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561 恐怖は怒りで、覆い隠すもの。


(きたーっ、手だーっ!)

(あいつの手、でっかいっ。ずるくないけど、ずるいっ!)


霧乃と夕凪が大カケラの変化にいち早く気付き、妹たちへ注意を促す。

瓦礫飛ばしでは(らち)が明かぬとばかりに、巨神の青白い左腕が上昇し始めた。


それが遥か天空でピタリと止まると、今度は楽市たちをはたき落とすための降下が始まる。

その巨大さ故にゆっくりとした動きに見えるが、振り下ろされる速度は相当なものだ。


巨神の直接攻撃は、隣で横たわる大カケラと国つ神の“遅延効果”を無視していた。

瓦礫飛ばしのような、速度制限がかかっていない。


(きれっ! あーぎ、きってしまえっ!)

(やれ、あーぎっ、さくっとやれっ!)

(まかせてーっ!)

(ぶああっ)

(やっちゃいましょうっ、チヒロラたちは無敵なんですーっ!)



(「 このーっ 」)


朱儀とカニポイが声を合わせて、光翼を一閃。

視界いっぱいに広がる、神の手を切り裂いた。


中指と薬指の間から刃が入り、腕を縦に切り裂き肘まで到達。

しかし、巨神の(てのひら)は止まらない。


ぱっくりと割れたまま勢いを殺さず、楽市たちを襲う。

もう大きく迂回して、避ける余裕は無かった。


(かにぽーいっ!)

「わふー」


そんな中、朱儀のかけ声で、角つき、カニポイ、巨人楽市の順で縦一列となる。

同時に足下の巨大幽鬼も細長く変形し、笹船のような形となった。


幽鬼の笹船は迫りくる巨大な掌へその切っ先を向け、三体の巨獣を背に乗せたまま自ら突っ込んでいく。

狙いは切り裂いたばかりの、縦に大きく走る腕の裂け目。

朱儀は裂け目を通って、反対側の手の甲へ抜けるつもりなのである。


(朱儀、ちょっとこれ狭くない!?)

(らくーち、じっとしてーっ!)


怯える楽市を強引に黙らせ、朱儀は幽鬼の笹船を突っ込ませた。

裂け目へ入った瞬間、両サイドから強烈な風圧が巨人楽市を襲う。

楽市たち巨獣の横幅が裂け目ぎりぎりで、巨獣と裂け目の間で、圧縮された風が逃げ場を求めて荒れ狂うのだ


巨獣たちの脇をすり抜ける風が後方で大きく渦を巻き、最後尾でしゃがむ巨人楽市の黒髪を激しくたなびかせた。

カニポイの大きな頭の左右ぎりぎりに、肉の壁が迫り高速で流れ去っていく。


(カニポイの頭が、けずれるーっ!)

(カニポイ、あたま、ちっちゃくしろっ!)

(かにぽーいっ!)

(ふあああっ!?)

(カニポイさんが削れて、四角くなっちゃいますーっ!)


(カニポイじっとしてっ、絶対動かないでっ)

「うごかないー」


霧乃たちと楽市の心配は杞憂となり、カニポイの頭は削れず、無事巨大幽鬼は手の甲側へと飛び出す。

しかしその先で、巨神の右手が待っていた。


大カケラは飛び出してきた羽虫に合わせて、左手の甲を叩くように右の掌を打ち下ろす。

縦一列となってしゃがんでいた角つき、カニポイ、巨人楽市は、光翼の準備が追いつかない。


(うわーっ、がしゃ、まがれまがれまがれっ!)

(まがれっ、どっちでもいいっ、まがれーっ!)

(うわっ、うわっ、うわっ!)

(まめ、つーぶーれーたーっ!)

(がしゃさんお願いしますーっ! よけて下さーいっ!)


霧乃たちの悲鳴のような声援を受け、三重合体の幽鬼が高速で曲がり、大きくS字の軌跡を描いた。

はたかれるスレスレで、人差し指と中指の間をすり抜ける。


そして幼子たちは見た。

右手をかわしたその先に、美しい顔を歪ませた憤怒の形相を――


もはや、大カケラの顔に恐れはない。

ゴミムシ共に切り裂かれた痛みでパニック状態から我に返り、未だ湧き上がりそうな恐怖はゴミ共への怒りで抑えつけた。


大カケラは身をもって経験する。

恐怖は怒りで、覆い隠せるのだ。


その黒目の無い眼で、砂粒のような巨人楽市たちを凝視する。

巨神の思念に呼応して全方位から城であった残骸が、瓦礫の弾幕となって楽市たちへ襲いかかった。


しかしその手は通用しない。

巨大幽鬼が再び十二本の黒槍をかざすと、全方位から飛来する瓦礫が全て同じ角度で曲がり、左へそれていく。


完璧に揃った角度でカーブする瓦礫たちは、巨神の目の前で大きな幾何学模様を描いた。

大カケラが舞い踊る瓦礫のダンスに気を取られたその時、模様の中心から噴出した長さ三〇〇〇メドルの光翼が、大カケラの首筋を薙ぎ払う。


大カケラの首が切り口から自重で右へずれていき、巨大な頭が横倒しとなってゆっくりと落ちていった。

巨神の生首は落下しながらも、その眼は楽市たちを捉えて離さない。

その目に惹きつけられ、まじまじと見つめていた夕凪が素っ頓狂な声をあげる。


(ひゃあっ、あれ見ろ、らくーちっ)


夕凪が心象を交えて、指し示すその先。

落ちていく首の左眼球に、小さな小さな赤い点が見えた。


皆でよくよく目を凝らせば、それは赤い獣がしゃのお尻だ。

こちらに背を向けて、ボンジリのような短い尻尾を嬉しそうにふりふりしている。


獣がしゃの操縦に夢中な松永は、どうやら切断されて落ちてくる巨神の部位が待ちきれなかったらしい。

待ちきれないから、自分の方からきてしまった。

楽市たちより更に高所から飛び降りて、大カケラの眼球に着地したのである。


(うわっ、カニポイの、がしゃだっ!)

(あいつ、どっからきたっ!?)

(あのがしゃ、すごいっ)

(ふあああっ!?)

(あんな所にいるなんて、カニポイのがしゃさんカッコイイですーっ!)


(パーナ、ヤークトもう始めてたんだっ。

て言うか、落ちてくる腕とか待っててって言ったのにっ!?

そんな所危ないってっ!)


霧乃たちと楽市が目を丸くして見守る中で、赤い獣がしゃが眼球をカプリと噛んだ。

さっさとやる事を済ませると、落下していく頭からぴぴんとノミのように飛び跳ねる。


すると上空から高速で降りてきた巨大幽鬼が、獣がしゃを背中で素早くキャッチし、そのまま螺旋を描いて下方へ飛び去っていった。

多分またエサ用の肉片でも、探しに行ったのだろう。


それはあっという間の出来事で、幼子たちはその無駄のない鮮やかな仕事っぷりに大興奮する。


(赤いの、かっこいいっ!)

(あんな、すげーがしゃ、いたっけ!?)

(あーぎ、びっくり、しちゃったっ!)

(ふあ、すーごーいーっ!)

(これはチヒロラも、お仕事負けてられないですーっ!)ぴょんぴょん


(びっくりした……

一緒に塔を登った時は分からなかったけど、あんな大胆な子だったんだっ!?)


楽市たちは、松永が操っていることを知らないらしい。

巨人楽市の隣で、カニポイも小さな方の手をわちゃわちゃさせ驚いていた。


「あいつ、すごいー」



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