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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第12章 フルアーマー・ユーヴィー
647/683

646 エルダーサイクロプス謹製の逸品、ラヴィとテカテカ。


イースは船底をノックし、船へ声をかけた。


「外へ、行ってくれるかい?」


傍目(はため)から見れば奇妙な事をしているようだが、イースたちの乗る船は正確には船ではない。

奇妙なウロコ(ストレンジスケイル)”と呼ばれる、アンデッドなのである。


ストレンジはイカ骨のレアスケルトンで、全長は約15セル(㎝)の弱小アンデッド――のはずなのだが、北の森産は軽く15メドル(m)を超えていた。

まったくもって、化け物である。


同じくレアな魚スケルトン“星への眼差し(スターゲイジー)”といい、北の森のアンデッドは、やはりイカれているとイースはしみじみ思う。


「それにしても、短い指示でちゃんと動いてくれる。

何だか、エルダーリッチ並みの理解力だなあ……

声をかけておいてアレだけど、たかがイカがだよ? 本当に!?

う~ん……とっても興味深いっ!」


イースは自分の独り言を聞き、

ライカの中で舌を出す美女の事など、知る由もない――



    *



黄金色の西日を浴びながら、

レッサーサイクロプスのアイ・エイチ・ジャマーンは、廃屋の屋根に設置した望遠鏡を覗きつづける。


近頃はすっかり陽の陰るのが早くなって、過ごしやすくなった。

と言いたい所だが、大気には昼間の熱がたっぷりと残っており、屋根瓦からは昼間に吸収した熱が、輻射熱(ふくしゃねつ)となって足元から立ち昇ってくる。


アイはその茹で上がるような不快さに耐えながら、望遠鏡を覗き続けていた。

そのかいあってか、アイは舌なめずりをして短く叫ぶ。


「ティカ、来たよっ!」

「むぐうぐっ、ぶーーっ!」


アイの後方で休憩していたティカ・ハシシ・バシャーンが、飲みかけの茶を噴きだすと、食べかけのクッキーやマグカップを背嚢(はいのう)に突っ込み立ち上がる。


「意外と出てくるの早くない!? 何かあったのかな?」

「何かあったか無かったか、サンフィルドに会えば分かるよ、ティカ」


「うわー、会うのどきどきするーっ、アイどきどきしないっ?」

「別にー」


ティカは濡れたような光沢の、大きな一つ目をパチクリとさせ、アイはその深淵を思わせる、黒い瞳の一つ目を曇らせた。

アイとティカはバックパックを背負うと、使役するマイ望遠鏡たちへ声をかける。


「ラヴィ、おいでっ!」

「テカテカも、こいっ!」


名前を呼ばれた望遠鏡たちが、独りでに動き始めた。

ラヴィとテカテカは望遠鏡であると同時に、アイとティカが使役する、希少金属(オリハルコン)製のメタルゴーレムなのだ。

モールスムーンのボディと同じく、エルダーサイクロプス謹製の逸品である。


望遠鏡の前後を支えていた二脚のスタンド×2が、“くの字”に曲がって、そのまま獣のような四つ足となった。

ラヴィとテカテカは四つ足を器用に動かし、己の伸縮式のボディを縮めていく。

完全に縮まると、長さが3分の1となった。


短くなったラヴィとテカテカは、かちかちと足音を鳴らしながら、ラヴィはアイの後ろへ、テカテカはティカの後ろへ回り込む。

2体のメタルゴーレムは横向きとなり、背嚢の下部にあるラックへ自らドッキングしていく。


アイとティカは体を揺らして、しっかり固定されたのを確認すると、背嚢に物体浮遊の魔法をかけた。


「「物理浮遊(フィジーフロウ)っ」」



「行くよ、ティカっ」

「ねえ、サンフィルドに会ったら何て話すの!? もう決めた?」


「そんなの決めて無いよ。

顔見たら、何か思い付くでしょテキトーに」


「テキトーかあ、ちょっと心配だなあ」


「ティカ、こっちが緊張する事なんてないよ。

昔の事は、アイツが悪いんだから。

これは仕事なんだから、割り切っていこっ」


「違う違う。この仕事が失敗したら、私たち本気で行くとこ無くなるかもよ!?

商談なら、しっかり決めといた方が……」


「うっ……分かってるってっ」

「本当かなあ……アイひょっとして、私より緊張してるんじゃない?

サンフィルドに会うの」


「緊張なんてしてないってっ」

「そうかなあ」


「もうっ、私先に行くからねっ!」

「あっ、待ってよアイーっ」


魔法で身軽となったアイとティカが、

廃墟と化した帝都の街を、ノミのように飛び跳ねて移動していく――



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