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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
199/683

199 楽市、豆福のお尻をリズミカルに叩く。


時間が経つのは早いもので、朱儀が昼ごろからトライし始めて、もう日暮れ間近となっていた。


こうなると霧が薄くなり視界が開けたといっても、すっかり暗くて手元が心もとない。

 

すると幽鬼たちが、巨人楽市の頭上で半透明の身体を震わせて、淡く光りはじめた。

楽市の周りを、照らし出してくれる。


幽鬼たちは楽市を中心にして、五枚の花弁のような位置取りをした。

五方向から均等に照らすことによって、巨人の手元に影を作らないようにするのだ。


(がしゃ、ありがとっ)

(ありがとなっ)

(ありがとーっ)


朱儀を中心にして巨人を操る三人娘は、照らされた石段をゆっくりと這い進んだ。

高度が上がるにつれて気温は下がり、石段に生えるコケの植生が変わってくる。


(あっ、やったっ、ヌルヌル、なくなってるっ!)

(あーぎ、いまだ、いけいけっ!)

(はーい)


別種のネトネトしないコケへと変わっていき、指の引っ掛かりが良くなると、朱儀は登頂スピードをぐんぐんと上げていった。


その頃になると石段の傾斜角度が、ゆうに七十度をこえており、もう石段というより梯子である。


朱儀は光る幽鬼を引き連れて、苦も無くそこを登っていった。

そしてついに霧の漂う高度を突き抜けると、その瞬間、皆で感嘆の声をあげる。


(わああああっ、きれいっ!)

(なんだこりゃ、すごいなっ!)

(まぶしーっ!)


(うわっ凄いっ、豆福ほら見てみなって、あれ? 寝ちゃってるの!?)

(すーすー)


巨人楽市のすぐ足元には、霧が雲海となり、地平の彼方まで続いている。


どこまでも続く雲海。

それだけでも見惚れるほどの景色なのに、西から差す夕日がその全ての雲海を、鮮やかな緋色に染め抜いているのだ。

空も山々も、何もかもが緋色である。


子供たちは夕日の眩しさに目を細めながら、うっとりとした。

特に、霧乃の顔がとろけている。


(ふあああ、すっごいきれい……ねえ、見て見てうーなぎ、すっごいよっ!)

(きり、こーゆーの、好きだよなー)

(うんっ)


夕日は見るみるうちに沈んでいき、反対の東の空が青紫に染まり始める。


低い位置には、白い月が見えた。

青紫はぐんぐん天球を覆っていき、西の空に消える緋色を追いかけていく。


天球を全て覆うと、その色を暗い紫紺へと変えていき、雲一つない懐に満天の星を煌めかせた。

巨人楽市がその真下で、頂上を目指して登り続ける。

 

頂上までもう少しっ! あと少しっ!


朱儀が最後の石段に手をかけて、巨人楽市の体を勢い良く引き上げた。

上半身まで一気に引き上げると、頂上の平たい岩場へその体をあずける。


巨人の肌を通して、岩の冷たさが心地いい。

その姿を、五体の幽鬼が照らし出す。


(はあはあはあ、あははっ)

(ふうふうふう、ふひひっ)

(やった、やったよっ、きりっ、うーなぎっ!)


雲海を越えて山頂にたどり着いた。

霧乃、夕凪、朱儀の三人は、心象内で抱き合って喜び、ぴょんぴょんする。


(やった、やった、ヌルヌルぜんぶ、のぼったっ!)

(かったなこれっ、やったぜっ!)

(すごい、すっごい、たのしかったーっ!)


豆福を抱く楽市が、三人娘に頬ずりしてベタ褒めする。


(霧乃、夕凪、朱儀すごいよっ、三人ともすごいっ!)


(へへへ……)

(だろー!)

(たのしかった!)


三人もひとしきり楽市へ体をこすり付けた後、夕凪が笑顔で、霧乃と朱儀の肩を抱きよせた。


(きり、あーぎ、もっかいだっ!)

(やるやるっ!)

(やるーっ!)


(いやいや、もういいからっ)


楽市が慌てて止めると、三人が信じられぬといった顔でむくれ始める。



    *



楽市たちが星空を仰ぎながらしばらく待つと、ホバリングするドラゴンたちが、次々に頂上へ姿を見せた。


ドラゴンの表情は読みづらくて分からないが、首をしきりに振って辺りを眺めている。


ちなみに人型がしゃたちは、未だヌルヌル階段で苦戦中である。


魚がしゃは途中で魔力切れとなり、石段を勢い良く滑り落ちていった。

恐らくスタート地点で、ピチピチと跳ねているだろう。


(さてとね……) ポンポンポポン ポポンポン


楽市が抱っこしている豆福のお尻を、リズミカルに叩きながらつぶやく。


(ヒノモトだったら、この奥に拝殿があるんだけどな……

こっちじゃ、どうなんだろ?)


楽市は幽鬼たちが照らし出す、闇の奥を見つめた――






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