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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第1章 異界の異物
37/683

037 楽市、動揺する~石で出来た、しかくい森~


(らくーち!?)


霧乃からも、驚きの感情が伝わってきた。

楽市は心象を読み取られたと知り、苦悶の表情を浮かべる。


夕凪からは、尚も激しい拒否の言葉が楽市にぶつけられる。


(だめだめだめっ、らくーち、だめーっ!)

 

楽市はその気持ちに、応えられない。


「夕凪……」


楽市の選択。

それは、妖しの子の放棄だった。


「分かって夕凪……この段階じゃどうしようもないの。

ここでモタモタしていると、夕凪たちまで危なくなる」


(だめーっ、つれてって、らくーち!)


「夕凪……無理なの。ここから、動かそうとすれば壊れてしまう。

それに、この段階ではまだ意識はないの。

ここに、立ち込める霧と変わらない。

まだ、ただの澱でしかない。だから……」


(そんなことないっ、ないてるし! なーいーてーるーしーっ!)

  

夕凪は楽市の言葉を遮り、むきになって言い返した。


「そんなわけが……」


ないと言いかけて、楽市の表情が固まる。

そもそもここに辿り着いたのは、夕凪と霧乃が声を聞き取ったからではなかったか?


楽市には声が聞こえなくても、二人には聞こえている。

そこに気付いたとき、楽市の声がかすれる。


「そんな……ありえない……」


理解してもまだ否定しようとする楽市に、霧乃が怒りをぶつける。


(らくーち、ひどい。ぜったい……ぜったい……ゆるさないから……)


霧乃は本気で怒ると陰にこもるタイプなのか、楽市に沸々とした怒りをぶつけてくる。


夕凪とは真逆だが、怒りの深さはむしろこちらの方が上だ。

朱儀が霧乃から伝わる怒りの強さに、びっくりしている。


楽市の顔が、紙のように白くなった。


「まさか……本当に、泣いているの……」


楽市は、強張る表情で空中を見つめる。

いや空中ではなく、自分の中に浮ぶ記憶を睨んでいた。

一体、何を思い出しているのか?


「まさか……それじゃあ……あたしは……」


震える声でつぶやく。

その直後、楽市はパニックを起こした。


「かはっ……」


呼吸が荒くなり、激しく動転し始める。

突然湧いた恐怖に耐えられず、前のめりになって両手で顔を覆った。


楽市は後から後から湧いてくる記憶に、耐えようとする。


「ふううっ……くふうっ……」


楽市の突然の変わりように、中にいる三人はただ驚くばかりだった。


((らくーち!?))

(????)


何が起きているのか、全く分からない。

けれど、楽市から伝わってくるものがあった。


楽市の、過去へと通じる心象。

記憶の断片。


楽市は、それを自分で止めようとしても止められず、震え続けていた。

その断片が、霧乃、夕凪、朱儀に伝わってくる。


それは初めて知るものばかりで、霧乃たちは目を丸くする。


どこまでも続く石で出来た、しかくい森。

夜でもあちこちが、獣の目のように明るい所。


楽市がそこに一人、たたずんでいた……





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