359 こい、スケルトンどもっ! テメえら、みんなバラバラにして、溶岩海溝に沈めてやるよっ!
頭でっかちの足元で、紅いミミミが胸から結晶を生やし、ぐったりとしている。
先ほどまで痙攣を起こしていたが、今はもう動かない。
肌を覆う紅いウロコが、周りの炎を照り返し揺らめくばかりだ。
頭でっかちは満足していた。
胸元以外はキズ一つ無く、手に入れることができたのだ。
頭でっかちがホクホクして、ミミミへ手を伸ばしたとき、三尺玉が顕現する。
上空にド派手な火花をまき散らし、その中心で叫ぶ赤い肌の男がいた。
素肌に炎をまとい、ほぼ半裸で最小限の紅鎧しか身につけていない。
上背があり、均整のとれた肉体。
両耳が異様に伸びて、角のように見える。
長く伸びたストロベリーブロンドの髪が、己から湧き上がる炎で激しく舞っていた。
頭でっかちは、ミミミを拾うことも忘れて男を凝視する。
他のがしゃ髑髏たちも、空の男を見つめていた。
そこには、この場の誰よりも“命の全て”がそろっていた。
命が世界に、祝福されているという勘違い。
それ以外のものは取るに足らぬと考え、他のものは、命のためにあるという傲慢さ。
命を至上としながらも、誰よりも命を軽んじる軽薄さ。
命の煩わしさ、騒がしさ、瑞々しさ、朗らかさ、たおやかさ、美しさ。
アンデッドが心底毛嫌いするものを、全て兼ね備えて、無駄にギラギラしている。
そんな奴が、がしゃたちの前に現れたのだ。
アンデッドはウンザリすることなく、殺意を沸き立たせて、一体また一体と男の元へ駆け出していく。
頭でっかちもまた、ミミミをほったらかしにして、思い切り飛び跳ねていた。
ヴァーミリアが頭でっかちの去った後へ、急いで近づいていく。
フレイムヘルムから飛び下り、炎をかき分けながら、ルージェを抱き起こす。
「ルージェしっかりっ!」
しかしルージェは、既に事切れていた。
その死に顔は、苦悶に歪んでいる。
「そんな……こんな事って……ああ」
ヴァーミリアは、ラミア化したルージェを引きずり、ロッソの元へ歩いた。
「ロッソ姉さま、ルージェ姉さまが死…………あっ」
ヴァーミリアはその後の言葉がでず、ルージェを抱きながら崩れ落ちた。
フレイムヘルムに抱かせていたロッソも、もう息をしていなかったのだ。
*
フーリエ・ミノンは、下方に集まってくるアンデッドを眺めながら、離れた場でうずくまるヴァーミリアをチラリと見る。
フーリエの山吹色の瞳は、炎の中でうなだれるヴァーミリアをしっかりと捉えていた。
「ふ~ん、ロッソの地下宮の雫は効かぬか……
ルージェは、妙な魔法で即死……
ルージェの高度な魔法障壁を、すんなりと破るとはな。
奴の使う魔法は、既存の魔法大系とは違うのか?
チッ、ヴァーミリアも体を張れと言いたいが、あいつは支援魔法職だしな……」
フーリエは、ロッソたちがやられた事など気にもしていない。
むしろヴァーミリアも命をとして、相手の手の内を引き出せと、不満を口にしていた。
元ダークエルフであるフーリエにとって、部下の命は軽い。
代わりなど、時間をかけてまた増やせばいいのだ。
フーリエは、飛び跳ねる赤いアンデッドを見つめる。
「あの赤いの、なかなか厄介だな……接近戦はやめておくか?
いやしかし……
せっかく来た主が、遠距離でチマチマやっていたら盛り上がるのか?
それに……」
フーリエは脳裏に黒い羽衣を思い浮かべ、ニヤリとする。
「ライカが見ている……そうなると……
この森の火災は、全てフレイムヘルムの炎らしいな。
ならば丁度良い。よしっ!」
フーリエは一人うなずくと、右腕を掲げて呪を唱える。
すると腕の周りに、幾つもの小さな赤い魔法陣が飛び交い始めた。
「来たれ我が領域っ。
フーリエの大河っ!」
フーリエが力強く叫ぶと、赤く燃え盛る炎の海から、紅い霧が立ち込め始める。
霧はかなりの高度まで漂い、その場にいたがしゃたちを、すっぽり覆いつくしてしまった。
霧は極薄く広がり、視界を遮るほどのモノではない。
フーリエは腕にまとわり付かせた魔法陣を、軽く振ってリリースする。
すると魔法陣の輪郭線が形を変えて、大きな魚影を形作った。
見た目は輪郭線だけで構成されており、針金細工で作った魚のようだ。
体長は五メートル。数は六匹。
それがあたかも生きているかのように、紅い霧の中を泳ぎ始める。
フーリエはそれを満足気に見やると、取り出した革ひもで己の髪をくくり、ポニーテールとした。
「さて、舞台は整った。いくぞアンデッドどもっ!
高位魔法、恐炎真妖精っ!」
フーリエが叫ぶと同時に、彼の体が見る間に巨大化していった。
姿形はそのままに、全長二十メートル超えとなった赤い巨人は、地上へ豪快に着地する。
ドッシャアアアアアアアアッ
「こい、スケルトンどもっ!
テメえら、みんなバラバラにして、溶岩海溝に沈めてやるよっ!」
凄むフーリエの周りを、六匹の魔法陣魚が泳ぎ回った。
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