027 ダークエルフ~15分だけ、ムニャムニャ~
リールーが身を震わせる。
「気味が悪いわ。
あらゆる生物が死滅する瘴気を放ちながら、あの森は何知らぬ顔をしている。
報告書の記述を見た?
どの報告書も、そこにはまるで穏やかな森が広がっているわ。
千里眼はそう感じて見ていたのよ。そして狂った」
サンフィルドが、渋い顔をする。
「かりそめの命だろ?
だからこそ大陸中のアンデッドが、惹かれてそこに集まって来る。
今は瘴気で死ぬより、集まって来たアンデッドに殺される者の方が多いからな」
三人のいる執務室は、城の上層部に位置する。
サンフィルドは窓辺に向かい、そこから城下を眺めた。
眼下に広がる城下町は、一見普段と変わらない。
しかしよく見れば、陽の光を嫌い至る所の影に、アンデッドが潜む。
夜を、待っているのだ。
冬を越す甲虫のように、密集してじっとしている。
奴らは、夜になると動き出すタイプだ。
夜になれば、北の森を目指す。
デイウォーカータイプは、昼だろうが構わず進んでいた。
基本、瘴気に夢中になっているが、ときどき思い出したかのように、集団で襲い掛かって来る。
都に潜むアンデッドを一掃しても、幾日かすると何処からか入り込み、ああして昼間じっとしている姿に出くわすのだ。
サンフィルドが眺めている間に、巡回中のストーンゴーレムが十体やって来る。
ゴーレムは、影に密集するアンデッドを駆除し始めた。
岩の拳を、高速で叩き込む。
パン生地をこねるように、密集したアンデッドを一まとめの肉塊にしていく。
サンフィルドは、顔をしかめて窓から離れた。
何とも、食事の前に見るものではない。
しかし、ああすることで何とかこのハインフックに、一個連隊が駐留できていた。
以前の住民は、獣人種を除きほとんど南へ避難させてある。
サンフィルドたちは、ここに駐留して三ヶ月経つ。
全くもって、うんざりしていた。
「イース、派手にやろうぜー。さっさと、データを集めて帰ろうぜー」
苛立つサンフィルドの声を、イースは微睡みながら聞く。
イースは良く聞き取れない、ゴニョゴニョした声で返した。
「データってのは……。長期的に……コツコツ集め……ない……と……ムニャムニャ」
リールーが、イースの膝に手を乗せる。
「いいじゃない、ここに来て三ヶ月だし。
そろそろ部隊のストレスを、解消させてあげないと」
リールーの賛同を得て、サンフィルドがニンマリする。
「よーし……分かった派手にやるかあ……。
その前に15分だけ……ムニャムニャ」
イースはソファーにもたれたまま、静かな寝息を立て始めた。




