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520 赤い死神。


カニポイこと頭でっかちは、濃霧の中、行く手を遮る銀霧妖精(シルバーミストエルフ)どもをドラゴンシールドで蹴散らしていく。


目指す尖塔へたどり着くと、先行するがしゃたちの開けた壁の穴へ飛び込んだ。

その中もまた、霧、霧、霧の霧だらけ。


しかしどれほど視界を遮られようとも、アンデッドの頭でっかちには生命の灯が視えるのだ。

近づく銀霧の兵士たちを、周りの壁ごとシールドでハタキまくる。


入って直ぐ上に、大穴がぽっかりと空いていた。

穴の先にも、さらに穿たれた穴。


階層をぶち抜き、縦穴は真っ直ぐ上に向かって続いていた。

五体のがしゃ髑髏は、雑魚の命には目もくれず塔を登って行ったのだろう。


頭でっかちには、その気持ちがとても良く分かる。

霧に紛れる雑魚とは違い、真上にドカンッとでかい命が二つ、煌々と照り付けているのだから。


その(まばゆ)い光が、スポットライトのように頭でっかちの所まで差し込んでくる。

頭でっかちは、まるで自分が深い穴の底にいるような気がした。


「あー」


ああ……そうだ、そうなのだ。

命の光はいつだってこうして上から、暗がりでジッとする頭でっかちたちアンデッドを見下してくるのだ。


頭でっかちの中でナランシアではない、がしゃ髑髏自身としての怒りがこみ上げる。

太陽を味方に付けた、上から目線の種族たちめ。


頭でっかちは、大きな頭を左右に振る。

そうじゃない、違うだろう?


力量の差も分からぬ、身のほど知らずの命どもめっ。

どちらが強者か教えてやる。


こちらが上へ出向く必要はない。

頭でっかちはそう思った。


その天上から、向こうを引きずり降ろしてやれば良い。

頭でっかちは小さな方の手をワチャワチャさせ、死霊ドルイドの(しゅ)を唱える。


効果範囲増大(れねそぶくす)

 三重効果(とりむふぇむ)

 柔らかな肌触り(むーにー)っ」


その瞬間、塔内に激しい嵐が吹き荒れた。

嵐から生ずる無数の真空の刃が、塔の内壁をズタズタにする。

硬いはずの石材がバターのように切断され、その暴風の内圧は外壁を四方へと吹き飛ばす。


後からやってきた巨大楽市と獣がしゃが、散弾の如くばら蒔かれる外壁の(つぶて)をモロに浴びて、折角登ってきたのにまた落っこちた。


恐らく巨大楽市の中で悲鳴を上げているかも知れないが、頭でっかちには聞こえない。

根元を破壊された尖塔は傾き、他の尖塔の中へと倒れていった。


密集する尖塔は塔同士の間隔が狭く、塔は自分の幅よりも狭い隙間へ、両側に建つ塔のワキ腹を削りながら、その身をねじ込むように倒れていく。

倒れる塔の中で、頭でっかちは更に“柔らかな肌触り(むーにー)”を唱え続けた。


頭でっかちの前で坂道のようになった塔の中を、凶悪な真空の刃が吹き荒れる。

倒壊する尖塔は、絶え間ない内側からの破壊に耐えられなかった。


塔に挟まる接触面からポキリと折れて、三角屋根の付いた上部が落っこちてしまう。

その先端がまた塔と塔の間にすっぽり挟まってしまい、三角屋根“△”が逆さまになって“▽”、ゴリゴリとした豪快な擦過音と共に静止した。



    *



「なっ、なっ、なーっ!?」


度重なる振動で塔が倒れると思ったら、あっと言う間に上下逆さまになっていた。

ナーガナーガは床となった天井に尻餅をついて、さっきから「なーっ」しか言っていない。


その脇で浮遊するチェダーが、兄を叱咤する。


「ナーガナーガっ、気をしっかりっ!」


「なーっ、言っただろっ! だから早く逃げるぞってっ!」

「そんな事、聞いてませんよっ!」


「俺の心を察しろっ! 金シルヤロウッ!」


湧きあがった恐怖を、怒りと罵詈雑言で何とかしようとするナーガナーガの前に、長椅子が並ぶ()()の大穴から、様々な瓦礫と共に巨大スケルトンが落ちてきた。

ドガシャンッ


その奇妙な形状とパーソナルカラーで、ナーガナーガでも直ぐに分かる。

絶対に会いたくなかった、敵アンデッド軍団の“赤い将”だ。


目と鼻の先に降ってきてしまった赤い死神に、ナーガナーガの罵声が喉に詰まった。


「んが、んぐっ」




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