040 楽市、やる気だす~やる気満々~
「ええっ、そんなこと言ってもっ!」
都会で腑抜けていた狐に、野生児の指示はピーキー過ぎるのだ。
楽市の体が付いていけない、運動不足である。もっといたわって欲しい。
そんな楽市のことなど構わずに、次々と獣人兵の攻撃魔法が飛んでくる。
霧にまぎれ木の裏に隠れても、相手は直ぐに見つけ出し、木ごと楽市を吹き飛ばしにかかった。
不可視の衝撃波が、楽市の隠れる木を襲う。
(あっ)
(だめだこれっ)
(!!)
言い合いをして、一瞬指示を出し遅れてしまった霧乃たちが、咄嗟に自ら炎を出して楽市の体を包んだ。
それと同時に、隠れていた木が爆散する。
炎を噴出した勢いで、衝撃波のダメージをなんとか殺したものの、楽市の体は後方へ勢い良く転がっていった。
「うぐぐっ……ぷはあっ! 今のはやばかったっ!」
(らくーち!)
(ごめん!)
(あーっ)
「気にしないでっ、お陰で助かった!」
楽市は直ぐに立ち上がり、走り出す。
相手が、休ませてくれないのだ。
(なんか、とげとげしたの、くる! いっぱい!)
楽市は夕凪からの心象で、それが弓矢だと知る。
「みんな炎を四重にして全開っ、焼き飛ばすよっ」
(わかった!)
(うんっ!)
(……)
獣人兵たちの魔力を込めた矢が数十本、木々の間を縫うように飛び、楽市へ襲い掛かる。
当たれば体内で魔力がはじけ、内臓をズタズタにする陰湿な代物だ。
それを四重の炎の壁が、楽市へ届く前に焼き尽くしていく。
溶け残った矢じりが失速して、楽市の足元に転がり落ちる。
上手く行ったが、咄嗟のことで炎のコントロールが効かなかった。
炎が木々に燃え移り、あっという間に広がってしまう。
燃え上がる炎に、獣人兵たちの動きが鈍った。煙が肺に入ることを恐れていた。
(あーっ!)
(もえちゃってる!)
「やばっ、でも今は気にしないでっ、次がくる!」
(……)
楽市は三人が伝えてくる心象で、敵がどんどん集まるのを知った。
完全に囲まれるのは不味い。
焦る楽市に、霧乃が叫んだ。
(らくーち!)
「何っ!?」
(あーぎが、こーたい、してって!)
「えっ、何て言ったの!?」
(よし、いけっ!)
楽市が言葉の意味を理解する前に、夕凪が勝手にGOサインを出す。
「一体何を!? うっ……ええ!?」
楽市は気付くと、首から下の感覚が無くなっていた。
「えっ、何これちょっとっ、夕凪!?」
感覚の無い首から下の体が、勝手に動いている。
朱儀が使い慣れない手足の長さや、関節の動作確認を始めた。
いけると踏んだ朱儀が、楽市の手のひらと拳を打ち合わせる。パシンッ
「朱儀っ!?」
(あはは)
朱儀が、楽市の体を乗っ取ったのだ。
霧乃が親切に説明してくれる。
多分、三人の中で一番優しい子だ。
(あーぎがね、みてて、いらいらするって)
「はあっ!?」
(あーぎ、きた!)
楽市の中で殺る気満々の朱儀が、夕凪の声で走り出した。




