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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第10章 新たなる始まり
624/683

623 イカ楽市、姉を見て笑い転げる。


ライカが草原を踏みしめる度に、恐炎妖精(フィアフレイムエルフ)内の緊張が高まっていく。

フレイムエルフたちが、どうこうされる訳ではない。


しかし高圧的な上司を出迎える社員のごとく、ひりひりした空気が陣内に広がっていた。

その息苦しさは、陣のウラに隠れる者にまで伝染する。


「うぐぐ……やばいこっちくるっ」


ライカが眼光鋭く右腕をあげ、ゆっくりと横へ()いだ。


――そこをどけ


言葉は発さずとも、その仕草だけでフレイムエルフたちに伝わってしまう。

赤い軍団は「かしこまりましたっ!」とばかりに左右へ割れて、そのままタンポポの綿毛が飛ぶように空へ散っていった。


「ぬっ?」


フレイムエルフ軍団と一緒に飛び去る、白い影がみえる。

それは船のような代物で、そのフチには小型のスケルトンたちが身を乗り出し、地上へ向けて手を振っていた。


どうやら、フレイムエルフたちの裏に隠れていたらしい。

ライカは顎を向けて、白い船を凝視する。


「あれは……確か帝都の端で、捕獲していなかったか?」


小さなスケルトンどもは、ライカに向けて手を振っているのではなかった。

見ている角度が違う。


ライカが再び正面を見すえると、ぽつんと一体、兜型のモンスター“赤い兜(フレイムヘルム)”が残っていた。

自分の意に従わぬ兜へライカが苛立ちを見せると、フレイムヘルムは触手をわちゃわちゃさせ、慌てて浮上し始める。

するとその裏から、焦る女の声が聞こえた。


「あ、ちょっ待ってっ!」


現れたのは黒衣の女。

ライカと同じ、銀髪をなびかせた獣人の女である。


ライカは一瞬顔がこわばり、目を見張った。

だが次の瞬間、口元に笑みを浮かばせる。


「そうか……お前だったかっ!」


ライカは女から一切目を逸らさず、脳裏に生前見た最期の情景を思い浮かべた。

あの時も黒衣の女が突然現れ、その身から溢れる憤怒を漆黒にかえて、ライカへ浴びせたのだ。


全てを闇へと帰す、北の魔女の凶悪な呪い。

その呪いの前でライカは一切の抵抗ができず、闇へと包まれたのだった。


完全敗北だ。

だがである。

だがしかし。


それはもはや過去の話――


「くくっ……いいぞ、手間が省けたっ」


ライカの、紅い瞳が燃え盛る。

その瞳の色が妖しく高まるほどに、ライカの中で復讐への歓喜が溢れ出す。


眷属化。

それは唾棄すべき、身に降りそそいだ汚辱。

だがしかし、裏を返せば――


「どうする北の魔女。

貴様の瘴気は、もはや私には効かぬぞ?

眷属化による精神支配でも、何でも仕掛けてくるがいい。

私の全身全霊をもって、それを退けて見せるっ!」


ライカの挑発に北の魔女は、ただ金色(こんじき)の瞳で見返してくるばかりだ。


「この瞬間ばかりは、感謝してやるっ。

私を復活させたことをなっ。

貴様をこの手で殺し、貴様の呪縛から――むっ!?」


ライカが復讐の呪詛を吐きだし終える前に、北の魔女が一歩踏み出す。

それどころか、こちらへ向かって走り始めた。


距離にしておよそ50メドル(m)。

白い尻尾を大きく振りながらの、全力ダッシュである。


「なっ!?」


北の魔女も、やる気満々なのか!?――と言えばそうでもない。

走る魔女は自信に満ち溢れるというより、恐怖で顔が引きつっていた。


そんな魔女こと楽市を、楽市の体内から霧乃たちが鼓舞する。


(いけーっ! らくーち、はしれええっ!)

(とまるんじゃあないっ、らくーちっ!)

(もっと、はやく、らくーちーっ!)

(ぶあああっ??)なんで走るのか分かってない

(ぶふ?)


パーナとヤークトも我が主を励ます。


(大丈夫ですっ、きっとうまく行きますっ!)

(近づけば勝ちです、ラクーチ様っ!)


「うぐぐっ!」


全力で走ってくる魔女を見て、ライカは思わず笑ってしまう。


「あはははははっ!」


笑いながら両腕を突き出し、雷禍(スペル)を唱えた。

まずは、挨拶代わりの雷球だ。


病雷(ビョーブル)っ、喜雷(エンギル)っ!」


しかし雷球はライカの腕にとどまり、激しく放電するだけで撃ち出せなかった。


「なにいっ!?

ぐっ…… 大雷(ダザン)っ、右雷(ウダイ)っ、愛雷(アールダゴン)っ!」


他の雷禍を撃ち出そうとしても、結果は同じだった。

みなライカの体にとどまり、激しく放電するばかりだ。

それもその出力が、どんどん小さくなっていく。


「これはっ!」


ライカは悟る。

なぜ放電の出力まで下がるのかと言えば、近づいてくる魔女に被害を及ばせないため。

復讐で燃え盛るライカ自身が、魔力にセーブをかけていた。


「これはあいつの、精神攻撃なのかっ!?

まるでやられている自覚がっ!?」


気づけば混乱するライカの前に、北の魔女が立っていた。


「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ」


荒い息を吐く魔女を、ライカはまじまじと見つめてしまう。


「まさかこれ程とはっ!?」


驚愕の表情を浮かべるライカの前に、北の魔女“楽市”の握りこぶしが突き出された。


「こいよベネットっ……じゃなかったっ!

こいよライカっ!

そんな雷魔法なんか捨てて、拳でかかってこいよっ!」



ライカの心象内で、イカ楽市が笑い転げる。


(ベネットって、楽ねえさん配信見すぎーっ!

あー……昔よくガード下で、端末使って見てたなー)


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