425 ライブ会場で見かける、一杯の手の上で移動していくお調子者。
(ふふふ、アーギさーん)
(アーギさんっ!)
(アーギ氏~)
(アーちゃーん)
朱儀は、ドングリパーナへデコを押しつけながら思う。
もうパーナを殺しちゃおうと。
さっきから名前を呼ばれて、うるさいったらない。
(あーもうっ、やーるーっ!)
殺意をいだき振り返って、握りこぶしを作ると、後ろにいたペラペラパーナたちがビクンッと体を震わせた。
胸の前で手を合わせて、涙を流し始める。
(あああ……アーギさん。
その手でパーナを殺す気なんですかあ~)
(アーギさん、それは無いですー。
今までずっと、お仕えしてきたのにっ。
最期のお別れが、拳でグーですかっ)
(ぐすんっ、アーギさん。
そんなにパーナの事を嫌っていたなんてっ……ごめんなさい。
どうぞ殺して下さい。
でもパーナの事忘れないで下さいね、ぐすんっ。
ふええええええんっ)
(ええーっ!?)
パーナの泣き顔を見て、朱儀の殺意がへんにゃりする。
今まで一緒に角つきへ乗って、旅をしてきた仲じゃないか。
パーナには、随分と良くしてもらったものだ。
そんなパーナを、自分は殺そうと思ってしまった。
何てことを考えたんだっ。
朱儀の中でパーナへの罪悪感が、いっぱいに膨れ上がってきて……
(あ……ぱーな、えっと……)
朱儀がごめんなさいと謝ろうとした時、後ろからガシリと一本角をつかまれて引き戻された。
目の前に、夕凪の激怒顔が見える。
(あーぎっ、ぜったいそっち、見るなっ。
みたら、うーなぎが、ころすっ!)
(わーっ、ごめんなさーいっ!)
夕凪の気迫に押されて、朱儀はドングリパーナへデコを押し付けた。
おでこに角があるので、四苦八苦する。
(あーぎ、まめ、チロっ。声出せっ!
ぱーなじゃ、ないっ!
これ、ぱーなじゃ、なーいっ!)
(何言ってんですか、ウーナギさんっ。
私はパーナだって、言ってるじゃないですかっ!
いつまでもそんな事言ってると、私だって許しませんよっ。
私はパーナ何ですっ!)
夕凪たちがパーナじゃないと叫ぶほど、中心で抱かれるドングリパーナが強く否定する。
そのやり取りのズレで、何とか催眠の完オチをしのいでいるが、これではただ時間を稼いでいるだけだ。
それだけで手いっぱいとなり、身動きが全く取れなかった。
それでも今は、ドングリパーナを見て叫ぶしかない。
((( ぱーな、じゃなーいっ! )))
(ぱーなだって言ってるだろっ、ウーナギいいっ!)
夕凪の獣耳が、慌ててパタパタと動く。
今、チヒロラの声が聞こえなかったのだ。
夕凪は焦り薄目を開けた。
するとチヒロラが無数の手に支えられて、運ばれて行くのが見える。
ヒノモトで言うならばライブ会場で見かける、一杯の手の上で移動していくお調子者みたいになっていた。
チヒロラの何とも幸せそうな顔が、とっても印象的だ。
(あは~♪)
(チローーーっ!!)
夕凪はチヒロラを目で追ったため、大量のパーナが視界に入り込んだ。
パーナたちは夕凪の視線に気づき、一斉に夕凪へ手をふった。
一つ一つが聞き取れないほどの声で、話しかけてくる。
それがこだまのように耳の中で反響し、夕凪の頭が再び言葉をつむげなくなっていった。
(やめろ……やめ、このっ……)
夕凪を支えていた怒りも薄れて、パーナたちの笑顔から目が離せない。
(もう……やべ……)
頭がボンヤリとし、夕凪の気持ちが折れかかったその時、奇妙な事がおこった。
突然周りに群がっていたパーナたちが、子供たちから離れいくのだ。
(え?)
いつものパーナ、ペラペラ、下着、ドングリ。
四種のパーナが次々と大きな弧を描いて、遠くへ吹き飛ばされていく。
ぽーん……ぽーん、ぽんぽん、ぽーん……
(なん……!?)
夕凪が霞む頭を振りながら見ていると、パーナたちとは違った何かが、視界の端で蠢いている事に気づいた。
(ん?)
それはドングリパーナに一生懸命デコをくっつけている、朱儀の頭の上にいる。
何やら小さな不定形の白いスライムで、数は二つ。
その腰だか何だか分からない部分を、クネクネと子気味良く振っているではないか。
(あっ、石さまーっ!)




