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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第12章 フルアーマー・ユーヴィー
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659 あなたと見た、花吹雪が忘れられない。


カケラ同士の超念話に、割り込む者。

それは形は違えど、同じカケラには変わりない。


石さま方は女を同族とみなし、“くの字”を元へ戻し尋ねる。


(おい、こやつはなぜ小さくなっておる? なぜじゃ?)


女はしなを作り、楽しげに笑った。


――さあ、なぜなのでしょう? 

このままではお可哀そうだと思いましたので、私が温めて差し上げようと思いまして。

狭いでしょうが、こうして私の胸元にお隠れになっております。


(そうかそうか。なるほどなるほど)


これは優しい同族亜種が居たものだと、石さま方は感心した。


――ところで、あなた様方はどちらに?


(ワシらか? ワシらはここじゃ)ふよふよ


――ああ、槍の外ですか……なるほど。

さてどうしましょうか、私の“手”が届くかしら?




大カケラとの接触を終わらせ、朱儀(あけぎ)の袖口へと帰っていく“石さま”たち。

そんな2柱の伝えてくれた内容は、楽市を大いに混乱させた。


「乳にはさまれて、ぺったんこ!?」


石さまの思念は文法がデタラメで、そのまま受ければ暗号のようでさっぱり頭へ入ってこない。

それを石さまの巫女として朱儀が受け取り、内容を咀嚼(そしゃく)して楽市へ伝えてくれるのだ。


その際、朱儀もまだ幼くて語彙(ごい)が少ないものだから、どうしても細かなニュアンスはカットされてしまう。

内容はとても簡潔なものとなり、後は聞き手が想像を膨らませて解釈するしかない。


「心象内であたしたちが、距離を無視して移動できないのは分かった。

だけど、最後のぺったんこって何さ!?」


朱儀はきっちりこなした。

後は楽市しだいだ。


手伝いを終えた朱儀は大きな欠伸(あくび)をし、楽市の太ももを枕にしようとしたとき、霧乃の甘えた声を聞く。


「もっと、見せて~♡」


朱儀が眠い目をこすり振り返ってみれば、そこに見覚えのある一つ目のお姉さんがいた。

霧乃に押し倒されて、もがいている。


そう、それは忘れもしない。

夜の帝都でお世話になった、レッサーサイクロプスのアイではないか。


「あ~、アイだ~♡」

とっても眠いけれど、朱儀も再会できた喜びで気持ちがむくむくしてしまう。


「ア~イ~」

朱儀はふらつきながらアイの元へ向かい、抱きつこうとして足がもつれた。

そのまま頭から突っ込み、額の角がアイの大きな一つ目にブスリと――


ガシイッ!

アイはカッと眼を見開き、すんでの所で角を掴んで、朝一番の声をだす。


「あぶねーーっ!」




楽市の尻尾が、荒々しく左右へ振られていた。

その動きに、楽市の心情がにじみ出ている。


「ん゛~」


ライカの視線をもの凄く感じるが、それを無視して石さまからの話を整理した。

3柱に分裂したバーティス神の1柱が、小さくなり女の胸に挟まっている。


この女は恐らくライカの言っていた、偽の女王なのだろう。

それは単純に考えると、偽女王が大カケラを小間切れにして、小さくしたと言うこと。


これだけで、厄介な相手だと分かる。

実際に大カケラと戦った楽市は、その困難さを知っているのだ。


それをやってのける相手と、これから事を構える。

そう思うと、正直頭が痛くなった。

更に、気になる事がある。


石さまたちが言うには、大カケラは自分がナゼ小さくなったのか、分からないと言う。

そんな事ってあるのだろうか?


小間切れにされたならば、否が応でも記憶に残るはずだ。

それが無いと言うことは、何かされて気付かない内に小さくなったと言うこと。


何かとは何だろうか?

それが分からなくて、どこか不気味だった。


「なんか、嫌な感じ……」


楽市は思わず呟く。

するとその声に反応して、ライカがキッと睨んでくるので、お前の事じゃねえよバーカの気持ちを込めて睨み返す。

暫く睨み合っていると、不意にライカ越しに見える帝都の街並みがブレた。


「えっ!?」


周囲の景色に別の景色が重なり、二重写しのようになっていく。

ライカも同じものを見ているようで、驚愕の表情を浮かべていた。


廃墟の街に重なるのは、細波(さざなみ)が寄せては返す瓦礫(がれき)の海岸。

気付けば皆を乗せた骨船が、打ち上げられた難破船のように、瓦礫の岸辺に横たわっていた。


「有り得ないっ、こんな事ができるのっ!?」


楽市は、この特殊な移動感覚を知っていた。

心象内でイメージを操作し、距離を無視して移動する感覚にそっくりだ。


しかし、自分で移動したのではない。

誰かに移動させられた。


強制移動だ。

それも楽市たちは、モスマンの槍の外。


神々の造った特殊結界の外に居たにも(かか)わらず、強引に引っ張られた。

楽市たちを呼び寄せた者は、一体どれほどの力を持っていると言うのか?


「なんで、こんな奴がいるのっ!?」


楽市が叫ぶ先に、女がいた。

ぼんやりと輝く沖合を背負い、紅いドレスを(ひるがえ)して女が宙に浮かんでいる。


「あらあら、やっぱりライカが居たのね。

(わずら)わしい子。


そしてそこに居るのは――北の魔女かしら?

ふふふ……その顔、フーリエの記憶にあったわ。

あの子、あなたと見た花吹雪が忘れられずに、心の隅にしまい込んでいるのよ」


シュミーア・ウィスロー・SSR8・ソービシルは、

人差し指をあごに当て、品定めするように楽市を見つめた――


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