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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第6章 血糊の沼と炎の海
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360 「まめ、たねだぞ。うれしくない?」 「うーれーしーいーっ!」 「なら、いいだろ?」 「やーさーしーくっ、しーてーっ!」


――おきて豆福……おきて……


どこかで、豆福を呼ぶ声がする。


――お願い豆福っ……


お願いと言われても、豆福はとっても眠いのだ。

まったく後にして欲しい。


しかし豆福を呼ぶ声はやまず、幼女はイライラしてしまう。

豆福の両脇で眠る、朱儀とチヒロラなどは、眠りが深くピクリとも動かない。


豆福もそれにならって声を無視し、夢の中へと強引に戻っていった。

そんな中、川の字になって眠る両端の二人が、ムクリと起きる。


霧乃と夕凪だ。

二人は眠い目をこすりつつ、下の子たちを挟んでジャンケンを始めた。


(……うーなぎ~)

(あ~……いくぞ~)


(( じゃんけん、ぽん…… ))

(( あいこで、ぽん…… ))

(( ぽん、ぽん、ぽん…… ))


(……あ)

(やったぜっ)


ジャンケンは、楽市から教えてもらったヒノモト由来の、最終意思決定システムである。

何かあったとき、これがあると直ぐにカタがつく。


勝者はフフンと笑い、ごろりと寝ころんだ。

隣で爆睡する朱儀の髪へ、顔をこすりつけて再び眠りにつく。


敗者は己の出したグーを、恨めしそうに見つめた。


(はー、めんどくさー)





「豆福ごめん。お願いだから、ちょっとだけ起きて。

すぐに終わるからさっ」


楽市が自分のお腹をさすり、何度も声をかけるが、豆福はなにも返事をしてくれない。


どうしようかとホトホト困っていると、お腹から青白い狐火がスポンと飛び出てきた。

狐火はくるりと回って、夕凪の姿となる。


べっちょり。


着地した瞬間、足が血糊へくるぶしまで埋まり、夕凪は顔をしかめてしまう。


「くさい~、きもちわるい~」


夕凪は目も開けず、フラフラとしていたが、両手にしっかりと豆福を抱いていた。


「あっ夕凪。連れてきてくれて、ありがとうっ」

「うん……らくーち、ねむい~」

「うんうん真夜中だもん、そうだよね、ごめんっ」


夕凪は、楽市の安堵の声を聞きながら、豆福を逆さまにして血の沼へ突っ込んだ。


べちょっ


デコ辺りまで浸かった豆福が、いきなりの仕打ちに暴れ始める。


「まめ、いいから、森よんで~。うーなぎねむい~」

「ぶあああ!?!?」


あばれる豆福と、抑え込む夕凪。

しばらくそうしていたが、豆福が森を呼んで事を済ませると、さっさと帰り支度をはじめた。


「まめ、じゃあ丸くなって。かえるぞ」

「もーっ! うーなは、もーっ!」


「まめ、たねだぞ。うれしくない?」

「うーれーしーいーっ!」


「なら、いいだろ?」

「やーさーしーくっ、しーてーっ!」


「わかった、こんどな」

「もー、まめ、おこってる、のーっ!」


ぷりぷり怒る豆福と、雑になだめる夕凪。

二人はケンカしながら火の玉となり、しばらく周りを飛び交った後、再び楽市の中へ戻っていった。


楽市は微笑み、自分の腹を撫でる。


「ありがと、夕凪、豆福……」


撫でながら血糊の沼に広げられた、大量の死体を見る。

死体は直下から入り込む、黒と金の菌糸によって体内を侵され、充分に黒ずんで発芽し始めた。


腰の辺りが膨らみ大きな(こぶ)となっていく。

エルダーリッチのシノが、瘤の成長を見守る楽市のそばへ立つ。


「第三便。これが今回最後となります。

ラク殿、復活者を安定させる瘴気を出した後は、出発の準備をしてください。

後の事は我々がやっておきましょう」


「ありがとうございます、シノさんっ」



    *



「こい、スケルトンどもっ!」


がしゃ髑髏(どくろ)の集団が、騎兵などそっちのけで、全方位からフーリエ・ミノンへ襲い掛かる。


赤い巨人となった恐炎のフーリエは、それらを相手に、暴れに暴れまくった。

正面から襲い掛かるスケルトンの顎に、強烈な一撃を加える。


フーリエの指にはドラゴン由来のかぎ爪があり、それを斜め上から振り下ろされたスケルトンは、顎と胸骨を削りとられて膝をつく。


その一体を、押しのけるようにして突っ込んだスケルトンに、フーリエはのど輪を決め、そのまま脛骨をねじり切った。


後ろから襲ってくるスケルトンには、膝に前蹴りを食らわせ破壊し、顎へかぎ爪を引っ掛けて、前方へぶん投げる。


投げた手にはスケルトンの下顎が残こり、顎を残して放物線を描く巨躯が、スケルトンたちの頭上へ落っこちていった。


フーリエは前後左右、次々と襲いかかるがしゃ髑髏を、一体一体確実に破壊していく。


非常に強固ながしゃたちを、いとも容易く破壊するパワーとスピードには、驚嘆すべきものがあった。


頭でっかちは、後方からドラゴンシールドで背伸びをしながら、フーリエを食い入るように見つめる。


仲間のがしゃは気にも留めないが、頭でっかちは不思議がった。


仲間たちは速度上昇のダンスで、かなりスピードが上がっているのだ。

幾ら強いと言っても、それら仲間たちに全方位から同時攻撃されて、なぜ無事でいられるのか?


頭でっかちには、それが分からない。


「なんでー!?!?」


後方で首をかしげる頭でっかちを、フーリエは戦いながらしっかりと目の端に捉えていた。


「ふん、赤いのは気付いたか……

だが気付いたからといって、お前に何ができる?」


フーリエは牙をむき、がしゃ髑髏を破壊しながら、じりじりと頭でっかちへ近づいていく――



挿絵(By みてみん)

https://36972.mitemin.net/i572640/




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