551 朱儀は楽市に頼られる、その言葉がとっても嬉しいっ。 あと楽市の軟らかい頬っぺたや、匂いも大好きっ。
高速型がしゃ髑髏たちが、ノミのようにぴんぴん飛び跳ね南へと向かう。
足元で逃げ惑うダークエルフや他種族たちには、もう見向きもしない。
復活した帝都の民たちから立ち昇るのは、生者の息吹ではなく、がしゃたちと同じ死者が滲ませる黒い気配だった。
既に殺すような対象ではなく、そこらの土塊と変わらぬモノでしかない。
ぴんぴんと跳ねるがしゃの着地点にいれば、ただ砂利を踏みしめるようにするだけ。
そうして二、三歩走っては、また大きく飛び跳ねる。
復活した帝都民たちはそんながしゃ髑髏たちも恐ろしいが、その直後にやってくる、夜を覆いつくす羽音に震えた。
赤い目をした巨大昆虫の大群が、羽をブブブと震わせて、上空を通り過ぎていくのだ。
恐ろしさもさることながら、虫の羽独特のドキツイ目玉模様に虫唾が走った。
目から入った視覚情報が線虫となり、実際に皮膚の下を這いずり回るような錯覚におちいる。
ヒノモト風に言えば、夜空いっぱいに広がる“ハスコラ”だ。
先行するがしゃ髑髏たちが、快調に飛び跳ねていく。
すると前方の空間に、無数の瓦礫が機雷のごとくばら蒔かれていた。
実際は時速 五〇キリルメドル(㎞)で、こちらに向かって飛来する瓦礫の砲弾だ。
しかし高速化されたがしゃ髑髏たちにとっては、五〇キリルメドルなど、トロくて止まっているようにしか見えない。
それらを難なくかわしていると、中には視認できない程小さな物もあるらしく、それに当たるとがしゃ髑髏があっけなく吹き飛ばされた。
たかだか数セル(㎝)の石の欠片で、二十メドル(m)級のがしゃが押し負けるのである。
――!?!?
幾度も吹き飛ばされ、がしゃたちは困惑しながらも見えない弾幕をかいくぐっていった。
最初の一体が、なんとか旧帝都エリアまでたどり着く。
既に旧帝都の城壁は崩壊しており、小山のような残骸と化していた。
小山を越え向こう側へ出たとき、まず目に飛び込んできたのは、我らが北のボスの背中だ。
その漆黒の巨体が、瓦礫に丁度吹き飛ばされる姿だった。
空高く弾かれ、落ちてくるかと思えば落ちてこない。
ボスは空中で飛び交う瓦礫を蹴飛ばし、体勢を立て直すと、更に別の瓦礫を蹴って飛び跳ねる。
我がボスは一度も地面へ落ちることなく、飛来する無数の瓦礫を足場にして跳ねていた。
以前がしゃたちは、魚がしゃ七体を空中階段にして転移門をくぐり抜けたが、その空中階段の激ムズ版だ。
ボスは足裏よりはるかに小さい石を足場として飛び跳ね、目に見えぬほど小さな石を摘まんでぶら下がり、スイング&ジャンプを繰り返している。
その空中移動する背中を見つめて、がしゃ髑髏の無いはずの心臓がトクンと跳ねた。
――なんだ、すげえっ!
がしゃは早速、ボスの動きを真似し始める。
初めは感情の無かった底辺アンデッドのスケルトンが、今では生者の憎しみ以外でも、心動かされる事があった。
それは恐らく。
北の“はかばー”で揉まれて巨大化したり、赤いがしゃにダンスを習ったり、
ボスに何度もドヤし付けられたりと、色々と経験してきた所為かもしれない。
城壁の小山までたどり着いたがしゃ髑髏たちが、続々とボスの真似をして、瓦礫を踏みしめ空中を駆け上がっていった。
*
(あはははっ、お尻がいってーっ!)
(あっはーっ! さっきの、かっこわりーっ!)
巨人楽市のお尻に小さな瓦礫が直撃し、無様に吹き飛ばされたのを、霧乃と夕凪が大笑いして転げまわる。
すると巨人を操る朱儀が、口を尖らせた。
(あれ、ずるーいっ。
いっぱい、くるの、ずーるーいーっ!)
同時に幾つもの小さな瓦礫がきたので、体を“ろの字”にしてすり抜けようとしたら、突き出したお尻に当たってしまったのだ、
(ぶああああっ、まめの、おーしーりーっ!)
(あーぎさんっ、突き出したお尻可愛かったですーっ!)
(ぶっふん)
皆でがしゃ髑髏にリンクしているので、豆福はお尻が痛かったとマジ怒りし、チヒロラはその仕草が可愛かったと大絶賛した。
松永は気にするなと、鼻を鳴らす。
(惜しかったですよ、その調子ですっ、いい感じですっ)
(どんどん上手くなっていますよ、アーギさんっ)
パーナとヤークトが、膨れる朱儀をしっかり褒めてフォローしてくれた。
最後に楽市が、朱儀の頬に自分の頬をぴったりくっつけ擦り付ける。
(大丈夫っ、朱儀ならできるっ!)
朱儀は楽市に頼られる、その言葉がとっても嬉しいっ。
あと楽市の軟らかい頬っぺたや、匂いも大好きっ。
朱儀は機嫌をなおして、一本角をくゆらす。
ちょっと松永の真似っこだ。
(らくーちっ! あーぎに、まかせてーっ!)
https://36972.mitemin.net/i680182/




