360 「まめ、たねだぞ。うれしくない?」 「うーれーしーいーっ!」 「なら、いいだろ?」 「やーさーしーくっ、しーてーっ!」
――おきて豆福……おきて……
どこかで、豆福を呼ぶ声がする。
――お願い豆福っ……
お願いと言われても、豆福はとっても眠いのだ。
まったく後にして欲しい。
しかし豆福を呼ぶ声はやまず、幼女はイライラしてしまう。
豆福の両脇で眠る、朱儀とチヒロラなどは、眠りが深くピクリとも動かない。
豆福もそれにならって声を無視し、夢の中へと強引に戻っていった。
そんな中、川の字になって眠る両端の二人が、ムクリと起きる。
霧乃と夕凪だ。
二人は眠い目をこすりつつ、下の子たちを挟んでジャンケンを始めた。
(……うーなぎ~)
(あ~……いくぞ~)
(( じゃんけん、ぽん…… ))
(( あいこで、ぽん…… ))
(( ぽん、ぽん、ぽん…… ))
(……あ)
(やったぜっ)
ジャンケンは、楽市から教えてもらったヒノモト由来の、最終意思決定システムである。
何かあったとき、これがあると直ぐにカタがつく。
勝者はフフンと笑い、ごろりと寝ころんだ。
隣で爆睡する朱儀の髪へ、顔をこすりつけて再び眠りにつく。
敗者は己の出したグーを、恨めしそうに見つめた。
(はー、めんどくさー)
「豆福ごめん。お願いだから、ちょっとだけ起きて。
すぐに終わるからさっ」
楽市が自分のお腹をさすり、何度も声をかけるが、豆福はなにも返事をしてくれない。
どうしようかとホトホト困っていると、お腹から青白い狐火がスポンと飛び出てきた。
狐火はくるりと回って、夕凪の姿となる。
べっちょり。
着地した瞬間、足が血糊へくるぶしまで埋まり、夕凪は顔をしかめてしまう。
「くさい~、きもちわるい~」
夕凪は目も開けず、フラフラとしていたが、両手にしっかりと豆福を抱いていた。
「あっ夕凪。連れてきてくれて、ありがとうっ」
「うん……らくーち、ねむい~」
「うんうん真夜中だもん、そうだよね、ごめんっ」
夕凪は、楽市の安堵の声を聞きながら、豆福を逆さまにして血の沼へ突っ込んだ。
べちょっ
デコ辺りまで浸かった豆福が、いきなりの仕打ちに暴れ始める。
「まめ、いいから、森よんで~。うーなぎねむい~」
「ぶあああ!?!?」
あばれる豆福と、抑え込む夕凪。
しばらくそうしていたが、豆福が森を呼んで事を済ませると、さっさと帰り支度をはじめた。
「まめ、じゃあ丸くなって。かえるぞ」
「もーっ! うーなは、もーっ!」
「まめ、たねだぞ。うれしくない?」
「うーれーしーいーっ!」
「なら、いいだろ?」
「やーさーしーくっ、しーてーっ!」
「わかった、こんどな」
「もー、まめ、おこってる、のーっ!」
ぷりぷり怒る豆福と、雑になだめる夕凪。
二人はケンカしながら火の玉となり、しばらく周りを飛び交った後、再び楽市の中へ戻っていった。
楽市は微笑み、自分の腹を撫でる。
「ありがと、夕凪、豆福……」
撫でながら血糊の沼に広げられた、大量の死体を見る。
死体は直下から入り込む、黒と金の菌糸によって体内を侵され、充分に黒ずんで発芽し始めた。
腰の辺りが膨らみ大きな瘤となっていく。
エルダーリッチのシノが、瘤の成長を見守る楽市のそばへ立つ。
「第三便。これが今回最後となります。
ラク殿、復活者を安定させる瘴気を出した後は、出発の準備をしてください。
後の事は我々がやっておきましょう」
「ありがとうございます、シノさんっ」
*
「こい、スケルトンどもっ!」
がしゃ髑髏の集団が、騎兵などそっちのけで、全方位からフーリエ・ミノンへ襲い掛かる。
赤い巨人となった恐炎のフーリエは、それらを相手に、暴れに暴れまくった。
正面から襲い掛かるスケルトンの顎に、強烈な一撃を加える。
フーリエの指にはドラゴン由来のかぎ爪があり、それを斜め上から振り下ろされたスケルトンは、顎と胸骨を削りとられて膝をつく。
その一体を、押しのけるようにして突っ込んだスケルトンに、フーリエはのど輪を決め、そのまま脛骨をねじり切った。
後ろから襲ってくるスケルトンには、膝に前蹴りを食らわせ破壊し、顎へかぎ爪を引っ掛けて、前方へぶん投げる。
投げた手にはスケルトンの下顎が残こり、顎を残して放物線を描く巨躯が、スケルトンたちの頭上へ落っこちていった。
フーリエは前後左右、次々と襲いかかるがしゃ髑髏を、一体一体確実に破壊していく。
非常に強固ながしゃたちを、いとも容易く破壊するパワーとスピードには、驚嘆すべきものがあった。
頭でっかちは、後方からドラゴンシールドで背伸びをしながら、フーリエを食い入るように見つめる。
仲間のがしゃは気にも留めないが、頭でっかちは不思議がった。
仲間たちは速度上昇のダンスで、かなりスピードが上がっているのだ。
幾ら強いと言っても、それら仲間たちに全方位から同時攻撃されて、なぜ無事でいられるのか?
頭でっかちには、それが分からない。
「なんでー!?!?」
後方で首をかしげる頭でっかちを、フーリエは戦いながらしっかりと目の端に捉えていた。
「ふん、赤いのは気付いたか……
だが気付いたからといって、お前に何ができる?」
フーリエは牙をむき、がしゃ髑髏を破壊しながら、じりじりと頭でっかちへ近づいていく――
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