030 楽市、もどる~とにかく探し出す~
「うーん……奥へ逃げようかな」
ナランシアの話だと、北へ行くほど瘴気が強いという。
楽市にはそこら辺が、ちっとも感じられないのでピンと来ないのだが。
「元の場所へ戻っちゃえば、ダークエルフは追って来れないかな?」
――そうすれば助かるだろう、しかし
「でもそれじゃ、他の妖しの子はどうなるの?」
巨大なストーンゴーレムがまだ見ぬ「妖しの子」を、轢き殺そうとするのを想像して身震いする。
「それだけは、絶対に嫌っ」
この広い地で霧乃と夕凪、そして鬼の少女だけなど有り得ない。
きっともっと、生まれているはずだ。
「……霧乃、夕凪ちょっときて」
楽市は二人を手招きする。
「なんだー」
「いま、いいとこだぞ」
「ねえ、この子を見付けたときのように、他の子も感じられる?」
「なにー」
「いるのかー」
「居る」
力強く言われた霧乃と夕凪は、顔を見合わせる。
それから自分のおでこを、両手のグーでグリグリやり始めた。
霧乃と夕凪は、楽市には分からない何かを感じ取っている。
それは他の妖し子と強く繋がる何かだ。
霧乃が、困ったような顔をする。
「うーん……うーなぎ?」
霧乃に問いかけられた夕凪は、頭を振った。
暫く頑張ったが、二人は困り顔で楽市を見る。
「「わかんない……」」
「そっか、ありがとね。よく頑張った」
楽市は、二人を撫でながら考える。
二人は恐らく、対象の妖しの子が激しく感情を揺さぶられなければ、キャッチできないのだろう。
――つまりそれは妖しの子が、ダークエルフに襲われるとき
それで間に合うのか?
鬼の少女を助けられたのは少女が強く、楽市たちが駆け付けるまで持ちこたえた
からだ。
そんな幸運が、何度も続くのだろうか?
「くっ……」
「らくーち、だいじょーぶかー?」
「うーなぎ、もっと、がんばるっ」
霧乃と夕凪が楽市の表情を見て、もう一度おでこをグリグリやり始めた。
楽市は、慌てて二人を抱き締める。
「あーごめん大丈夫っ。二人はすっごい頑張ったよ。
ありがとうね、霧乃、夕凪」
楽市の役に立ちたいという、霧乃と夕凪の思いが伝わってきて、弱気に成りかけ
た楽市の心を鼓舞する。
――とにかく探し出す
新しい藤見の森の仲間。
新しい楽市の妹、弟たち。
楽市の意志はもう揺るがない。
しかし良い手が思い付かない。
楽市はその晩、眠れずに過ごす事となった。




