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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第5章 龍の神殿と針山の城
315/683

315 鉄のカンオケと、ささやかな晩ご飯。


カラララン♪


古びた木の扉を開けると、上部に取り付けられたベルが軽い音をたてた。


「さあ、入って」


一つ目(サイクロプス)のアイが扉を手で押さえると、腕の下から霧乃たちがヒョコリと中をのぞく。

店の中は真っ暗だ。


「くらいね、あな?」

「あなだなっ」

「あなだー」


「ふふ……ちょっと待ってて」パチンッ


アイが指を鳴らすと指先に火の粉が舞い、うっすらと魔法のスペルが浮かび上がった。


すると天井や石壁に設えられたガラス細工が、ぼんやりと橙色に発光しはじめる。


扉から直ぐに、細長いL字型のカウンターが目に入った。

椅子の数は十席。テーブル席はない。

こじんまりとした店だ。


一人で切り盛りするには、このぐらいが丁度良いのかもしれない。

ガラス細工の照明が光を増すにつれて、細やかな物が見えてくる。


カウンターの向こうに棚があり、赤、黄緑、黄色と、様々な色のガラス瓶が並べられていた。


それらが照らされて輝き、良く磨かれた木製のカウンターへ色とりどりに映り込んでいる。


「みてみて、きれーっ!」


霧乃が早速ピカピカしたガラス瓶へ、尻尾をふりながら吸い寄せられていった。

夕凪と朱儀も、辺りを見回し興味しんしんだ。


「なんだこれ、きれーな、あなだなっ!」

「ぴかぴか、してるねっ」


「さあ、三人ともここへ座って」


アイは子供たちを持ち上げて、順番にカウンターの上へ座らせていく。


濡らした厚手の布をカウンターの裏から持ってくると、一人ずつ足を拭いてやった。

拭きながら尋ねる。


「ねえ……みんな裸足だけど、靴はどうしたの?」


「くつ? あれつくるの、めんどくさい」

「なー、つくれるけど、これがいい」

「あーぎ、つくれるよっ」


「作る?」


アイは返ってきた言葉がいまいち分からず、瞳を瞬かせた。

瞬く度に、瞳の中の星空がゆっくりと揺らめく。


霧乃はその瞳を、うっとりと見つめてしまう。


「らくーちも、いってた……そのうち、ほしくなるって。

そしたら、そのとき、つくれば、良いって」


「ラクーチ? さっきもその名前が出てたね。ひょっとしてお母さんかな?」


「ちがう、らくーちは、らくーち」

「へえ、ラクーチ、さん……ね……」


アイは霧乃の答えから、自分が微妙なことを聞いたかもしれないと察する。

この三人には、母親がいないのではないか?


幼子だけで素足のまま、夜道を歩いていたのだ。

おそらく人買いではないにしても、どこかの施設から逃げ出したのではないか?


“作る”という言い回しは良く分からないが、成長の早い幼子はすぐに足が大きくなるので、靴などいらぬと施設の方針かもしれない。


アイはそう考えた。

この地区の教会へ、この子たちの事を相談するにしても、明日の事となる。


「じゃあ、椅子に座って待ってて、今ご飯作るから」


「ごはん、きたっ、まってたっ!」

「やったぜっ!」

「ごはんーっ!」


アイはカウンターの下から、鈍い光を放つ鉄の塊を取りだし、カウンターへ並べていった。


大小様々な鉄の塊が、全部で九つ。

彼女は先の尖った鉄の杭をもち、慣れた手つきで、平たくて四角い鉄の上部を切り裂いていく。


キコキコキコキコキコ


霧乃たちは椅子の上に立ち、カウンターから乗り出して興味しんしんに眺めた。


「なにこれ、なにこれ」

「これが、ごはんか」

「かたそー」


「ふふふ……見たことないでしょ?

これは鉄のカンオケって言って、レッサーサイクロプスの特産品なの。


中に色々な食べ物が入っていて、こうして鉄のカンオケに入れておけば、魔法を使わなくても腐らずに、どこへだって持っていけるんだよ」


「なかに、ごはん、入ってるのっ!? きりに、みせてっ!」

「ちがう、うーなぎもみるっ! みせてっ!」

「あーぎ、もーっ!」


キコキコと音が鳴るアイの手元を、幼子たちが頭をくっつけ合い眺める。


一つ開け終わりペリリとめくると、中にはトロリとした油へ漬け込まれた小魚が入っていた。


めくった途端、爽やかなハーブの効いた匂いが漂い、霧乃たちのお腹を刺激する。


「あーっ、すっごい、良いにおいっ!」

「これ、ぜったい、うーなぎ、好きなやつっ!」

「あーぎしってるっ、これおさかな、でしょっ!」


「ほらちょっと待って、まだ駄目。このままじゃ冷たいから、温めてあげる」


アイはそう言ってあと二つ同じ“カンオケ”を開けると、カウンター端にある石のプレートへ並べていく。


アイが口腔で(しゅ)を唱えると、プレートの表面から小さな小さな赤いトカゲが沢山あらわれた。


トカゲたちは、プレートに載せられたカンオケへひっつく。


赤いトカゲがじんわりと熱を放ち、鉄のカンオケを温め始めた。

アイは更に、円筒形のカンオケを開ける。


中にはトロミの付いた赤い液体が入っており、ゴロリとした具が頭を覗かせていた。

それも三つ開けると、熱くなったプレートの上へ載せていく。


「おーっ!」

「なんだ、これっ!?」

「あかいの、すきーっ!」


霧乃と夕凪の白い尻尾が、わっさわっさと揺れている。


霧乃たちはカウンターへ手を乗せながら、椅子つたいに端へ移動し、プレートに載せられたカンオケをガン見した。


アイは温まる間に別のカンオケを開けて、中から薄くて小さい固焼きのパンを取り出し、木皿へと並べていく。


「ねえ、もういいっ?」

「これもう、いけるだろっ!」

「あーぎね、あかが、すきなんだよっ!」


「へえ、アーギちゃんは赤い色が好きなんだ。

もうちょっと待って、カンオケの端からプクプク泡が出るから、そうしたら私に教えて」


「はーい」

「きりに、まかせてっ!」

「ちがう、うーなぎにも、まかせろっ!」


こうして、ささやかな晩ご飯が始まる――






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