表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第6章 血糊の沼と炎の海
364/683

364 千里眼の乙女たちは時間を合わせると、楽市の命を実行するため、張り切ってゴロ寝した。


血糊の沼――

その近くを流れる、フリンシルの大河。


深夜のため見えづらいが、河の流れは復活者の洗い落とす血糊で、真っ赤に染まっていた。


その河原に、楽市が立っている。


パーナ、ヤークト、松永が、骨の手の平から、角つきの頭蓋へ乗り込んで行くのを確認すると、楽市はシノへ振り返った。


見送りはシノ一人だ。

キキュールや他の獣娘たちは、復活者の面倒でテンヤワンヤだった。


「それじゃ行ってきます、シノさん」


「まだ、襲撃前だと良いのですが……

ラク殿もし戦闘が始まっていたら、相手はダークエルフの道から外れた者たちです。

充分にお気を付け下さい」


シノはそこで視線を下げ、楽市の腹部を見つめた。


「チヒロラを頼みます」

「あの……シノさん……」


楽市は自分のお腹に触れて、すまなそうな顔をする。

チヒロラは楽市の眷族であるが、シノの大切な娘と呼ぶべき幼子なのだ。


楽市はそのチヒロラを、道から外れた者たちとの最前線へ連れていくことになる。


「ラク殿、良いのです。

これは、チヒロラが望んだことですから。

今更ですが、それを言うならば、キリ君たちも同じことでは?」


「うっ、うぐ……そうなんですけど」


「ふふ……意地悪な質問でしたかな?

大丈夫、理解しておりますよ。


キリ君たちはまだ幼い。

ですが神位の高い山脈ドラゴンを、大量殺戮(さつりく)する幼女など、世の理の外ですよ。


そしてそれは、チヒロラもまた同じ事。

ふむ……

確か“アヤシ”は、見かけによらないもの。でしたかな?」


「あはは」


「ラク殿。

私はチヒロラを、大切に考えております。

しかしそれ以前に、チヒロラはラク殿の眷族なのです。


ここ最近チヒロラの中で、急速にその認識が強まっているようです。

私が止めても、ラク殿を追いかけて行くでしょうな」


「すみませんっ」


「確かに心配していないと言ったら、噓になります。

ですが意外と、楽観もしているのですよ。


端的に言えばラク殿が消滅しない限り、チヒロラもまた消滅しない。

ラク殿の“タタリ”がある限り、チヒロラは眷族として、何度でも復活すると考えています」


シノはせせらぎに耳を傾け、復活者の血で赤く染まる、大河を見つめる。


「だからですラク殿。

私に引け目を感じてくれるならば、あなたが消滅せず、必ず帰ってきて下さい」


「……ありがとうございます。

分かりました必ず帰ってきますっ」


楽市は強くうなずき頭を下げると、狐火となって角つきへ乗り込んでいった。





上空でドラゴン形態の白龍が、巨大な転移門を開く。


空間に穿たれる、直径一六〇メートルの大穴だ。

穴のフチでは病的な紫色の火花が散り、闇夜に真円を浮かび上がらせる。


白龍は両手でお椀を作り、その上にイース、リールー、サンフィルドを乗せていた。

彼女の他にもう一体、シルバーミスト・ドラゴンが付いて行く。


楽市の乗る角つきが、骨の翼を広げて飛びあがった。

その後ろから星への眼差し(スターゲイジー)の七兄弟が、宙を泳ぎ付き従う。


魚型がしゃの兄弟たちは、がしゃの運搬用に連れて行くのだ。

巨獣たちは次々と、白龍の開けた大穴をくぐっていく。


転移した先も全くの時差がなく、山々が続く真夜中の大森林だ。

さて、ドラゴンの山脈を越えて南へと転移したが、ここからは探りながらとなる。


霧乃、夕凪、朱儀の三人は、がしゃの大集団がいると伝えたが、具体的に距離を聞かれると、揃って首をひねった。


幼女たちは主張する。


そんなもの、分かるはずが無いではないかっ。

火の玉でずっと飛んで、ずっと南のどこかであると。


楽市が角つきの眼窩から身を乗り出し、辺りをうかがった。


「もっと南かな?」


楽市が首をかしげたその時、付き従っていた七兄弟が突然ビクンと跳ねた。


そうかと思えば身をくねらせ、角つきの両側をすり抜けて、南へぶっ飛んでいく。

七兄弟は競うように飛び去り、あっという間に闇夜へ消えてしまった。


兄弟の起こした突風が、楽市の銀髪を巻き上げる。


「ぶっはっ、何々なにっ!?」


楽市は七兄弟が消えた方角へ、金色の目を凝らす。

すると分かりづらいが、遠くの稜線が微かに赤く色づいていた。


「山……火事?」


それにしては、色が少し変だ。

炎の赤より、もっと深く暗いような……


楽市は振り返り、可愛い従者たちを見る。


「パーナ、ヤークトお願いっ」


「かしこまりました。ラクーチ様っ!」

「お任せください、ラクーチ様っ!」


指示を受けた二人は、キラキラと目を輝かせてしまう。


「ヤークト、五ミルでっ」

「分かった、五ミルっ」


千里眼の乙女たちは時間を合わせると、楽市の命を実行するため、張り切ってゴロ寝した。


待つこと五ミル(分)。

パーナとヤークトは飛び起きて、主へ報告する。


「ラクーチ様っ、ここから六十キリルメドル(キロ)先で、大規模な森林火災が起きていますっ」


「ですがその火災を、正体不明の紅い霧が覆いつくして、見えづらくしていました。

ハッキリとは分かりませんが、恐らくそこが、ガシャたちのいる場所かとっ」



挿絵(By みてみん)

https://36972.mitemin.net/i574356/




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ