083 エルダーリッチの妄想お手紙
低位のスケルトン、ゾンビ、幽鬼などが集まれば、彼らより溢れ出る憎悪が、地中に染み込む。
それが地下深く眠る、古代の戦人に絡みついていく。
何十層も絡みつくころには、その部分がぬかるみとなり戦人が這いあがってくる。
その姿は、生者を絶対に殺すという意思に溢れていた。
憎悪が死者に贈る、新たな甲冑や武器は、とても禍々しいフォルムをしている。
触れるものを切り裂くように、至る所が鋭利にとがっているのだ。
これが低位アンデッドから、新たに強い中位アンデッドが、生まれるプロセスである。
その中位アンデッドが、スペックを生かし更に北へ推し進む。
しかしある地点で、ピタリと進むのを止めてしまう。
ここら辺は低位アンデッドと、同じ理屈なのだろう。
これ以上進んだらヤバイかもと、防衛本能が働くのだ。
山頂から眺めると、外側に低位アンデッドの層、内側に中位アンデッドの層が、ハッキリと別れているのを視認できる。
山間部なのでアンデッドコロニー同士は、分断されている。
しかしこれらを更に高い位置から眺めれば、北の一点を中心にした、巨大な二重リングが確認できるだろう。
「随分増えたなあ、中位アンデッド」
イースが山頂で双眼鏡を覗きながら、うんざりした声をだす。
「増えただけじゃねえよ、あいつら何してんの?」
サンフィルドの眼下にある盆地へ、周りの中位アンデッドが、どんどん集まって来ていた。
イースたちが早朝から髪をおだんごにして、アンデッドコロニーを観察していると、発生した中位アンデッドたちが、移動していくのを目撃する。
どこへ行くのかと思い付いていくと、少し離れた場所にある盆地へ、中位アンデッドが集まっていた。
イースたちが付いていった中位アンデッドだけでなく、他の場所からも集まって来ている。
一体なにをしているのか?
「何してるか分からないけどよ、分かることはあるぜ」
「なんだい?」
「あれ絶対、俺たち生きてる奴にとって、ろくなもんじゃねえよ」
「あー、それは間違いない」
「イース、なー帰ろうぜ」
「いや、それはちょっと……」
イースの安全を確保したがるサンフィルドと、観察したくて、それをのらりくらりと躱すイース。
そのやり取りの横で、リールーは黙々と双眼鏡で眺めていた。
不安から口数が多くなる男子とは違い、リールーは黙して熱するのだ。
サンフィルドの提案を躱すためなのか、イースはふと思い出した事を話し出す。
「ねえ、エルダーリッチの書簡って知っているかい?」
「なんだよ、それ?」
「話して」
黙して熱するリールーも、食いついてきた。
「大昔にエルダーリッチが、他のエルダーリッチに当てた手紙さ。
そこにはアンデッド発生の、考察が書かれているんだ。
主題は、中位アンデッドが集まるとどうなるか?」
「ふんふん」
「続けて」
「結論からいうと、現実的じゃないって書かれている」
「どういう事だ?」
「続けて」
「中位アンデッドが集まるなんて、地獄でもない限り無理だって書いてあるんだ。
それはもし地上で集まることになったら、たちまち生者が介入して、潰しにかかるからさ。
中位アンデッドが集まるには、その前段階で、大量の低位アンデッドが必要になってくる。
もうその時点で、生者どもに潰されるだろうと書かれている」
「あー」
「それだけ?」
「いや、ここからが面白い。
それでも、もし集まれたという仮定で手紙はつづく。
せっかく中位アンデッドが集まるんだから、単純にまた地中から強いアンデッドが、発生するんじゃ面白くないと書いている。
私が考えるに天然のアンデッド発生の上位現象として、天然召喚式が来てほしいと書いている」
「天然召喚式ってなんだよ、聞いたことねえぞ」
「本当にあるの?」
「ないよ彼が作った造語さ、そう言いうのが、あったら良いなっていう願望だね。
そいつで凄いやつを呼び出して、ダークエルフを蹴散らしたいと書いて、手紙は結ばれている」
「なんだよそれ。ただのエルダー妄想お手紙かよ」
「ばかみたい」
「うん、そうなんだよ。でもさ……」
そう言って、イースは眼下に広がる景色を眺めた。
その妄想の第一段階、中位アンデッドのコロニーが目の前にあった。
その視線を察してリールーが言う。
「なによ、その妄想をどっかの神様が、叶えてくれるってわけ?」




