361 赤い巨人と赤い頭でっかちが、スケルトンをかき分け、今殺し合うためにじり寄る。
赤き巨人が巨大スケルトンを破壊するたびに、恐炎妖精の騎兵部隊が沸き上がる。
部隊は上空を旋回し、フーリエ・ミノンへ腹の底から叫んだ。
我が主、フーリエ・ミノンに栄光あれと――
戦場のフーリエは余り表情を崩さないが、飛び切りの称賛を浴びて最高の気分だった。
戦場に、満面の笑みは似合わない。
この場では引き締まった顔が、返り血に良く映えて、場も盛り上がるのだ。
フーリエが戦場にて、幾度も「遅れて登場」を繰り返して得た、最適解である。
フーリエは思う。
こんなハレの“戦場”はいつぶりだったかと。
このかた、数千年は無かったはずだ。
「ふんっ、たまらねえなあっ!」
ロッソが感じた高揚感を、主であるフーリエもまた強く感じるのだった。
フーリエは、とっくに下がっている眷族たちへ、あえてのたまう。
「良くやった、お前たちは下がれっ!
後は、このフーリエ・ミノンに任せろっ!
俺の戦場に近づくと、火傷じゃ済まないからなあっ!」
いささか芝居がかってはいるが、主の言葉で騎兵たちは更に盛り上がる。
ここだけを見れば、フーリエは大変に眷族思いのようである。
しかし実際のところ騎兵部隊の苦戦を見たとき、フーリエは三割死亡するまで、黙って眺めていたのだ。
そこには眷族を思う気持ちなどカケラもなく、ただ己の登場のため、機が熟すのを待つ男だけがいた。
そこは騎兵たちも分かっている。
それを踏まえて、騎兵たちは盛り上がるのだ。
過去フーリエ・ミノンは、山脈ドラゴンから得た能力を使い、ダークエルフを辞めた。
そして彼は、当時引き連れていた部下たちへ、己の一部を取り憑かせていく。
丁度シルミスがイースの眼球へ、己の一部を住み着かせたようにである。
それにより彼の部下たちはダークエルフから、恐炎妖精へと種族変化をおこし、
文字通り「彼の一部」となったのだ。
それを「眷族」と呼べば聞こえは良いだろう。
しかし実際は何のことはない、ダークエルフ国民の更なる「私物化」だ。
眷族たちは彼の一部となり、飼いならされた獣人並みに、精神的束縛を植え付けられていた。
そんな眷族たちにとって、最後まで兵を使い切らず、死亡を三割にとどめて現れるフーリエなどは、むしろ慈悲深いとまで言えるだろう。
だから盛り上がる。
歓声を上げるために、残された七割の騎兵は熱狂する。
騎兵たちは拳を振り上げ、あらん限りの声で主を称えた。
フーリエ・ミノン様、万歳っ!
赤い巨人との戦闘が激しさを増す中で、頭でっかちは仲間たちをかき分けて、前へ出ようとした。
「どいて、どいてー」
しかし興奮する巨大スケルトンたちは、なかなか前を譲ろうとはしない。
頭でっかちの見た限りでは戦闘が始まって以来、すでに半数近くのスケルトンが破壊されていた。
巨大アンデッドたちは本能の赴くまま、最期の一体まで戦うのを止めようとはしないだろう。
頭でっかちは強く思う。
もうこれ以上、仲間を失いたくないと。
彼女は目の前で破壊されていく仲間を見て、恐怖を覚えた。
無いはずの心臓が、早鐘を打つ。
頭でっかちは、デジャブを感じていた。
どこかで感じた恐怖だ。
自分はただ見ているだけで、次々と仲間たちが死んでいく。
無力な自分は、粗末なベッドに横たわるだけで何もできず、悲しみに暮れるばかりだった。
死んだ仲間がベッドから引きずり落とされて、石の床に頭を打ち、鈍い音をたてる。
衰弱して動けない自分は、ただ怯えて、その音を聞き続けるしか出来なかった。
どこでその音を、聞いていたのだろうか?
今の頭でっかちには、分からない。
しかしその時と違うのは、今の彼女にはちゃんと動く手足があるし、仲間を守るだけの力があるということ。
今は悲しむだけの、自分では無いということ。
頭でっかちは、こみ上げる狂おしい思いを声にだした。
「どけーっ!」
頭でっかちは叫び声をあげ、ドラゴンシールドの牙にスケルトンを引っ掛けて、次々と左右へ放り投げていった。
放り投げつつ、お尻で前へ前へとにじっていく。
グイグイにじるっ。
正面から、フーリエも頭でっかちの仲間を屠りながら、近づいてきた。
「こらああっ、後ろに隠れてんじゃねえぞ、赤いのおっ!」
「ころすーっ!」
赤い巨人と赤い頭でっかちが、スケルトンをかき分け、今殺し合うためにじり寄る。
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