表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
605/683

604 それは昏き水面に咲く、妙なる一輪の花。


ぽーん、ぽーん


こっちにおいでと、桃色の人が呼んでいる。

気付けばカニポイは、六本足ではいはいしていた。


「わ」


最近は龍の頭(ドラゴンシールド)で跳ねたり、獣がしゃに乗って移動しているが、シールドが手に入るまでは、こうしてよく這っていたものだ。

はいはいするのは頭がでっかくて重いからであり、頭がでっかいのは、元々赤ん坊のがしゃ髑髏(どくろ)だったからである。


今この場で飛び跳ねて移動するのではなく、はいはいを選んだ。

それは小さき尻尾たちや、ナランシアの影響と言うよりも、カニポイと呼ばれるがしゃ髑髏自身の(うず)きのせいかもしれない。


今のカニポイはそんな事を考えもせず、とにかく夢中で這った。

頭がゴチンとぶつかるほど勢い良く、桃色の人の胸元へと飛び込んだ。


カニポイは桃色の胸へ両手を乗せ、桃色の人を覗き込む。

近いっ、顔がとっても近くなった。

嬉しくて桃色の人の胸を、ヒノモトの子猫のようにモミモミしてしまう。


「ちかいー」


獣がしゃも寄って来て、桃色の人の脇腹へ乗っかった。

桃色の人は獣がしゃの背中に手を添えると、そのままの姿勢でゆっくりと背を床に付けて仰向けとなる。


獣がしゃは短い骨の尻尾をふりふりして、カニポイとは逆側に飛び降りた。

そうして改めて両の前足を桃色の胸へかけ、桃色の人の顔を覗き込むのだ。


寝転がる桃色の人が、カニポイと獣がしゃを両脇に抱えて、幸せそうに笑ってくれる。


「あれ?」


カニポイはでっかい頭を傾げる。

あれれ何だろう? 帰ってきた?

何だか分からないけれど、そんな気がする。


誰が? 自分が? なんで? どこから?


カニポイが?マークを浮かべながら、頭をぐりぐり一八〇度動かしていると、向かいで獣がしゃが口をパクパクさせていた。

多分、声は出なくても、何か尋ねているのだろう。


カニポイも同じ気持ちだった。

カニポイだけではなく、彼女の中に住まう小さな尻尾たちも一緒の気持ちだった。

その思いを代表して、カニポイは尋ねる。


「おまえだれー?」




(ここか? ここかなっ!?)


楽市が桃色キキュールさんの中で、こちらを見つめてくるカニポイを見つめ返す。


(ここな気がする、いやまだかな? もうちょっとタメるかっ!?)


楽市は何かのタイミングを、見計らっているらしい。

そのGOサインを出すかどうか、考えあぐねているようだ。


そんな躊躇(ちゅうちょ)する楽市がじれったくて、夕凪が勝手にGOサインを出した。


(よしっ! あーぎ、やってしまえっ!)

(はーい)


(えっ、ちょっと夕凪、勝手にっ!?)


楽市の戸惑いなど放っといて、姉の言いつけに素直な朱儀(あけぎ)である。


(いーちゃ、いしさま、やーち、やっちち)


朱儀の特殊巫女言語に反応して、朱儀の頭の上で待機していた不定形の方々が動き始めた。

ぐにぐにしたスライムこと“石さま”たち二柱が、腰らしき部位を振る。

その一糸乱れぬふりふりが、石さまたちの御意志を、外でぼんやりしている同族亜種へと伝えるのだ。


もう良いぞ、あれを繋げるのじゃと――




神々の集う、特殊な心象空間。

その世界において、バーティス神の大カケラが戦いに破れたあとは、もう空から“太陽や月”が落ちてくる事は無かった。


しかし残された多くの“朝日や夕陽”が、それぞれに青空と夕焼けを(まと)いながら、満天の星空の中を這いまわっていた。


幻想的と言えば聞こえは良いが、かなり気味が悪い。

その様子はまるでヒノモトのゾウリムシが、プレパラートの中で泳ぎ回っているようだ。


そんな狂った夜空の事情など無頓着に、もう一柱の黒い大カケラが、あぐらをかいて黒い海に座り込んでいた。

頭からすっぽり、全身ラバースーツを着込んだような御姿は、表面に“黒き国つ神”が張り付いているからである。


そのお陰で、大カケラは正気を保てているのだ。


ボーリングピンのようなツルリとした頭の上では、敵を見失った無数のハチドリたちが旋回し、大きな光の輪を描いていた。

大カケラの手には己の頭ほどもある、桜色をした珠が抱えられている。


珠は大カケラの御体に生えた“♡マーク”を千切り、集めて重ねしつらえた宝珠だった。

大カケラにとっては、自分の一部と言って良い代物だ。


そこへ今一度、千切られた“黒い茎“が伸びてきて、大カケラが抱える真下から桜色の珠へ繋がろうとする。

大カケラが手を離すと、珠は茎に支えられてふわりと浮かんだ。


大カケラ本体と繋がった桜色の宝珠は、息を吹き返しその身に生気が宿る。

幾重にも重ねられた♡マークが張りを戻し、まるで花弁の如く開いていく。


それは(くら)き水面に咲く、(たえ)なる一輪の花のようで――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ