677 パキンコキンッ カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ
「ちょっ……何いきなりっ!?」
アイがいきなりアピールし始めたので、隣に座るティカも、皆と一緒に驚いていた。
するとアイが「飛空艇」お披露目のカッコいい役を、ティカに譲ってくれる。
「それじゃティカ、飛空艇の発表よろしく」
「えっ!?」
アピールの最推し部分を譲ってくれたのは嬉しいが、ティカは慌てて、アイの耳元でごにょごにょとやった。
「ちょっとアイっ、うちら飛空艇なんて持ってたっけっ!?」
「いやだからさ……アレを、ごにょごにょ……」
「あっ!」
ティカは丸い一つ目を輝かせて、仕切り直しとばかりに、ぴょんと立つ。
「では皆様っ、発表いたしますっ」
「えっ、ここで!?
どこかに戻って、そこにあるんじゃないんですか!?」
イカ楽市がとても真っ当な驚きを見せてくれたので、ティカは大いに頷く。
こう言った、客席からのレスポンスがあるとやり易い。
「ええその通りです。驚くのはごもっとも。
しかしご心配なくっ。
私たちハッブル商会は、不可能を可能にする商会なのです。
それでは、オープンっ!」
ティカはそう言うと、いささか芝居がかったマジシャンのような手つきで、背嚢の口を開けた。
アイはどこかチョーシの良い所があるが、ティカもノリだすと負けてはいない。
そこら辺は2人とも、根っから物の売り買いが大好きなのだろう。
ティカがバックパックの口に両手を突っ込み、ごそごそとまさぐる。
目当てのモノが手に触れたようで、ティカはアイにウィンクした。
タイミングを合わせるための目配せだ。
一つ目の彼女がやるとただの瞬きだが、サイクロプス同士だと分かる。
アイもウィンク仕返し、ティカのバックパックの端を持って引っ張り始めた。
どうやら出すものが大き過ぎて、モノを引っ張るより、バックを引っ張る方が早いらしい。
ティカが中央に立ち、アイが黒子のようにバックを引っ張りながら、ソデへと下がっていく。
バックから顔をのぞかせたのは、金属の塊だった。
ティカはそれを、大きなヤットコのような物を使って掴んでいた。
驚くべきことに、バックの口の大きさ以上のモノが、バックから出ようとしている。
まるで魔法を見ているようだが、実際それは、魔法のバックパック型メタルゴーレムなのだ。
ゆっくりと現れるその姿に、ティカのハキハキとした声が重なる。
「バックパックから出てきますのは、我がハッブル最新の金属加工技術による、逸品でございますっ。
皆さまご存知、チェダー・ダイムス・SSR・ソービシル様に御提供させて頂いた、「薄切りチェダー号」っ!
そちらへ更に改良を重ねて丁寧に仕上げたのが、これこの通りっ。
名付けて「溶ける薄切りチェダー号」で、ございますっ!」
小さなバックの口から出てきたのは、一辺10メドル(m)の巨大な希少金属製の立方体だった。
金色に輝くキューブが、桃色の地面すれすれに浮かんでいる。
巨大キューブの登場に、カンオケで手懐けた幼子たちがまず沸き立ち、続けて北側の大人組、イースなどが感嘆の声を上げた。
残りの面々の反応はいま一つだが、顧客セールスで7割が湧き立てば上出来である。
ただ希少金属には聖属性の性質があり、魔女の飼っているちびスケルトンたちが、イラッときてキューブを蹴り始めた。
カンカンカンカンカンカンッ
パカンパカンパカンパカンッ
「ちょちょちょ、ちょっと!(汗)」
ティカは慌てて、お披露目ショーを先へ進める。
溶ける薄切りチェダー号を、スケルトンの届かぬ位置まで浮上させると、高速瞬きをしてキューブに指示を出す。
するとキューブの側面に、12本の分割線が生じた。
そこから金属板が、一枚一枚綺麗にはがれていき、13枚の金属板となる。
正に「薄切りチェダー」だ。
□□□□□□□□□□□□□
ティカは近くに停泊してある、魔女の骨船を凝視する。
彼女は濡れたような大きな一つ目に、その姿を焼き付けると、高速瞬きを始めた。
するとそれに連動して、空中に浮かぶ13枚が飛び交い、繋ぎ合わさっていく。
繋がり張り付き合い、求められた形に近づくため、一枚一枚がその形をグニャリと変えた。
チェダー・ダイムスに献上されたスライスチェダーとは違い、柔らかく曲がり伸び縮みするのだ。
正に「溶けるチェダー」である。
ぐにぐにと曲がり微調整をして、出来上がったモノが、ゆっくりと骨船の隣に着陸した。
その姿は、骨船「奇妙なウロコ」と瓜二つ。
ただし骨船の5倍はデカイ。
ティカとアイの顧客たちの前に、純白の骨船と、金色のチェダー号が並ぶ。
観客たちの歓声を心地よく聞きながら、ティカとアイは、この大所帯混成チームの中心人物「ライカ・ユーヴィー」の前へとかしずく。
誰が頷けば話が通るか、心得ている。
ティカは大きな瞳を伏せて、詩うように最後の口上を述べた。
「この溶ける薄切りチェダー号は、
ヒヒイロカネのように強靭で、イナシルの肌のように柔らかい。
ライカ・ユーヴィー様、どうぞご自由にお使い下さいませ」
視界の端で、ライカがじろりと、こちらを睨んでいるのが分かる。
固く結ばれた唇が開いて、かしずく者たちに言葉をかけた。
「……ふん、悪くない。
役に立つじゃないか、ハッブルども」
「「 ははーっ 」」
大口客の心をゲット!
ティカとアイは、心の中でぴょんぴょんした。
その後ろで幼子たちが、笑顔で金色の船に向かって駆けていく。
プチがしゃたちも駆け寄って、一斉に蹴り始めた。
パキンコキンッ
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ




