046 ストーンゴーレム~黒き国つ神~
(あれ?)
(らくーち、なんかへん……)
(!?!?)
最初に気付いたのは、霧乃たち三人だ。
言われて楽市も、遅れてそれに気付いた。
空気の質感が変化している。
微かに、体にまとわりつく感触があった。
不吉な兆しに、楽市の顔が曇る。
「……朱儀、ここを出るよ」
(んっ)
朱儀から体が戻り、楽市は狐火となる。
そのまま天井を抜けようとしたが、何かに阻まれ跳ね返えされた。
楽市は人の姿に戻り、尻餅をついてしまう。
「なっ」
(あれれ?)
(なんで?)
(!?!?)
「これって……」
楽市がいぶかしむ間もなく、次の変化がおきる。
部屋全体が軋みだし、天井が落ち窪み始めたのだ。
それだけではなく、床も盛り上がっている。
(うわー!)
(ちっちゃく、なってる!)
「くっ!」
三人が驚愕する中で、朱儀が楽市の中から勢い良く飛び出す。
(んーっ!)
「朱儀!?」
朱儀は石壁の前に立つと、一度角を高くかかげてから、壁に思い切り拳を叩きつけた。
拳は手首まで突き刺さり、引き抜くと大きな穴が空いている。
――いける
そう確信した朱儀が速射砲のような突きを、石壁へ叩き込んでいった。
(すごい!)
(やっちゃえ、あーぎ!)
見る間に石壁を破壊する小さな背に、霧乃と夕凪が興奮する。
しかし、部屋の崩壊スピードの方が早かった。
朱儀の空けた穴は、すぐに崩れて埋もれてしまう。
天井が崩れ落ち、床が更に迫り上がる。
とても間に合わない。
部屋の調度品やダークエルフの死体が、次々と岩に飲み込まれていく。
部屋全体が圧縮され、崩壊しているのだ。
朱儀はパニックになりながらも、石壁を破壊し続けようとする。
「ああっああああっ!」
楽市は、そんな朱儀を抱きしめうずくまった。
(うあーっ!)
(あああっ!)
霧乃たちの叫び声を聞きながら、楽市は自分の無力さを知る。
「ああっ、みんなっ!」
うずくまる楽市の背に、天井の岩が重く伸しかかった。
背骨が嫌な音を立てへし折れる。
楽市はその痛みが分からぬほど、ダークエルフへの怒りで煮えたぎっていた。
「おの……れっ」
抱きしめる朱儀が、自分と共に押し潰されていく。
幾ら治癒力が高くても、すり潰されれば一溜りもないだろう。
「朱儀っ!」
「ああーっ」
痛がる朱儀の名を、楽市の中の二人も叫び続ける。
(ああっ、あーぎいっ!)
(あーぎいっ、あーぎいっ!)
「許さぬぞダークエルフめっ、許さぬっ、絶対に許さぬ!」
楽市はこの時始めて、心の底からダークエルフを呪い続けた。
自分の無力さ、不甲斐なさもない交ぜになった、楽市の闇が滴り落ちる。
滴り落ちた闇に、地の底より「黒き国つ神」が呼応する――




