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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第5章 龍の神殿と針山の城
324/683

324 獣の顔を凝視する。


黒い獣が、金のイナシルへ向かって吠え続ける。

霧乃たちはそんな野獣の顔を、まじまじと見つめた。


(うーなぎ、あーぎ、顔、おぼえた?)

(まかせろ、おぼえたっ、はが、きいろっ!)

(あーぎも、ちゃんと、おぼえたよっ!)


三姉妹が汚い顔とか悪口を言っていると、いきなり黒妖石の長テーブルが縦に跳ねた。

同時に岩盤へ杭を打ち込むような、(とどろき)が聞こえる。


ガヅンッッ!


何事かと見れば、金のイナシルがテーブルを踏み砕き、前足を中心にして放射状のヒビ割れが走っていた。


テーブルに置かれていた自動筆記が、独りでに飛び降りて、部屋中を走りはじめる。


「ケンカダ、マツリダッ、ケンカダ、マツリダッ」


何だか言葉まで、喋っているではないか。

ただ一人、椅子に座っていた白いモヤが立ち上がり、「んー、喧嘩なら外でやれっ」と怒鳴りはじめた。


蹄の一踏みで、気をそがれた黒い獣のかわりに、金のイナシルが早口でまくし立てる。


「物事には得手不得手が、あるでしょうっ?

それをお互いに補い合って、初めてじっくりと腰をすえて、大きな出来事を成せるんですっ。


そんな中で君は、君だけの仕事をことさら強調して、周りを下卑し、己が一番だと威張るんですか!?


よくもまあ恥ずかし気もなく、そんなことができますねっ。


先ほど、報告があったでしょう?

ここから北へ五〇〇キリルメドル(㎞)の地点に、巨大なスケルトンが、一〇〇体近く集まる場が確認されたとっ。


そこでは赤いスケルトンを中心にして、何やら軍事的な訓練が行われていると。


その報を聞き、現在フーリエとライカが自身の領域へ戻り、眷族を引き連れてスケルトン討伐の準備を進めてくれています」


(ん? がしゃのこと、いった? 赤いっていった?)

(とーばつって、なんだ?)

(かにぽいのこと、いったの!?)


「てめえ、得手不得手だとっ?

それじゃ俺が、防御しかできないと言ってんのかっ」


「そうは言っていないでしょうっ。

ですが火力の面において、僕たちがあの二人に劣るのは、事実じゃないですかっ。

その間、僕たちが帝都を守るんですよ。


この様にそれぞれへ適した役目を選択し、きっちりこなしていく。

その中でどれが秀でているかなど、くだらない――」


「舐めてんのかっ。

お前それ、何千年前の基準で言ってるわけっ?


その気になれば、あんなスケルトン押しつぶして、砂地にしてやってもいいんだぜっ。

何体スケルトンが来ようが、関係ねえっ。

俺一人で、全部潰してやるっ!」


霧乃たちがこれを聞き、俄然腹を立て騒ぎ始めた。

二体の獣の言っていることは、よく分からない。


しかし黒い獣は最後に、スケルトンを全部潰すとハッキリ言っていた。


(こいつ、がしゃをぜんぶ、つぶすって、言ったかっ!?)

(言ったっ、いってたっ! はらたつーっ、やっちまおうっ!)

(あーぎもう、ころしちゃおっかなーっ!)


(くうう……それはだめっ。らくーちとの、やくそくっ。きりたちは、見てるだけっ)

(きいいっ、うーなぎは、怒ってるんだぞっ! なんだ、このやくそくーっ!)

(らくーちの、ばかーっ!)


いつの間にか楽市への悪口となっているが、これもがしゃ髑髏を思うからこそである。

友達を殺すと言われて、黙っていられる幼女たちではなかった。


だが楽市との約束は守りたい。

三姉妹は黒い獣の悪口と、楽市への悪口を交互に言いながら、どうにか怒りのガス抜きを行っていた。


一度帰って、また楽市と一緒にきたら、絶対ぶん殴るっ。


霧乃、夕凪、朱儀の三人は、そう自分に言い聞かせて、握りしめた拳を何とか下ろそうとする。


しかしその時、黒い獣の口から“北の魔女”を罵る言葉が溢れだす。

妖しの子供たちは目を剝き、獣の顔を凝視した――









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