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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第6章 血糊の沼と炎の海
391/683

390 あたし、あなたの事がもっと知りたい


楽市は思いを伝えようと、深く取り憑く。

するとその感触の中に、ごく僅かだが、薄皮一枚ほどの馴染みを感じた。


以前自分は、この心に触れている。

楽市はそう思い注意深く探ると、その声にも馴染みがあることに気付く。


なぜ直ぐに、気がつかなかったのだろう。

あまりにも、外見が違うせいだろうか?


そうと分かって聞いてみれば、その声は確かにナランシアだった。

ナランシアは楽市がこの地へ転生した時、初めて言葉を交わした現地の獣人だ。


初めは北の森を焼く、敵対者として出会った。

その後は、お互いに警戒しながら言葉を交わしたが、最後はかなり打ち解けていたはずだ。


楽市は、この地にやって来た不安をぶつけるように、ナランシアへ様々なことを聞きまくったのを覚えている。


楽市のこの世界での基礎知識は、全てナランシアからだと言えた。

それだけに、ただ一度の出会いであったが、強く印象に残っているのだ。


そのナランシアの声を、なぜがしゃ髑髏が発するのか?

その理由が分からず、楽市は更に深くさぐる。


するとハッキリと感じられた。

がしゃ髑髏の中に、ナランシアがいるのだ。


ナランシアが、実際にそこにいるのを感じた。

二者には境目がなく、がしゃ髑髏とナランシアが一つに溶け合っている。

ナランシアが、がしゃの一部と化しているのだ。


一体何が、どうなっているのか?

楽市の理解が追いつかない。


その間も頭の大きながしゃ髑髏が、動揺する楽市へ、楽しそうに語りかける。

言葉足らずだが、とても親しみを込めて楽市へ語ってくれていた。


あの時もそうだったと、楽市は思う。

楽市が色々質問すると、ナランシアは嬉しそうに説明してくれたのだ。


その時の楽市は、ナランシアに感謝をしつつ、少しだけ蔑んだのを覚えている。

先程まで敵対していた自分に、あっさりと懐くナランシアへ、あまり良い印象が持てなかったのだ。


けれど、今なら分かる。


パーナやヤークトと出会い、触れ合うようになった今なら分かる。

ナランシアも、パーナとヤークトのように思い悩んでいたのだ。

獣人種の置かれた状況を。


獣人種は、強者に従うことを良しとする種族である。

これは思考以前に、本能がそうさせる行動規範だ。


それでも心のどこかで、使い捨てとされるダークエルフとの関係に違和感を感じ、思い悩んでいたのだろう。


だから楽市の、自分たちへの接し方に衝撃を受けていたのだ。


主であるダークエルフより強い者が、獣人へ向かって普通に接し語り合う。

その身を案じて、獣人のために本気で怒ってくれる。


楽市はただ当たり前のように接しただけだが、ナランシアにとって、それこそ有り得ないものだった。

ナランシアは、そこに何を見たのか?


パーナやヤークトのように、思い悩む先の希望として映ったのではないか。

楽市が敵対者であったにもかかわらず、そこに希望を見て、楽市に親しみを抱いてくれたのではないか?


それなのに楽市は、ナランシアを追い返したのだ。

北の森は危険だとの理由で。


確かに瘴気内に、長時間いるのは危険だ。

それを心配して追い返した。


しかし、それだけだろうか?


もしパーナやヤークトが、同じ状況にいたら自分はどうするのかと自問する。

今の楽市にとって、パーナとヤークトは妹のような存在だ。


恐らくさっさと追い返したりなどせず、その場に留めて、どうするべきかもっと考えているだろう。

なのに、ナランシアの時はしなかった。


要するに楽市は、面倒くさかったのである。


ナランシアたちを、厄介者だと思っていた。

ナランシアの気持ちを、理解しようとはしなかった。


だから、もっともらしい事を言って追い出したのだ。


楽市は一生懸命に話してくれる、がしゃ髑髏へ頷きながら辺りを見る。

確かナランシアには、十二人の部下がいたはず。


ナランシアのように、がしゃ髑髏の中にいるのだろうか?

多分いないだろうと、楽市は考える。


もしいたら、目の前のがしゃ髑髏のように、言葉を話しているだろう。

昨晩がしゃに取り憑いたとき、喋るがしゃは、この頭の大きな子一体だった。


ナランシアは一人である。


恐らく部下たちは、全員殺されているだろう。

獣人が、がしゃ髑髏に勝てるわけがない。


遭遇と同時に、瘴気に当てられて動けなくなったはず。

一体どのがしゃ髑髏に遭遇したのかと、考える必要はなかった。


このがしゃ髑髏だ。


この頭の大きながしゃ髑髏と、遭遇したのだ。

そして皆殺しにされ、理由は分からないが、ナランシアはがしゃ髑髏と一体化した。


もしあの時、追い出さずに引き留めて、もっと真剣にナランシアの事を考えていたら、彼女たちは死ぬことはなかったのではないのか?


あの時もっと、ナランシアの気持ちに添えていたら、ひょっとしたら今頃、パーナやヤークトの隣にナランシアがいたのではないのか?


パーナとヤークトの姉として、笑ったり、怒ったり、悲しんだり、泣いたりしていたのではないのか?


楽市の側に立ち、一緒に旅をしていたのではないのか?


楽市はそう思うと、胸が締め付けられるような思いに駆られた。

いくら後悔しようとも、何もかもが遅い。


一度ゾンビやスケルトンとなった者は、二度と元には戻せないのだ。


楽市の頬から、一筋の涙がつたい落ちる。

頭の大きながしゃ髑髏が、不思議そうに楽市の顔を覗き込んだ。


「んー、らくーちー?」


「ううん、何でもないよ気にしないで。

それよりも、もっとお話を聞かせて。


今までの事を全部。

あたし、あなたの事がもっと知りたい」




―――――挿絵(By みてみん)

https://36972.mitemin.net/i587536/




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