362 「なんでーっ!?」 「なんでなんで、うるせえんだよっ。赤いのおっ!」
「えーいっ」
頭でっかちが最後の一体を放り投げると、フーリエがその瞬間に合わせて踏み込み、かぎ爪を振り下ろす。
「削れろや! コラあっ!」
頭でっかちが左のドラゴンシールドを合わせると、激突した瞬間、シールドが激しく下方へぶれた。
頭でっかちは首をガクガクさせながら、次の攻撃に右のドラゴンシールドで備える。
そこへ襲い掛かるフーリエの前蹴り。
これも盾で受けると、盾を持つドラゴンアームを通して、衝撃がお尻にガツンと響いた。
「おしりーっ」
頭でっかちのお尻が攻撃を受ける度に、後方へジリリとずれていく。
フーリエは手ごたえを感じて、更に盾を蹴り続けた。
「ははーっ! お座りして赤ん坊かよ、てめえっ!」
「このーっ」
頭でっかちはお座りをバカにされてムカついたが、彼女は蹴りを受け続けて、フーリエを理解していった。
確かに一発一発はお尻に響くほど重いが、スピードはそれほどじゃない。
この速度でどうやって、がしゃたちを捌いていたのか理解に苦しむが、激しくブレる盾を押さえつけるのに必死で、深く考える余裕がなかった。
頭でっかちは攻撃を受けながら、相手をじっくり観察する。
これが彼女の、いつもの戦闘スタイルだ。
頭でっかちは相手のリズムを読みとり、カウンターのタイミングを見定める。
「ここっ」
フーリエの体重を乗せた、かぎ爪の一撃。
頭でっかちは、そのかぎ爪へ盾を浅い角度で合わせて、斬撃の勢いを綺麗に後方へ流した。
フーリエが勢い余って前のめりとなり、バランスを崩す。
頭でっかちはその突き出た顎へ、右シールドの掬い上げをブチ込んだ。
決まればフーリエの顎を打ち砕き、脳みそを激しく揺さぶるだろう。
しかし頭でっかちは掬い上げの途中で、違和感を感じて押し留める。
同時に反対側の左シールドをつっぱって、大きく右へ跳ねた。
フーリエは前のめりになった姿勢を戻し、鼻を鳴らしてニヤリとする。
「やっぱお前だけ、動きが違うなあ?
その格好といい、何なんだお前? おもしれえよっ。
おもしれえけどよお……
ここは俺の戦場だあっ! 俺より目立ってんじゃねえっ!」
フーリエは叫ぶと、頭でっかち目掛けて全力疾走した。
巨人が一歩踏み込むごとに、大地が揺れ、後方に大量の土砂が巻き上がる。
そのままの勢いで大きく体を反らし、全身のバネを使ってかぎ爪を振り下ろす。
全く隙だらけの動きだった。
まるで、カウンターを気にしない動きだ。
勢いだけは凄まじいが、頭でっかちは難なく受け流しその隙だらけな巨躯へ、下から掬い上げるように右のドラゴンシールドを叩き込んだ。
しかしまただ。
またも右腕に違和感が走る。
防御は問題なくても、いざ攻撃に切り替えた途端、自分の動きが見て分かるほど遅くなった。
「なんでーっ!?」
頭でっかちは自分の意志とは反対に、進もうとしない己のドラゴンアームに驚愕する。
「バカがっ、ここは俺の戦場だと言ったろう?」
フーリエは掬い上げを難なくかわし、盾の左側に回り込むと、盾を持つドラゴンアームへかぎ爪を振り下ろした。
ギャリギャリギャリッ
アームの二の腕を深く削りとられて、右の盾ががくりと落ちる。
「わーっ」
フーリエは、垂れたドラゴンアームを引きずり、下がろうとする頭でっかちを楽し気に見つめた。
「これが我が“フーリエの大河”の領域効果っ。
この紅い霧の中では、俺が大河なんだよっ。
この領域内では、俺が常に“上流”っ。あとは全てが“下流”だっ。
俺に攻撃を仕掛けようとする奴は、全て下流から遡上する魚のように遅延効果がかかるっ」
「なんでーっ!?」
「なんでもだ、バカヤロウっ!」
フーリエは、追撃の手を止めない。
再び大きく踏み込むと、隙だらけの大ぶりな斬撃を仕掛けてくる。
頭でっかちは、動く左腕だけで対応した。
しかし引きずる右腕が邪魔をして、上手く動けない。
垂れ下がるドラゴンアームが、完全に頭でっかちのデッドウェイトとなっていた。
フーリエはこれを分かっていて、ワザと切断しなかったのだ。
頭でっかちの対応が、どうしても遅れてしまう。
彼女はフーリエの攻撃に耐えながら、今まで使わなかった魔法攻撃を仕掛ける。
小さな方の手をワチャワチャさせて、得意の呪を唱えた。
「このーっ、味塩っ」
そこで頭でっかちは驚愕する。
自分から発せられた味塩魔法が、相手に到達しないのだ。
いやゆっくりと、味塩の魔法効果が前進しているのが見えた。
フーリエの大河の中で魔法の効果が、“波紋”としてゆっくり広がるのが見えるのだ。
「なにこれーっ!?」
「だから言ったろ? 俺への攻撃は、全てディレイが掛かるとよおっ」
不敵に笑うフーリエ。
その頭上を泳いでいた六体の魔法陣魚が、勢い良く味塩の“波紋”をついばみ、
その効果を食い散らしていく。
「なんでーっ!?」
「なんでなんで、うるせえんだよっ。赤いのおっ!」
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一方、赤い聖母像は……
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