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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第12章 フルアーマー・ユーヴィー
664/683

663 それ即ち――シュミーア・ウィスロー・SSR8・ソービシルその人である。


間近へと出現したシュミーアは、その多くの腕が炭化しボロボロとなっていた。


しかしながら見る見るうちに、焦げた部位を押しのけて腕が再生していく。

そこら辺は、千手の巨神とそっくりだ。


そして本体は無傷だった。

手応えはあったものの、当たった瞬間、鱗粉のように雷撃が無力化されたのかも知れない。


ライカはその結果に落胆せず、ただ冷ややかに見つめるのみ。


「2つの雷禍(らいか)

ほぼ同時の場合、無力化の能力は2ヶ所同時に使えないわけか。

あれは自動化された能力ではなく、一つ一つ意識の集中が必要なのだな……」


腕を焼かれて、怒りに震えるシュミーアの顔がふっと和んだ。

口元に笑みさえ浮かべている。

彼女の差し出した左手の上で、小さな小さな青い魔法陣が 12陣出現した。


「あれはっ」


ライカの見ている前で、シュミーアの指先が魔法陣を素早くプッシュしていく。

それと同時に、ライカへ襲いかかる死の激痛。


「かはあっ!」


胸を(えぐ)られ、心臓を貫かれたような苦痛に耐えられず、ライカはバランスを崩した。

足元の雷光が消失し、頭から落下していく。

どうにかしようにも体が痙攣(けいれん)するばかりで、思考も激痛で小間切れにされてしまう。


ライカと五感を連動させていた霧乃、夕凪、朱儀そして松永は、弾かれたようにライカとの感覚を断ち切って、心象内で転げまわった。


(なんだ、いってーっ!?)

(やばいやつ、これ、やばいやつーっ!)

(すっごい、びっくりしたっ!?)

(ぶ……ぶひひんっ!?)


皆がパニックとなる中、楽市と共に舞っているイカ楽市だけが状況を理解する。

何が起こり、何をすべきか把握していた。

舞を続けながら、イカは素早く幼子たちへ指示をだす。


(霧乃、夕凪、朱儀っ。

ライカの体を、あんたたちの瘴気でいっぱいにしてっ!

今のあたしは舞を乱せないっ)


(なんで!?)

(くろいの、だすのか!?)

(あーぎも、だすの!?)


(いいから、早くーーっ!!)


(((うおおおおおおおおっ)))ぷしゅうううう×3




シュミーアは落ちていくライカを追いもせずに、ただじっと見つめていた。

すると落下していくライカの体から、黒い煙が幾筋も噴き出してくる。


ライカは漆黒の尾を長く引きながら、不意に毒々しい羽を広げた。

4枚の羽で風をとらえて減速し、再び足元から稲妻を走らせシュミーアから遠ざかっていく。


その機敏な動きは、まるで“女王の呼び鈴(ポーケイブ・ベル)”のダメージが無かったかのようだ。

シュミーアは“ベル”が効かぬ苛立ちも見せず、むしろ口元の笑みを深くした。


シュミーア・ウィスローは、眼を細め思い返す。

彼女は巨神の力を吸収したとき、それと同時に奇妙な感覚に囚われ始めた。


それは、自分がもう一人居るような感覚。

同じ魂を持つ片割れが、直ぐ(そば)に居るような感覚だった。


シュミーアが感じているものは、“石さま”たちが感じているものに近いかもしれない。

元は同じ神の一部である、大カケラと通じ合う感覚だ。

一体シュミーアと元は同じ存在とは、何を指すのか?


それ即ち――

オリジナルの、“シュミーア・ウィスロー・SSR8・ソービシル”その人である。


「やっぱり、ポーケイブ・ベルに耐えたのね。

他の子共は抗えないのに、あなただけは女王の秘術を破る。


あなたは、特別なのねえ……

なぜそんなに特別なのかしら?

やっぱりそう、きっとそうよ……あなたの中に居るのねアレが」


シュミーアは巨神たちの創造せし心象内で、己の中の距離感覚を操作した。

見かけの距離を無視して、実際にはもっと近いとイメージする。


すると神の御業で、本当に近くなるのだ。

遠ざかるライカが目の前にやってくる。


ライカからすれば、シュミーアが移動したように見えるだろう。

しかし、シュミーアからすればその逆。


イメージ操作するシュミーアに、自分が移動している感覚はない。

自分はほとんど動かず、ライカの方から近づいてくるように感じていた。

シュミーアは、より完璧な自分に近づくため手を伸ばす。


自分からのこのこ近づいてくる、愛しい娘へと手を伸ばすのだ。

その後で、娘は殺すと心に決めながら――



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