021楽市、沢にいく~たたりですか?~
「たたり……ですか?」
「そう……こいつは濃ければ、相手をあっという間に衰弱死させる。
祟りへの耐性は個人差があるからね。そこはあんたが……」
そこで楽市は、ナランシアの微かに震える手を見て言いよどむ。
ナランシアは、不自然に切られた言葉の先を待っていた。
「ううん……何でもない」
楽市はかぶりを振る。
――あんたが束ねているなら、仲間のことをちゃんと考えて行動しろ
そう言いかけて楽市はやめた。
ナランシアを責めて、解決する話じゃない。
それは、取り憑いて知ったこと。
全てはあの銀髪で褐色の……
「ん?」
楽市はナランシアを見る。
「ナランシア、あんたたちの主はひょっとしてダークエルフとか、言ったりする?」
ナランシアは少し戸惑う。
極々当たり前のことを、改めて聞かれたからだ。
この大陸で、それを知らぬ者などいない。
「は……はあ、そうですが」
「ふーん……」
聞いておいて、楽市は素っ気なく返す。
しかし内心、興奮を抑えるのに必死だった。
興奮しつつ表では平静さを保ち、尻尾の毛繕いを続ける。
敵に、まぬけな姿は見せられないのだ。
――ダークエルフって、ゲームの中だけじゃなかったんだ!
楽市はヒノモトの白狐であり、そこから出た事がない。
なので、ヒノモト以外の妖しの知識は、全て書籍やゲームからである。
――本当にいたんだ、エルフって……
当の妖しである楽市が、そんなことを思ってしまう。
さて有名な西洋の妖しに、初めて出会った感想といえば、「吐き気がするほど最悪」であった。
「ねえナランシア、あの動く大きな岩山のあれって……」
「はあ、ストーンゴーレムのことですか……えっあの、ラクイチ様?」
ナランシアは、自分が何かマズイことを言ったのかと思い、慌ててしまう。
楽市が目を見開き、キュッと口を結んだからだ。
頬が少し紅潮している。
「……ナランシア、ひょとしてドラゴンとかいる?
羽が生えて、火とか吐くやつ」
「はあ……火も吐きますし、フロストドラゴンなどもおりますね。
あとは毒など……あっあの、ラクイチ様!?」
楽市がギュッと目を瞑り、下唇を強く噛んでいた。
顔面の力みが凄い。首から頬にかけて、まかっかだ。
ナランシアはどうして良いか分からず、思わず霧乃と夕凪を見る。
すると、牙をむき睨み返された。
「いーっ」
「ぐるるるるっ」
しばらくして、楽市が口を開く。
「あのさ……色々聞いていいかな?」
「わ……私で宜しければ……」
楽市は、最初の懸念などすっかり忘れて、ナランシアへ色々と聞き始めるのだった。




