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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第6章 血糊の沼と炎の海
353/683

353 全軍、恐炎の魂を詠唱せよっ! これより近接戦闘に入るっ!


獣人たちの使うドルイド魔法は、彼らが森の民なだけあって、獣を使役するものがある。

魅惑(チャーム)などの魔法をかけて、手懐けるのだ。


その際に魔法の効果を上げる、補助魔法を使うことが多かった。

それが、ドルイド舞踊(ダンス)である。


ドルイドダンスには、

チャーム、鎮静、高揚などの精神系の他に、素早さや、力強さを底上げするものもあった。


主軸魔法の魔力消費が抑えられて、便利な代物である。

しかし極端に能力が上がるわけではなく、せいぜいが三割増していど。


ただこれは、一般の獣人が使う話でのこと。


このドルイドダンスを、北の森の化物が使うと、全くもって別物となった。

森のダンスを、森を破壊する巨大アンデッドが踊るのだ。


使う魔力量も性質も、根底から違っていた。

日常生活で使う慎ましやかな魔法の常識が、がしゃ髑髏のスペックで捻じ曲げられていく。


がしゃ髑髏たちは、自身から溢れる大量の瘴気を魔力とし、燃費など考えずにドルイドダンスを行う。


するとドップリと瘴気漬けとなったドルイドダンスは、その効果の上限がぶっ壊れてしまった。

効果が三割増しどころか、踊れば踊るほど効果が上がるのだ。


頭でっかちが仲間たちに、素早さ上昇の魔法をかけ回ったあと、がしゃ同士が踊り合い、互いの効果を高め合う。


同様に力が上昇する魔法をかけた後、皆で踊れば、効果が上がり続けるのだ。

世の常識から考えれば、まったくデタラメもいい所である。


頭でっかちは、そんなデタラメな魔法(ドルイド)を使い続けた。

彼女は吹き飛ばした“命”をみて、満足気にうなずく。


「うまいー」




頭でっかちが仲間を集めて訓練するさい、体術を教えるのは初めから諦めていた。

技を一から教えるなど、時間がかかり過ぎるからだ。


そこで思い付いたのが、ダンスである。

頭でっかちは、それが良いと思った。


この知識がどこから湧いてくるのか分からないが、そんなことは気にしない。


とにかくスピードとパワーを上げる。

それを目指して仲間たちへ、徹底的にダンスを教えたのだ。


初めはろくにステップも踏めず、暴れているようにしか見えないアンデッドたち。

しかし不眠不休のアンデッドが踊り続けた結果、見事にダンスを習得したのだった。


「うまい、うまいー」


頭でっかちは敵に当たったことが嬉しくて、当てた仲間に抱きつき褒めちぎる。

するとそこへ、赤い珠がまとめて落っこちてきた。


ポーン、ポーン、ポポポポーンッ


「あ」


逃げ遅れた頭でっかちが、爆炎で吹き飛ばされながら叫ぶ。


「あっちも、うまいーっ」



    *



二十一体いた赤い大兜(フレイムヘルム)部隊が、六体になってしまった。


ロッソは黙って、地上の赤いスケルトンを睨み続ける。

こめかみには血管が浮き上がり、奥歯をギリギリときしませていた。


無様にやられた怒りが、全身を駆け巡る。


しかしロッソは、なぜか笑っていた。

山吹色の目を見開いたまま、口の端が吊り上がっている。


しかしそれは笑顔というよりも、長年求めていた獲物を見つけた、狂獣の顔というべきかもしれない。

美しさと、凶悪さを兼ね備えた笑顔だ。


「やってくれたな……スケルトンっ」


ロッソは振り向かずに、ルージェとヴァーミリアへ指示を出す。


「ルージェ、ヴァーミリア、軍の指揮は任せる。

フーリエ様が見ているよ。撤退は許さないから……」


「何言っているの、ロッソっ!?」

「ロッソ姉さまは、どうするのさっ!?」


「……私はあの赤いのを、仕留める」


ロッソはそれだけを言い、騎乗するフレイムヘルムの高度を下げていった。


「ええっ、ちょっと待ってよロッソっ!?」

「ああーっ!? またロッソ姉さまの、悪い癖がでたっ!」


ルージェとヴァーミリアの叫びは、聞こえているだろうが、ロッソは止まらない。

ルージェはしかめっ面で頭をふると、声に魔力を込めて全軍へ檄を飛ばした。


「全軍、恐炎(フィアフレイム・)の魂(ソウル)を詠唱せよっ!

これより近接戦闘に入るっ!

ソウルの対瘴気効果は、20ミル(分)っ。


効果は、時間と共に減衰するぞっ。

各自こまめな、掛け直しを忘れるなっ!」








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