)
そう考え、コーヒーを口に含む。
その時だった、、、、、、
「、、、、美優もこの前告白されてた。」
「ぶほぉっ!」
「お、お兄ちゃん!?」
「だ、大丈夫だ。そんなことより、それは本当なのか美優?」
コーヒーを口から垂れ流しながらも美優に問う春人。
「本当だけど、、、ってなんで雪菜が知ってるのよ!?」
「校舎裏で見たから」
「なんで校舎裏にあんたがいるのよ!!」
「偶々通りすがっただけ」
そんな問答を2人が繰り広げる中、春人は心を落ち着かせることに必死だった。
(落ち着け俺、、、)
そう自分に言い聞かせる。
「返事はどうしたんだ?」
「断ったけど、、、それがどうかしたの?」
「い、いやなんでもない。」
美優も嘘をついているようではなかったのでひとまず安心する。
「二人とモ、モテるんだな、、、?」
「別にモテてなんかないよ。それに恋人作るつもりなんてないわけだし、、、」
「面倒なだけ、、、、」
2人は自覚は薄いようだが、実際のところ高校ではモテるどころか、ファンクラブまでできそうな勢いである。
実際、兄の欲目を差し引いたとしても容姿端麗な妹達である。そのような事が自分の知らぬ間に行われてたとしても特段驚くような事でもない。
だが、、、、、
(2人が心配だ)
妹達が男の毒牙にかけられるかもしれないと分かった途端にものすごく不安になる春人。
どうするべきか、そう考えた時すぐにある妙案を思いついた。
(そうだ、2人の学校生活を見に学校へ行こう)
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