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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第1章 異界の異物
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008楽市、また起こされる~くわえ加減が難しい~


「だめだめっ、付いてきちゃ。ここを離れちゃ駄目だよっ」


二匹は、首を傾げてキョトンとしてしまう。楽市は赤子たちを膝に乗せて、強めに言い聞かせる。


「いーい? 大きくなるまで、ここを離れちゃ駄目だからね!」


赤子にはまだ言葉が通じない。

分かってくれるだろうか?

赤子たちを膝から降ろし、ちょっと山を下って振り返ると、やっぱり付いて来ていた。

 

「ああ……」


二匹が大きくなるまで、ここを離れないという手もある。

しかし、どれだけの期間となるのだろう。


「確か、一年や二年じゃ効かないんだよなあ……」


もし兄ならば、それも良しとするだろう。

しかし、そこはあまり落ち着きの無い楽市。少し勘弁願いたい。


「これは、あれをやるしかないかな?」


溜め息と共に楽市は膝を付き、四つん這いとなる。

そして赤子の首筋を噛んだ。

次に、思い切り唸り声を上げてやる。


「ぐるるるるるるっ」


(くわ)え加減が難しい。

しっかり牙を当てて噛まないと、分かってくれないのだ。


突然、首筋を嚙まれた赤子は慌てふためいた。それを見たもう一匹が、逃げようとする。

しかし楽市が手でしっかり押さえつけて、逃がさない。


二匹とも思い切り震え上がった後は、自分から穴へ隠れてしまった。


「ああ……嫌われたな。これ……」


楽市は少し、しょげながら山を降りた。

振り返っても赤子たちの姿はない。


「あー、嫌われたぞ。本当に」


楽市は深く溜め息をつくと、山を降りていった。

これで良いのだと自分に言い聞かせるが、段々と足取りが重くなっていく。


自分のやった事で、自分が酷くショックを受けていることに気付いてしまった。

時間が経つにつれ、酷い事をしたという思いが膨らんでいく。


「ああ……ちょっと息苦しいんだけど……」

 

どうにも気になって仕方がないのだ。


「ああっ、もう!」

 

楽市は結局、夕方に戻って来てしまった。


しかし戻ったからといって、あの子たちは会ってくれるのだろうか?

どんな顔を、したら良いのだろう?


そうやって気を揉んでいると、匂いを嗅ぎつけたのか、赤子たちの方から穴を這い出してきた。

そのまま楽市の足に、まとわり付いてくる。


その、じゃれ付き方は少し怒っているようで、――どこ行ってたんだよっ、このーっ――という感じだ。

 

楽市の草履に飛びついて、ぺしぺし叩いてくる。

その姿に楽市は膝の力が抜けて、しゃがみ込んでしまった。

楽市の身が震える。

 

それは、許されてホッとしたと言うよりも、――赤子たちに、必要とされている――そう感じたからだった。


それだけで身が震えて、立っていられなくなってしまった。

楽市は苦笑する。


「ふふ……こんな事ってある?」


社にて無限の時を生きる神と、限られた時を生きる者との、繋ぎ役として在る白

狐。


その白狐たちは、石像を核として澱から生まれた。

しかし現在、その役目はヒノモトで、ほぼ必要とされなくなっている。


社に訪れる者は居ない。

文化のアーカイブとして、ただ保存されているような有り様だ。

 

それに失望なされたのだろうか?

いつの間にか国つ神様もお隠れになり、声が聞こえなくなってしまう。


兄と皆は、それでも良いと言っていた。

神の使いではなく、ただの妖しとして生きる。


そうやって気楽に過ごせるならば、それで良いではないか。

そう言い合っていた。

楽市もそう思っていたのだ。それで良いと……

 

それなのにだ。

妖しの赤子にすがり付かれただけで、この様だ。


「かなり、気持ちが弱ってるなこれ……」


そう自分を茶化して落ち着こうとするものの、震えが止まらない。

楽市は、二匹の赤子を強く抱きしめた。

存在理由を、赤子たちに揺さぶられて胸が詰まる。


「ふふ……君たち。楽市のことを必要としてくれるの?」





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