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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第7章 天空のライカ・ユーヴィー
426/683

425 ライブ会場で見かける、一杯の手の上で移動していくお調子者。


(ふふふ、アーギさーん)

(アーギさんっ!)

(アーギ氏~)

(アーちゃーん)


朱儀は、ドングリパーナへデコを押しつけながら思う。

もうパーナを殺しちゃおうと。

さっきから名前を呼ばれて、うるさいったらない。


(あーもうっ、やーるーっ!)


殺意をいだき振り返って、握りこぶしを作ると、後ろにいたペラペラパーナたちがビクンッと体を震わせた。

胸の前で手を合わせて、涙を流し始める。


(あああ……アーギさん。

その手でパーナを殺す気なんですかあ~)


(アーギさん、それは無いですー。

今までずっと、お仕えしてきたのにっ。

最期のお別れが、拳でグーですかっ)


(ぐすんっ、アーギさん。

そんなにパーナの事を嫌っていたなんてっ……ごめんなさい。

どうぞ殺して下さい。

でもパーナの事忘れないで下さいね、ぐすんっ。

ふええええええんっ)


(ええーっ!?)


パーナの泣き顔を見て、朱儀の殺意がへんにゃりする。

今まで一緒に角つきへ乗って、旅をしてきた仲じゃないか。

パーナには、随分と良くしてもらったものだ。


そんなパーナを、自分は殺そうと思ってしまった。


何てことを考えたんだっ。

朱儀の中でパーナへの罪悪感が、いっぱいに膨れ上がってきて……


(あ……ぱーな、えっと……)


朱儀がごめんなさいと謝ろうとした時、後ろからガシリと一本角をつかまれて引き戻された。

目の前に、夕凪の激怒顔が見える。


(あーぎっ、ぜったいそっち、見るなっ。

みたら、うーなぎが、ころすっ!)


(わーっ、ごめんなさーいっ!)


夕凪の気迫に押されて、朱儀はドングリパーナへデコを押し付けた。

おでこに角があるので、四苦八苦する。


(あーぎ、まめ、チロっ。声出せっ!

ぱーなじゃ、ないっ! 

これ、ぱーなじゃ、なーいっ!)


(何言ってんですか、ウーナギさんっ。

私はパーナだって、言ってるじゃないですかっ!


いつまでもそんな事言ってると、私だって許しませんよっ。

私はパーナ何ですっ!)


夕凪たちがパーナじゃないと叫ぶほど、中心で抱かれるドングリパーナが強く否定する。

そのやり取りのズレで、何とか催眠の完オチをしのいでいるが、これではただ時間を稼いでいるだけだ。


それだけで手いっぱいとなり、身動きが全く取れなかった。

それでも今は、ドングリパーナを見て叫ぶしかない。


((( ぱーな、じゃなーいっ! )))

(ぱーなだって言ってるだろっ、ウーナギいいっ!)


夕凪の獣耳が、慌ててパタパタと動く。

今、チヒロラの声が聞こえなかったのだ。

夕凪は焦り薄目を開けた。


するとチヒロラが無数の手に支えられて、運ばれて行くのが見える。

ヒノモトで言うならばライブ会場で見かける、一杯の手の上で移動していくお調子者みたいになっていた。

チヒロラの何とも幸せそうな顔が、とっても印象的だ。


(あは~♪)

(チローーーっ!!)


夕凪はチヒロラを目で追ったため、大量のパーナが視界に入り込んだ。

パーナたちは夕凪の視線に気づき、一斉に夕凪へ手をふった。


一つ一つが聞き取れないほどの声で、話しかけてくる。

それがこだまのように耳の中で反響し、夕凪の頭が再び言葉をつむげなくなっていった。


(やめろ……やめ、このっ……)


夕凪を支えていた怒りも薄れて、パーナたちの笑顔から目が離せない。


(もう……やべ……)


頭がボンヤリとし、夕凪の気持ちが折れかかったその時、奇妙な事がおこった。

突然周りに群がっていたパーナたちが、子供たちから離れいくのだ。


(え?)


いつものパーナ、ペラペラ、下着、ドングリ。

四種のパーナが次々と大きな弧を描いて、遠くへ吹き飛ばされていく。


ぽーん……ぽーん、ぽんぽん、ぽーん……


(なん……!?)


夕凪が(かす)む頭を振りながら見ていると、パーナたちとは違った何かが、視界の端で(うごめ)いている事に気づいた。


(ん?)


それはドングリパーナに一生懸命デコをくっつけている、朱儀の頭の上にいる。

何やら小さな不定形の白いスライムで、数は二つ。

その腰だか何だか分からない部分を、クネクネと子気味良く振っているではないか。


(あっ、石さまーっ!)




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