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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第6章 血糊の沼と炎の海
350/683

350 恥ずかしくて顔を覆いたくても、手が届かないから、ワチャワチャさせるしかない。


好きに生きろ。

あの方はそう言った。


戦場で主に捨てられた私たちに、“あしゆー”で治療をしてくれた。

私たちの体を、心配してくれた。

本気で私たちのために、怒ってくれた。


なぜなのだろう。

あの方は敵だったはずなのに、なぜ私たちに優しくして下さるのか。


好きに生きろ。

その言葉の意味を考えていると、なぜかハインフックへ帰る気になれなかった。


戻ろうとすると、ハインフックの病床で死んでいった、多くの仲間たちを思い浮かべてしまう。

何の手当ても受けられずに、死んでいった仲間たちだ。


彼らは、好きに生きられただろうか。

じくじくとそんな事を考えていたら、いつの間にか川を下り、ハインフックとは別の方角へ足が向いていた。


部下たちも、黙って付いて来てくれる。

小さな町にたどり着き、そこで暮らすようになった。


穏やかな日々の中で、私は今も考える。

好きに生きるって、何だろうと……


これでいいのかな……これで……



    *



まどろむ頭でっかちを、仲間がゆり動かす。

頭でっかちが目を覚ますと、仲間のがしゃ髑髏が彼女を覗き込んでいた。


あれ、ちょっとちがう?


頭でっかちは一瞬違和感を覚えて、仲間の顔が違うと思ってしまう。

何だかもっとこう……耳が生えていて、毛もフサフサだったような……


しかし意識がハッキリするに連れて、その違和感も薄れていく。

夢の中で何か考えていた気もするが、ちっとも思い出せない。


まあいい、どうせ大したことではないだろう。

頭でっかちは、お座りしたまま背伸びをする。


頭でっかちも白骨のがしゃ髑髏なので、伸ばす筋などは全く無い。

けれどこうやって背伸びをすると、骨がちゃんと元の位置に戻るような気がして、気持ちが良いのだ。


「んー」ポキポキ


彼女は通常の三倍はある大きな頭を傾けて、自分を起こしたがしゃ髑髏を見る。


「なになに」


見つめられたがしゃ髑髏は、黙って西の夜空を指さした。

他のがしゃ髑髏たちも、訓練の手を止めて西の空を見ている。


頭でっかちは両肩から生える、ドラゴンシールドを足代わりにして立ち上がった。

こうすると小柄な体が浮かんで、他のがしゃ髑髏より、ちょっとだけ視線が高くなるのだ。


良い天気だった。

星の瞬く空に、上限の月がかかっている。


その月の右ななめ下に、ポツリと赤い光が灯っていた。

それがゆっくりと夜空に広がって行き、大きな赤い輪を描いていく。


「あ」


頭でっかちには、見覚えがあった。

赤子の泣く草原で、一度それを見ている。

あの輪の中から色々なものが、出たり入ったりするのだ。


「わーっ」


まさかアイツが、会いに来てくれたのっ!?

頭でっかちはそう思い、小さいほうの手をワチャワチャさせてしまう。


彼女は草原で戦った、角つきがしゃ髑髏を思い浮かべて、無いはずの胸がドキドキした。

しかし――


「あーっ!!」


トキメク頭でっかちは大変なことに気づき、短い手足をピンと伸ばした。


「ふえー」


どうしようっ!

仲間のがしゃ髑髏の訓練に明け暮れて、自分はあんまり練習をしていない。


頭でっかちは、今度あう時までにもっと強くなって、一杯殴り合うつもりだったのだ。

自分の練習を怠ったことが、とっても恥ずかしくなってしまう。


「でもでも」


頭でっかちは、ちょっと考える。

仲間を強くしたことを、アイツはどう思ってくれるだろうかと。


ひょっとしたら、褒めてくれるだろうか?

もしも……もしも、良くやったねって褒めてくれたら……


「キャーっ」


頭でっかちは、短い手を更にワチャワチャさせた。

恥ずかしくて顔を覆いたくても、手が届かないから、ワチャワチャさせるしかない。


「あいたいー」


小さな骨の手をモミモミさせて、ジッと西の夜空を見つめる。

すると、おかしな事に気付いた。


赤い輪が、横並びに二つ、三つと増えていくのだ。

最終的に五つの赤い輪が、夜空に浮かび上がる。


〇〇〇〇〇


「あれれ?」








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