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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第10章 新たなる始まり
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627 朝ごはんだぞ、そして勝負が動き出すっ!


ヒノモト風に言えば、犬の〇ンコが草原に落ちていた。

良く見れば、それは泥まみれとなった美女2人だった。


初めは激しかった攻防も、5日目の朝となるとまるでキレがない。

電池が切れかかっている。

じりじりと絡み合いながら位置がずれていき、ナメクジが這ったような跡が草むらに残る。


お互い無言でうごめいており、いや……もっと近づいて耳を傾ければ、念仏のようなうめき声が聞こえるかもしれない。

もっと腹から声を出せと言いたいが、そんな気力はもう犬の〇ンコにはなかった。




ことの経緯を知らない鬼っ子チヒロラは、幼い頭をフル回転して、楽市を理解しようとする。


「えっと~」


くるっと振り返り、もう一度すがるようにフーさんを見た。

フーさんは渋い顔をして、おじいちゃんみたいになっていた。


チヒロラは何も思い浮かばず、困ってまた同じことを尋ねてしまう。


「あの、これ何ですかー?」


すると赤いおじいちゃんが、重い口を開いた。


「俺だってその道のアレだ。戦闘のな……

だから、どうしたと聞かれりゃ、大概の事は説明してやれる。

その道のアレだからな。


これは意地の張り合いだ。間違いねえ。

だがこれは戦闘なのか? それが正直わからねえ。


俺のやって来たことと真逆のやり方だろ、これっ。

こんなもん仕掛けられたら、俺ならどうする? 受けるか?


冗談じゃねえぞ、こんな馬鹿くせーやり方っ。

考えただけでゾッとするぜ。


だがな……仕掛けられたらよ……

やらなきゃならねえ、時もあるだろうよ。

そうなったら俺は……ぶつぶつぶつぶつ――」


その後もフーリエの説明らしきものが、念仏の如く続く。

もう説明などではなく、ただの自問自答となっていた。

頭の中の言葉が、だだ漏れしているだけだ。


チヒロラには分からぬことだが、フーリエもこの4日間、ライカと楽市に付き合って寝ていなかった。

その為、ちょっとテンションがおかしくなっている。

チヒロラは話が長いのでとっくに聞いておらず、辺りをきょろきょろと眺めた。


遠くの方で、赤い人たちが沢山集まってこっちを見ている。

あの人たちは一体何だろうと思っていると、チヒロラを呼ぶ声がした。


「おーい、チローっ」


振り向けばそこに、草の原っぱをてくてく歩く、霧乃たちの姿があった。


「あー、みなさーんっ! お早うございますーっ!」


駆け寄るチヒロラに、霧乃、夕凪、朱儀、豆福が頬ずりをする。


「チロおはよっ、さっきおっこちる音、してたな。やっぱり、チロだったか」

「おはよーだぞっ、チロっ!」

「チロおはよー、いまきたの?」

「チー、だーっ!」


「へへへ、ちょっとのんびりしちゃいましたっ。

みなさんは、どこに行っていたんですか?」


チヒロラが首をかしげて尋ねると、夕凪が自分の獲物を得意げに見せてくれた。


「チロ、みろっ、これだっ!」


夕凪はワンピースのスカートの裾を両手でつまんで、少し変形させて胸辺りまで上げ、スカートを袋状にしていた。

金色のドロワーズが丸見えだが、気にしてない。

チヒロラがその中を覗き込むと、白くもぞもぞしたものが沢山入っている。


「あーっ、うーなぎさん、これーっ」

「朝ごはんだぞ、チロもたべる?」


「はいっ、食べますーっ!」ぴょんぴょん




「――こいつは体力勝負じゃねえ。気合の勝負だ。

もう駄目だと、気が遠くなっちまった方の負けだ。


それなら俺は、誰にも負けねえんじゃねえか?

むしろ、負ける気がしねえよなっ。

だからよう俺は――」


ぶつくさと呟くフーリエの鼻先に、もと海の幸の、香ばしく焼けた香りが漂う。

そこではっと我に返ったフーリエが、匂いの方角へ鼻を向けた。


見れば北の魔女の幼子たちが、どこからか持ってきた石板の上で、ジュージューと白いイモムシを焼いている。

かなり手慣れており、イモムシはこんがり焼けて綺麗なきつね色だ。

見た目のキモさとは裏腹に、旨そうな匂いでフーリエの胃がきゅううと鳴った。


「ぐっ、お前らまた、そんなものをっ……」


フーリエは顔をしかめるが、これは“クリム貝”と言って立派な貝であり、獣人界ではメジャーなおやつである。

霧乃たちも初めは気持ち悪がっていたが、今では好物の一つとなっていた。

フーリエのつぶやきが聞こえたのか、霧乃が焼き立てを掲げて見せつける。


「フーも、たべるか?」


「俺は昨日から、いらねえって言ってんだろっ。

あとフーって、呼び捨てにすんじゃねえ。

せめて“さん”を付けやがれっ」


「めんどくさいなー」


チヒロラが焼き立てをふーふーしながら、朱儀に尋ねた。


「そう言えば、まーなかさんと、パーナさんと、ヤークトさんはどこですか?」


「ん? まーなかは、かりだよ。

ぱーなと、やくーとはー」


パーナとヤークトは、楽市が食べていないのに自分たちが食べる訳には行かないと、今も楽市の中で応援しているらしい。

朱儀たちは2日目から飽きちゃって、こうして外に出てきている。


「へー……え?

ちょっと、待ってください?

らくーちさん4日もずっと、ケンカしているんですかーっ!?」


「うん」

「えーっ!?」


チヒロラは驚き、改めて泥まみれの楽市とライカを見た。

べっちゃり、ぐっちょり、ねっちゃりと、もぞもぞしているだけ。


チヒロラには、そうとしか見えない。

けれどそうなのだ。

これは立派な、喧嘩なのであった。


そして更に2日――

7日目の朝に、勝負が動き出すっ!


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