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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
198/683

198 三幼女のあーだこーだ。


楽市たちが薄霧の中、コケの野原を行く。

目の前には、巨人楽市が黒壁まで作った滑り跡が、獣道のように続いていた。


そこを歩く。 ぬちゃり、ぬちゃり


細道からは、爽やかな青臭さが立ち昇る。

巨人楽市の後ろには、巨大スケルトンが付き従い、その上空にはホバリングしたドラゴンたちが追従していた。


そのドラゴンから守るように、楽市の頭上には、幽鬼と魚がしゃが旋回する。


魚がしゃは隙あらばドラゴンを襲おうと、尾ビレをひらめかせるが、巨人楽市が定期的に振り向いて、皆を見つめてくるので大人しくしていた。


昨日楽市からガッツリ怒られているので、今日一日ぐらいは持つだろう。


辺りの霧が薄くなって、様々なものが見えるようになっている。

まず細道の脇に、ちょっとした幅広の“霧の川”が流れていた。


(んん? これ霧なのっ!?)


そしてコケの野原には、大量の建築物の残骸。


(あれ? これってドラゴンたちが、林で抱えてたヤツじゃない?

すると飛んできたアレって、ここから!?)


上を見れば、左側にそびえる岩肌から、何やら突き出た大きな構造物。

少し距離があるので、霧にぼやけてよく見えない。


(んー、し……ろ? 城跡なのかな? あんなとこに? う~ん)


楽市は、立ち止まってもう少し観察したい。

しかし巨人楽市を任せた朱儀は、それらをチラ見しただけで、気にも留めず先へと進む。


巨人を操りながら、霧乃たちとヌルヌル階段の攻略を、熱心に話し合っていた。

子供たちからしてみれば、ヌルヌル階段で早く遊び……


いや北の森の意地を、見せ付けなければいけないのだ。

楽市は気になりながらも、前を向く。


(う~ん……)


 

そうこうするうちに、再び石段の前へとたどり着いた。


角が摩耗して、丸みを帯びた石段が遥か上まで続き、霧の中に消えている。

その表面には、ぬらぬらとした黄緑色の粘液が光っていた。


(あーぎ、ここはいいけど、きゅうになったら、手つかってこ)

(うんっ)


(ゆっくりで、いいぞっ)

(うんっ)


(ふあー、あーぎーっ!)

(まめ、あーぎに、まかせてっ!)おねいさんだからっ


朱儀は豆福に笑顔を見せた後、慎重に一段目へと足を降ろす。

がしゃたちと、ドラゴンがその後に続いた。


ぶろろろろろろろろろろろろろろっ!


三十分後、盛大にお尻で滑り落ちる、巨人楽市の姿があった。

遥か後方でもたもたする、がしゃたちに勢い良くぶち当たり、仲良く一緒になって滑り降りていった。


それを慌てて、幽鬼と魚がしゃが追いかけていく。

 

ぶろろろろろろろろろろろろろろっ

ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴーンッ


(やっぱり、うしろみると、あれだね)

(こーなー、ねじっちゃうと、なー)

(うーっ)


霧乃、夕凪、朱儀の三人が、滑り落ちながら作戦会議を始めた。


やはり登りながら定期的に後ろを見て、ドラゴンたちについて来いとアピールするのは、バランスを崩しやすく難易度がかなりあがってしまう。


(ぶろろろろろーっ)

(わー、豆福っ、足を広げるのは止めてーっ!)


林をメチャクチャにされた豆福が、ご機嫌ナナメなので、気を逸らすために落ちている間の巨人楽市を任せていた。


当然、朱儀のようにうまく操れないが、豆福は気にせず楽しそうである。

それに付き添う楽市は、あまり楽しそうではない。


(いやーっ、やめて豆福っ!)

(なーんーでーっ、ぶろろろっ)


楽市と豆福が騒ぐ横で、三人娘が案を出し合う。


(はじめから、くびだけ、うしろに、しちゃう?)

(きり、それだっ!)

(あー、それーっ!)


そして巨人楽市が、がしゃたちと一塊で黒壁の瓦礫にぶち当立って、リスタートとなる。


ヌルヌル階段の攻略はかなり難しく、これより霧乃たちは、何度もリスタートを繰り返すことになった。

 

それでもめげないっ。

これには、北の森の尊厳がかかっているのだっ!


というか、凄く面白かった。

あーだこーだ試してみて、それがうまく行くのが楽しい。


前よりも進めて、まだコケが潰れていない石段に手をつき、そこから先へ進むのが楽しかった。

なんだかそれが、とっても面白いのだ。


こうして階段登りのノウハウ、スキルが溜まっていき、三人娘のアイデアを補完していく。


七度目の挑戦っ。

かなり角度の付いた石段を、指先と足先に全神経を集中させて、ロッククライミングのように、這い進んでいく。


左手の中指が、石段の僅かな窪みにかかった。

そこを起点にゆっくりと体重移動させたとき、右足の親指がぬめりで滑ってしまう。


(あっ)

(むっ)

(うわっ)


巨人楽市は崖から落下するように石段を滑り、途中のがしゃたちを跳ね飛ばす。

そのままの勢いで、ぐんぐんスピードを上げて落ちていった。

 

今回はかなり、先に進めていたのだ。

それなのに、また一からやり直しである。

さぞかし皆、落胆しているかと思えばまるで違っていた。

巨人楽市の中から、笑い声が聞こえる。


(これいけるっ、つぎ、いけるよっ! あはははっ!)

(あー、いまの、よかったなあっ! ふひひっ!)

(あーぎ、わかっちゃったっ! なんか、わかっちゃったっ!)


(まーかーせーてーっ、ぶろろろろろろろっ!)

(足はもう……うう……お願いやめて……)


喜びと、

興奮と、

嘆きを乗せた巨人楽市が、

 

黒壁の瓦礫へ盛大にぶち当たる――











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