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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第10章 新たなる始まり
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618 またね、またな。


「ふーふーふー(茶をすすり)……あちい……」

「ちゃんと座って、飲みなさいよ」


草原に寝ころびながら、茶を飲もうとするサンフィルド。

それをたしなめ、リールーも茶をすする。


北の森の勢力下となった草地で摘んだ、ルスギナの葉。

それを炒ったあとに煮出した、お手軽茶である。


どんなものかと試しに飲んでみたら、これが結構いける。

いやかなりと言って良い。


ひょっとしたら復活前の草地で摘んだものよりも、香りが高く甘みもあるかもしれない。

ただ生者が、北の森産の茶を飲んで大丈夫かという疑問もあるが、それを脇へ置けばやっぱり美味い。

こういう所に、リールーは何かねじれを感じる。


「どういう事なのかしら?

北の森産の方が美味しいなんて、ちょっとおかしくない?

これ間違ってない?」


「向こうにはヤクトハルスだっけか……たしか馬鹿でかい樹。

イースの話だと、そいつが北の魔女側についてんだろ?

そいつが、頑張ってんじゃねえの?


自分の森を広げるぜーってな。

やる気でも籠ってんじゃねえの、そこらに。

ヤクトハルスの」


「あのマメフクって子の?」


「そうそう、あの黄緑色の髪をしたガキの。

まあ、どうでもいいじゃねえか。

その力で、イースが復活するんだからよ」


「まあそうだけど。

ねえ、帝都全体に灰が積もっていたでしょ?

あれって……」


「あれは復活する際、死体が粉々になったやつだな。

間違いねえよ。

俺たちが行く前に、帝都は一回死滅している。

その後にあの魔女が、マメフクを使って復活させたんだ」


「1000万を?」


「1000万をな……まったくやんなるぜ。

冬の衣替えじゃねえっての。

ぱぱっと、生者と死者を入れ替えやがって。

やっぱあの魔女、ぜってえ頭がおかしいっ」


サンフィルドは舌打ちして起き上がると、ルスギナ茶をぐびりと飲んだ。


「はあ……たった一日で、ダークエルフの3割が入れ替わったことになる。

この調子でやられたら、来週の朝メシまでには、すっかり大陸が死者の天国になってんぞ」


「死者の天国か……

じゃああたしたちは、生きたまま天国にいるの?」


「言葉のあやだろ、突っ込むなよ。

ここがどこだって言ったら、まあ……見たまんまの所だろ。

イカれてんだよ」


「サンフィルド……あたし最近やっと腑に落ちたの」

「なにが?」


「シルミスがさ、前に言ってたでしょ?

1000年も霧になっていると、自分が生きているか、死んでいるか分からなくなるって」


「言ってたな」


「境目がなくなって、自分は石であり、木であり、(こけ)むした林であるって」

「ああ……」


「結局どんな形になっても、自分は自分だって」

「リールーも石ころとか、苔になりたいわけ?」


「茶化さないでよ。

サンフィルド、あたしはイースが好き。

それは、あなたもでしょ」


「……まあな」


「だからあたしは、イースが石ころになっても、苔になっても、霧になっても好き。

シルミスの言葉が、イースを通してやっと腑に落ちたわ。

あたしはどんな在り様になっても、イースが好き。

だってそれはイースだもの」


「正直、重い女だよなあ……お前って」

「軽く見せかける、あなたよりはましでしょ?」


お互い軽口を言い合い、喉奥でくくくと笑い合う。

サンフィルドは天を仰いだ。憎々しいほどの青空だった。


「この流れは、止まらねえだろうなあ。

世の中ガンガン死者と入れ替わって、その中で死んでたこいつが、生き生きと飛び回るんだろうよ。

イースにとっては、おもちゃがゴロゴロした世界だろうぜ」


「そうね……子供みたいに、はしゃぐでしょうね」


二人で傍らに寝かせている、イースを見つめた。


復活したイースは、これまで以上に精力的な動きを見せるだろう。

なにせ北の森の住人となったからには、これまで行けなかった所へ行けるようになるからだ。


瘴気の濃い場所だって、ガンガン行ける。

北の森の発生地であろう、ハイド山にだって行けるのだ。

そんなイースに、付き合わなきゃいけないのかと思うと、サンフィルドは今から胃がきりきりしてしまう。


「はあ……また瘦せる……」


ただこのままでは、付いて行けない。

サンフィルドは生者だからだ。


シルミスの加護でかなり濃い瘴気にも耐えられるが、限度というものがある。

上限を取り払われたイースに、付いて行くのは難しい。

はっきり言って足手まといだ。


「まったく、世話の焼ける……」


サンフィルドはそう毒づき、ため息を吐きながら、残りのルスギナ茶をぐいっと飲み干した。

サンフィルドの喉が嚥下するのを、リールーは紅い瞳で静かに見つめる。


「飲み干した?」

「ああ……なあこれ、何入ってんの?」


「ふふふ……ひ・み・つ。

時機に効いてくるわ。楽しみにしていて」


「そうかよ。

リールーお前、最期まで性格が悪すぎんだろ。

まあいいや……結構たのしい人生だったぜ」


「そうね、あたしも飽きる事はなかったわ」


そう言ってリールーも、残りのルスギナ茶を飲み干した。


「またね、サンフィルド」

「またな、リールー」


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