392 頭でっかちの乙女心が、ダンスダンス・チラリズム。
豆福は楽市にあやされて、充分に満足を得る。
すると、素早く黄緑色の光の玉となり、すいっと地上に降りていった。
すぐさま元の姿に戻り、ホクホク顔で膝をついて、頭のつる草を土壌に突き刺しはじめる。
北の森から、木々を呼び寄せるつもりなのだ。
しかしである。
幾ら呼んでも、森から一向に返事がこない。
暫くして豆福が頭をあげると、顔を真っ赤にして涙目となっていた。
北の森から、何の反応もないのだ。
豆福は再び楽市の元へ戻ると、座る楽市の胸に顔をこすりつけ、悔し涙をぬぐいまくった。
「うー、うー、うーっ」
「うんうん……そうだよね、よしよし」
楽市は豆福の背をポンポンと叩きながら、パーナとヤークトを見つめる。
その目は随分と眠た気で、目の下に隈ができていた。
「パーナ、ヤークト……
悪いけれど赤いがしゃが起きたら、ドルイド魔法の事を詳しく聞いてくれないかな?
何だか、ドルイドダンスが凄いらしいの。
そこら辺のこと、あたしには魔法がちょっと分からないから……」
「ドルイド魔法ですかっ!?
分かりましたお任せ下さいっ」
「パーナとあたしで、しっかり聞いてみせます。
それとあのラクーチ様……少し寝られてはいかがでしょうか?
昨日から、一睡もされていないようですし」
「うん、ありがとそうする……ふああ。
流石にねむいや……それと霧乃、夕凪」
「うん?」
「なんだー?」
「あたし、これから少し眠るから、何かあったら起こしてね。
大丈夫だと思うけど、一応辺りを見ててくれる?」
「わかった」
「まかせろ」
「白龍たちはまだ帰って来ないと思うけど、もし帰ってきたらその時も――」
「おこす、おこす」
「はやくねろ」
「もう、可愛げないなー」
むくれる楽市をほっといて、霧乃と夕凪は、腕を組んで楽市の両側に立つ。
返事に可愛げはないけれど、パタパタと獣耳を動かす二人の背中をみて、楽市はニンマリしてしまう。
霧乃と夕凪が、何だかとても頼もしく感じる。
もっと背中を見ていたいが、瞼が重い。
落ちかける楽市の視界に、寝転がる朱儀とチヒロラが映る。
朱儀をくわえていた松永は、いつの間にかどこかへ出かけたようだ。
いつもの習慣で、狩りに出たのかもしれない。
「それじゃ……お願い、ね……」
微笑みながら、その眼が細められていき、首がかくりと垂れた。
楽市が眠ると同時に、角つきがしゃを覆っていた、瘴気の帯が解けて――
*
頭でっかちが、かくも短き眠りから覚める。
時間にして二十分ほど。
「んー」
アンデッドの頭でっかちには、これで充分だった。
正確には寝ているのではなく、シノが主張するように、活動と思考力が極端に低下した状態である。
まあ、頭でっかち自身が眠いと表現しているので、睡眠と余り差はないのかもしれない。
「あっ、カニポイがおきたっ」
「おーいっ、カニポーイっ」
「?」
頭でっかちは、小さな声のした方を向く。
するとまだ左手で、黒い女の手を握っている自分に気づいた。
そこには、さっきまでお話ししていた“らくーちー”が居る。
他にも初めて見る獣が、何匹か黒い骨の手の上にいて――
骨の手?
頭でっかちは視線をあげると、一瞬固まり、左手以外の手足をワチャワチャとさせた。
「あーあー、おまえー!?」
黒い女の手を握っていたはずなのに、いつの間にか“アイツ”の手を握っていたのだ。
無いはずの心臓がドキンとして、咄嗟に距離を取ろうとしたが、左手を離したくない。
「えーえー、おーまーえー!?」
何でアイツが、ここにいるのか?
混乱してドラゴンアームが過剰反応し、空高く飛び立ちそうになるが、それをグッとこらえる。
だってとってもとっても、会いたかったのだ。
あの夜の一戦を思い出し、月に向かって何度「あいたいー」とつぶやいたことか。
左手を、絶対に離したくなかった。
手を離したら、また目の前から消えちゃうかもしれない。
頭でっかちは、それがとっても嫌だった。
角つき骨のアイツが、ワチャワチャする自分を見ている。
そう思うだけで、骨の顔が発熱するような思いだ。
「ひゃー」
会ったら何をするんだっけ、何をするんだっけっ。
ああそうだ、トリクミをしよう。
殴り合いをしようっ。
そこまで思いたった時、頭でっかちに電流が走るっ。
自分が殆ど、練習していなかったのを思い出したのだ。
「ひー」
これじゃまた、すぐ負けて嫌われてしまう。
角つき骨にだけは、弱いと思われたくなかった。
頭でっかちの、乙女がしゃ心が揺れに揺れる。
何で練習してなかったんだっけっ。
何で練習してなかったんだっけっ。
頭でっかちはワチャワチャしながら、その理由を思い出した。
「あ」
頭でっかちは骨の手を離さず、ドラゴンシールドで立ち上がる。
手のひらに乗る、らくーちーたちを落とさないように、ゆっくりゆっくり……
「きてー」
頭でっかちは、角つき骨の手を引きながら、焼け野原の中央へと誘った。
自分の手の短さと、ドラゴンアームの取り付け位置の都合上、頭でっかちは骨の手を取りながら、横歩きとなる。
手のひらに乗る小さな獣たちが、「ホントにカニポイだーっ」と喜んでいるが、どういう意味だろうか。
充分に歩いたのち、頭でっかちは周りの仲間たちを呼び寄せた。
角つき骨の手を離したくないから、小さな足を合わせて鐘の音を鳴らす。
ゴンゴン、ゴオオン、ゴンゴ、ゴオオン
鐘の鳴らし方は数十種類あり、それを組み合わせて、仲間たちへ指示をだす。
ゴンゴオオン、ゴオン ゴッゴッゴッゴッ ゴッゴッゴッゴッ
集まるがしゃ髑髏たちが、それぞれ近場のがしゃ髑髏と五人組を作り、頭でっかちの鳴らすリズムに合わせて踊り始める。
ゴオン、ゴオンッ
頭でっかちが二回大きく足を鳴らすと。
中央に二組出てきた。
更に二組から、一体ずつ真ん中へ出ると。
その二体が互いに、挑発するようなダンスを続けて、その速度をあげていった。
頭でっかちは仲間たちに指示を出しながら、チラチラと角つき骨を見る。
どう? あたし頑張って、みんなに教えたよ。褒めてほめてーっ!
そんな思いを込めて、チラチラと見る。
しかし角つき骨は、ぼおっとして立ったままだ。
頭でっかちは、それがとっても御不満だった。
「もー」
角つき骨は突っ立ったままだが、その手のひらに乗るパーナとヤークトは違う。
驚愕の表情で、そのドルイドダンスを見つめていた。
二人だけではなく、楽市たちも全員口を大きく開けている。
楽市は鐘の音がうるさくて、起きてしまったらしい。
パーナとヤークトが震える声で呟いた。
「……これ、本当に凄い」
「ドルイドダンスの、獣人未到達地点……」
*
「ぶふ」
狩りに出かけていると思った松永が、焼け野原をうろついていた。
うろついては、そこに立つがしゃ髑髏たちを一体一体眺める。
眺めてはプイっと顔をそらし、次のがしゃ髑髏の元へと向かう。
そうしている内に鐘の音が鳴り響き、がしゃ髑髏たちが集まってなぜか踊り始めた。
松永はがしゃ髑髏に踏まれもせず、スイスイとその足元を歩き回る。
一体見てはプイッ、一体見てはプイッ。
それを繰り返す内に、松永の足が止まった。
一体の踊るがしゃ髑髏を、ジッと見つめている。
何が気に入ったのかは知らないが、松永はご機嫌に鼻を鳴らし始めた。
「ぶっふーっ」
https://36972.mitemin.net/i588504/




