034 楽市、動揺する
「あああああああーっ」
気温の上昇と共に、少しずつ霧が晴れてきた。
楽市は想いを強くして、南下していたはずだが、予想以上に早くダークエルフたちへ出くわして、動揺を隠せない。
「うそでしょ!?」
「はーっ、きてるー!」
「いっぱい、いるぞっ、らくーち!」
かなり離れた山頂の岩陰で、楽市たちは騒いでいた。
霧乃と夕凪が楽市をせかす。
「どうした、らくーちっ、はやく!」
「あれ、だすんだっ、らくーち!」
あれとは、変化させた黒い尻尾のことである。
「ゔっ……ゔ~ん……」
楽市は、苦悶の表情を浮かべる。
「ゔぐっ、ぐぐぐっ……くふうっ」
「はやく、はやく!」
「はやく、やっつけろ!」
「ぐっ、無茶言わないでよ、出し方がわかんない!」
「「ええーーっ!」」
二人そろって、露骨に嫌な顔をした。
「ぐるるるるるるるっ」
三人の横で朱儀がストーンゴーレムに、向かって唸っている。
朱儀は受けた仕打ちを思い出し、そうとう腹を立てていた。
楽市は二人と言い合いをしながら、勝手に走り出しそうな朱儀のえり首を、むんずと掴んでいる。
松永は、そんな戦況をじっと見つめていた。
「さっきから尻尾に力を入れてるけど、全然変わんない!」
「「ええーーっ!」」
出し方が分からない。
力んでも尻尾の毛が膨らむばかりで、何の変化も起きなかった。
実は楽市も、尻尾をかなり当てにしていたので、相当焦っている。
「何でかなあ、怒りが足りないの?
あの時は、どうやって出したんだっけ?
ぐぐぐっ……くうーっ!」
「だして!」
「でるから、ほらっ、でるから!」
「だめだあ~っ」
情けない声を上げ、楽市が早口になる。
「あのねっ、だいだいあいつらを倒すだなんて、あたし一言もいってないよっ」
「「なんで!?」」
二人して、しかめっ面をしていた。
「何でって、あの数見てみなよっ、無茶でしょ!?
世の中には出来る事と出来ない事が、あんのっ!」
「「はあ~~~」」
露骨に溜め息をする霧乃と夕凪に、今度は楽市がしかめっ面をした。
楽市が考えていたのは、とにかく妖しの子を見付けたら連れて逃げる。
それだけだ。
二人が勝手に盛り上がって、楽市がダークエルフをやっつけると、勘違いしているのだった。
「らくーち、どーした!?」
「らくーち、だろー!」
「あんたたち、あたしのこと何だと思ってるの!?」
楽市はそんな期待に応えるほど、自惚れていない。
今の楽市に出来ることは、ただ待つだけだ。
悔しいが、妖しの子が叫ぶのを待つしかなっかた。
「霧乃、夕凪、いい? ここはじっと我慢なんだよ」
「「がーまーんー!?」」
霧乃と夕凪の、ユニゾン抗議が加熱していく。




