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486 戦場の特別レーション


ずしんずしんと漆黒の巨人楽市が、長大な霧の壁を背負いながら南進する。

この黒い霧はカニポイに、“ダークエルフの復活”を見せないための衝立だった。


巨人楽市の五〇〇メドル(m)ほど先には、そのカニポイの姿がある。

赤いがしゃ髑髏は帝都を獣がしゃで駆け巡り、全てを(ただ)れた毒で赤く染めていく。

莫大な量の粘液が、石造りの都をのっぺりとした世界へ変えていった。


楽市は赤い祟り神の背中を見つめながら、必死に頭を巡らせる。

取り敢えず次の手を考えた楽市だが、色々と不確定要素が多すぎた。


上手く行くかどうかが、分からない。

かと言ってもう始めたからには、このままやるしかない。


不安が募るけれど、諦める選択はなかった。

一人では無理なことでも、今の楽市には皆がいる。


楽市を支えてくれる、霧乃たちやパーナ、ヤークト、松永がいるのだ。

楽市は瞳に強い光を宿し、霧乃たちへ振り返る。


(みんなっ! えっと……その……ほどほどにねっ!)


(あーぎ、そこだっ、もっとくえっ!)

(だめだ、かむなっ、のめーっ!)

(ごくごくごくごくごくごくごく……)


(まめもーっ、まめもーっ!)

(できたてって、ひと味ちがうんですーっ!)

(ぶふっ)


楽市の不安をよそに、霧乃たちは赤い毒へ夢中になっていた。

巨人楽市の舌にみんなでリンクして、食べまくっているのだ。


巨人の手で瓦屋根にへばりつく毒をすくい、ガンガン口の中へ放り込んでいる。

もう顎のあたりが、赤い毒でべっちょりだった。


味覚が一人だけ違う豆福は、巨人の足裏から毒の旨味をちゅーちゅー吸っている。

楽市は恥ずかしいので止めさせたいのだが、霧乃たちにお昼ご飯を食べてないと言われて、強く言い返せない。


(えっと……朱儀そのままで良いから聞いて、あの子との距離は大体これぐらいね。

あまり近づき過ぎないで)


(はーい)ごくごくごくごく


(それとパーナ、ヤークト、解毒魔法の続きをお願い。

尻尾をもう一本増やすから、それに乗って行って)


(( かしこまりました、ラクーチ様っ! ))


(豆福も、パーナとヤークトに付いて行って。

そろそろ森が、届かなくなると思う)


(ふあ?)


(ほら、イカのがしゃから、いっぱい離れたでしょ?

もう一回呼ばないと、こっちまで来ないかも。

こっちには、森をこっちだよーって呼ぶものがないでしょ?)


“北の森とイカ”の間にはしっかりと道筋が繋がっているが、イカから南には何も繋げるポイントが無いと、楽市は言っているのだった。

引き付けるポイントが無いと、森の進行は何処かの時点で止まってしまう。


(ああっ、もーりーっ!)


楽市は(ぶあああああっ)と叫んで飛び出そうとする豆福を抱え、霧乃たちにも指示を出す。


(霧乃、夕凪、松永っ。

パーナたちの周囲を注意してて、お願い。

何かあったら直ぐに、三人を尻尾の中へ引きずり込んでっ)


(わかったっ)

(まかせろっ)

(ぶふっ)


(そしてチヒロラっ)

(はい、らくーちさんっ)


(今のうちに朱儀とがしゃを動かして、扱いにもっと慣れていて。

後で朱儀と一緒に、がしゃで物凄く早く走ってもらうからっ)


(わーっ、チヒロラ頑張りますーっ)ぴょん


(皆、聞いてっ。

子供たちのゾンビ化には、時間差がある。

死んで直ぐに、ゾンビになる訳じゃない。


それがどれくらいの時間かは、分からないけれど……

少なくともカニポイの足下ではゾンビ化していないし、まだここら辺の子供たちだってゾンビ化していない。


だからカニポイと距離を取りつつ、毒消しを調節しながら豆福の森を広げていくよっ。

あまり近づき過ぎるとバレちゃう。

あの子には、ダークエルフの復活を知られちゃ駄目っ。


今、幽鬼たちが南の端から、ダークエルフを殺しながらこっちに向かっているの。

だから幽鬼たちと合流できたら――)


楽市はそこで、幼子たちがジト目になり始めた事に気づく。

どうやら、話の長さの限界ラインに近づいたようだ。


(えっと……とにかく皆で頑張ろうっ!)


楽市が言葉を切って締めくくると、霧乃たちが沸いた。


(わーっ、きりに、まかせてっ!)

(ちがうっ、うーなぎにも、まかせろっ!)

(あーぎも、げぷっ、がんばるよっ!)ごくごくごくごくごくごく


(ぶあああっ、もーりーっ!)

(みんなでやれば、負けないんですーっ!)

(ぶふーっ)


パーナとヤークトは、まだちょっと謎テンションが入る。


(きゃあああっ! ラクーチ様の命令するお顔が、ス・テ・キっ!)

(また脱ぎますかっ? ヤークトはいつでも脱げますっ!)


(いやえっと……うんありがと……脱がなくていいから。


あーっ、ちょっと霧乃っ!

あんたたち食べ過ぎだってっ!

がしゃのお腹が、ポッコリ出てるじゃないっ!)


(きり、しらないっ)

(わかんない、でてないっ)

(ごくごくごくごくごくごくごく……)

(でーてーるーっ)

(ちょっと、お茶が欲しいですー)ぴょん


戦場の特別レーションは、周りに腐るほどあるのだ――




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